リア充に話しかけるのが一仕事

 その後俺は竹島先輩のことが気が気でなく、いまいち授業に集中出来なかった。誰か先輩の噂について知っている人はいないか、と思ったがそもそも俺にはろくに知り合いがいない。サッカー部に聞いてみれば分かるだろうか。普段全く話しかけない俺が急に話しかけたら変に思われるだろうな。しかも出来れば俺と内海が付き合っていることは伏せて話したい。


 そんなことを思い悩んでいるとあっという間に午後の授業は終わった。俺は意を決して部活に向かおうとしているサッカー部のクラスメイト、中山のところに向かう。

「あ、あの……」

「ん、どうした?」

 中山はやや怪訝そうに振り向く。くそ、こんなときちゃんと話せない自分が恨めしい。


「その、田島先輩の中学のときの噂なんだが……」

「あー、お前やっぱり内海と付き合ってたんだな」

 中山は俺が口ごもっている間に言いたいことを察してしまったようだった。もはやばれてしまっているが、ここまでくれば話が早いということにしておこう。


「それでどうなんだ?」

「俺も噂でしか聞いたことないな。先輩と同じ中学から来たやつもわざわざ言いふらしたりはしないからな」

 確かに頼まれもしないのにそんな噂を流す奴はそれはそれでクズだ。それでも中山は懸命に記憶をたぐって有益な情報を思い出そうとしてくれる。

「でも、何か今週末に決めるとか言ってはいた気がする」

「ありがとう、恩に着る」


 求めていたのとは違うが、それはそれでありがたい情報だ。今日は火曜日。今日明日でどうこうということはないだろう。俺はとりあえず家に走った。いつだって俺が困ったときに相談する相手は兄貴しかいない。息を切らして帰宅すると、カバンを放り出して兄貴の部屋へと走る。

「兄貴、助けてくれ」

「お前、彼女を作る前に友達とか作っておいた方が良かったんじゃないか?」

 俺が部屋に飛び込んでいくと兄貴は嫌そうな顔をした。昨日も兄貴に頼ってしまったからな。というか今まで内海が友達ポジションにいたのだから仕方ないのではないか。


「内海がサッカー部の先輩に告白されそうなんだ」

「それを俺に言ってどうしろと」

「そいつは、中学のころ告白を断った相手に暴力を振るったという噂があるらしい。本当かどうかも分からないし、仮に本当だとしても今は高三だから分別があるって信じたいんだが……」

 俺は勢いで整理しないまましゃべってしまう。兄貴は呆れながら聞いていたが、すぐに一言、

「なるほどな。だがそもそも内海ってやつが告白を断るって決めつけるのがそもそも傲慢なんじゃないか?」

「は?」

 俺は思わず兄貴を殴りそうになるのを何とか抑える。このときの俺はさぞ殺気だっていただろうが、兄貴は動じなかった。多分俺以外の人間がこのテンションで迫ったら兄貴はきょどる。


「だってそいつは陽キャリア充の本丸、サッカー部のキャプテンなんだろう? お前と比べてどっちの方が男として魅力的なんだよ」

「それは……でも、内海がそんな訳っ」

「知らねえよ。俺はそいつの知り合いでもないしな。ただ、リア充野郎に女を渡す訳にはいかないだろ。お前はただのカードゲームオタクだ、せめて男らしさぐらいは見せないと陽キャリア充には勝てねえぞ」

「え?」

 単に俺をディスっていた兄貴の雰囲気が変わる。いつもなら彼女とイチャイチャしている俺に向けられる兄貴の敵意は、まだ見ぬ竹島先輩に向いていた。


「俺はお前が彼女とイチャイチャしているのも嫌だが、糞陽キャが彼女作って浮かれてるのがこの世で一番嫌いなんだよ」

「分かった。兄貴のおかげで目が覚めた」

 どうもこれは兄貴なりに応援してくれていたらしい。

「まああれだ、寝取られたらいつでも慰めてやるから。むしろ何か色々揉めた挙句みんな別れねえかな」


 最後に台無しになるような台詞を言っていたような気がするが、聞かなかったことにしよう。そうと決まれば後は方法か。どうする。

 いっそのこと俺と内海の関係を大々的にばらして先輩の手出しを封じるか? 悪くはないが、一応最終手段ということにしておくか。もう三好や中山にばれている以上時間の問題のような気はするが、出来れば内海に迷惑がかからない方法で解決したいからな。

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