何で人の記憶って美化されるんだろうな
俺は食事を終えたところでふと思い出す。そう言えば今朝、内海が俺のことを好きになった理由を聞いてなかった。
「ところで内海はいつから俺のことが好きになったんだ?」
「ぶほっ」
不意に内海が咳き込む。
「ごほっ、ごほっ、せっかく朝はうまく逃げ切ったと思ったのに」
そんなこと考えていたのか、許せん。
「何だよ逃げ切りって。今のところ俺しか話してないだろ」
「~~っ、でも恥ずかしいです……///」
そう言って内海は俯く。ちょっと可愛さに躊躇してしまいそうになったが俺は心を鬼にして尋ねる。
「でも俺が言ったら言うって言ってただろ? いつも一度した宣言は取り消せないみたいに言ってたじゃねえか」
「分かりました……話しましょう」
***
それは私が中一、先輩が中二の出会ったばかりのことである。そのとき私たちはカードショップの小さい大会に参加していた。
ただ、当時デュエルを始めたばかりだった私はあまり強くなく、一戦目で当たった大学生ぐらいのガチ勢に惨敗した。しかもそいつはたまたま機嫌が良かったのか悪かったのか、私のデッキの論評を始めた。
「その程度のデッキじゃまだまだだな。今の環境でメタビートを組むのに『強者の激痛』『狼ワンフー』も入ってないのはいただけないね」
「いや、でもお金がなくて……」
『強者の激痛』はゲームか何かの特典カードでかなりの値段がついていた。『ワンフー』も昔のカードだったが、最近の環境に刺さると話題になり、急に値段が高騰した。どこのショップでも千円近い値段がする。
「言い訳は良くないよ。大会に出るからにはベストなデッキを組まないと。大体、『ガジェット』シリーズもちょっと古いよね。とりあえずこれを全部抜いて……」
大学生は好き勝手私のデッキを論評する。ただ、態度が悪いことを除けば言っていることはまあまあ正論である。そのせいで私は反論できなかった。そこに現れたのが先輩だった。
「おい、勝ったからって他人のデッキにケチつけてんじゃねえよ」
先輩は年上の大学生相手にもものおじせずに話しかける。
「何だお前は」
大学生が苛ついた声で先輩を見る。
「大体お前のデッキなんて金で最新のカードを集めただけのおもしろみのないデッキだろ? そのデッキ、前にインターネットで見たぞ」
「ちっ、中学生風情が偉そうによう。最新の流行を抑えてないデッキに価値なんてねえんだよ。文句があるなら俺に勝ってみな」
「そこまで言うならこのデッキでぼこぼこにしてやるよ。とはいえ、そのまま使ったんじゃ芸がないから三枚だけカードは入れ替えるが」
「いいだろう、返り討ちにしてやる」
そう言って先輩といけすかない大学生は大会そっちのけでデュエルを始めようとする。私は心配になって先輩に声をかける。
「先輩、気持ちはありがたいですけど無茶です。あの人、態度は悪いですが本当に強いです」
「大丈夫だ、あれは所詮墓地利用デッキ。墓地封殺カードを三枚入れれば勝てるはずだ」
「でも、四十枚のデッキから初手で三枚入れたカードを引ける確率はそんなに高くないです……」
少なくとも、18/40(手札五枚と一枚ドローの初手六枚で三枚を引くから)よりは低いはずだ。だが、先輩は力強い表情で頷いた。
「俺はデュエリストだ。一割も確率があれば引き当ててみせる」
「先輩……」
その後先輩はその大学生相手に無事墓地封鎖カードを引き当て、勝利した。デュエルが終わった後、大学生は愕然とテーブルに手を突いていた。
「くそ……なんてことだ」
「ネットで見つけてきたデッキをそのまま使って勝てるならデュエルなんて苦労しねえんだよ。相手が対策カードを入れてくることを見越して除去魔法を入れるんだな」
「く……覚えとけよ」
そう言って大学生はどこかに去っていった。このときの先輩はすごく格好良かった。
***
「……ということがあったんです。それ以来先輩のこと格好いいなって///」
と、もじもじしながら語る内海。その話を聞いた俺は色々言いたいことがあったのだが、何よりも思ったことは一つ。
「そこに出てくる先輩って誰?」
何か全く記憶にないんだけど。ていうか言動だけ聞いてるとめっちゃ痛いんだが。内海の記憶にある俺って何様だよ。『俺はデュエリストだ。一割も確率があれば引き当ててみせる』て何だよ。デュエリストなら確率なんてあやふやなものよりも論理的思考に頼れよ。絶対そんな感じじゃなかったぞ。
が、内海は素で首をかしげる。
「え、先輩は先輩ですよ?」
「うん、まあそれでいいならいいや……」
こうしてなぜか内海の記憶を紐解いた結果、俺までダメージを受けたのであった。ちなみに俺の記憶だとメタカードを九枚入れてデュエルに臨んだ気がするが、それは俺の記憶にしまっておこう。
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