リア充は無駄に観察眼が鋭い

 翌朝、俺はいつものように家を出た。今日も内海が待ち構えているかと一瞬期待したものの、さすがに今日はいなかった。まあ、別に家が近い訳でもないし毎朝来るのは大変だろうからな。

 しかし昨日の内海の記憶の捏造はひどかったな。記憶の中の俺めっちゃイキってたじゃん。そんなことを思いつつ電車に乗って学校に向かう。


 すると、例によって校門から少し離れたところで内海がスマホをいじりながら佇んでいた。もしかして俺を待っているのだろうか、しかし何でこんなところで。意図は分からなかったが、とりあえず内海の方に歩いていく。


「おはよう」

「せ、先輩じゃないですかっ!」


 内海は俺の声にびくりとしてこちらに振り向く。俺のことを待ってたのに何でそんなに驚いてるんだ? それとも実は俺の勘違いだったのか、などと思っていると内海はおもむろにスクールバッグの中から一つの袋を取り出す。見た目はただのコンビニの袋だが、中には何か入っている。


「~~んっ!」

 内海は何か言いたげにしつつも言葉にならないといった様子で俺に袋を差し出す。まるでカンタ(トトロ)のようだ。しかも自分で恥ずかしくなったのか、目をそらす。当然俺は何が起こっているのかさっぱり分からない。


「これ何?」

「なっ、私の口から言わせるって言うんですかっ」

「だって聞かないと分からないだろう」

「付き合っている女子が学校の前で渡すものなんて弁当しかないじゃないですかっ///」

 内海は顔を背けたまま顔を真っ赤にして言う。


「そんな付き合っている男女あるあるを言われても分かる訳ないだろ。分かったありがとう。でも一体なぜ急に?」

「それは……一応昨日のお礼ということで……」

 あれ? 昨日何かしたか? ブックオンでデュエルして食事して帰った。むしろパフェをあ~んしてもらった方がお礼しないと……と思ったところで思い出す。そう言えば一応あれ俺の奢りだった。付き合いたてで男が奢るなんて当然なのに、と思うがそういうところが内海なのだろう。それならありがたくもらっておくか。


「ありがとな」

「は、早くしないと遅刻しますよっ」

 俺が受け取った瞬間、そう言って内海は走り去っていった。時計を見たが、今の立ち話で一分ぐらいしか経っていない。全然遅刻する時間ではなかった。


昼休み

 俺は普段は購買でパンを買って食べることが多い。世間ではボッチ飯を見られるのが嫌でトイレで食べている者もいるらしいが、俺はあくまで目立たない陰キャオタクの地位を確立していたので普通に教室で一人で食べている。それで陰口をたたいてくる者もいない程度には俺は目立たない。陰キャボッチだからといって変におどおどせず、堂々としていればいいというのが俺の心情だったが今日はそれが仇になった。


 いつもは無感動に迎える昼休みだったが、今日は内海からもらった弁当があるので多少テンション高めに迎えた。そしていつものように堂々と昼食を机に広げて食べ始める。

 内海が作ってくれた弁当は二段の弁当箱になっていて下はおかかと醤油とのりが入ったいわゆるのり弁、上がおかずとなっていた。おかずだが、唐揚げとコロッケ、申し訳程度にほうれん草のお浸しがついている。きっと俺が男だからボリューム重視の献立にしてくれたのだろう、などと考えていると。


「おい越水、何でお前愛妻弁当持ってるんだよ!」

 一口目を口に入れる前に隣の三好が絶叫した。だからいちいち大声でしゃべるのやめてくれ。教室中の注目が集まってくる。


「違うって。今日は母さんがたまたま休みだから作ってくれただけだって」

 一応週一ぐらいでそういう日もある。だから俺の言い訳は整合性があるはず、なのだが。


「嘘つけ。いつもと弁当箱が違うぞ。しかもこれ、女子のデザインだし」

 言われてみれば弁当箱は赤色で花柄だった。男か女かで言えば女物である。俺ですら気づいてなかったんだが。一説によるとリア充は女子の些細な髪形の変化にも気づくという。何てハイスペックな観察眼を持ってやがるんだ。

 それより今は言い訳を考えなければ。


「……いつものは今日だけ兄貴が使ってるんだよ。それで家にあった余りを使っただけだって」

 俺の言い訳を三好がジト目で見つめてくる。男子のジト目とか何の得にもならないからやめて欲しい。


「普段ならそう思うんだけど、内海と歩いているところを目撃した後だからなー」

 何でもかんでも恋愛に結び付けるんじゃねえ恋愛脳め、と思ったが残念ながら正解なので何も言えない。


「俺は一人で食ってるからあんまり邪魔しないでくれ」

 結局、俺は一切言い訳をしないという強硬手段でその場を乗り切った。周囲からは「付き合ってるなら一緒に食べるでしょ」「あんなに陰キャオーラだしてるのに彼女がいる訳ない」という声が聞こえてきたが喜んでいいか悲しんでいいか分からなかった。


 放課後、俺は例の校門から少し離れたところで内海を待っていた。

「ど、どうでした……?」

 内海は俺の顔を見るなり小声で問いかける。

「おいしかった。俺が男だからって男っぽいメニューにしてもらって悪かったな」

 すると内海の顔がぱっと明るくなる。

「それなら良かったです……///」(唐揚げは普通に私の好きな物なんですけど)

「ありがとな」

 そう言って俺は弁当箱を返す。弁当の味がどうというよりはこうして作ってくれたことが嬉しい。そう思った。

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