出会い

 さて、何だか変なことになってしまったが、そもそも俺と内海の出会いは俺が中二だったころに遡る。


 俺は小学校高学年のころからひたすらカードショップに通い詰める日々を送っていたが、多分内海は俺が中二のころにはすでにいたような気がする。気がする、というのは中学のころはまだデュエリスト仲間や、名も知らぬ他校のライバルが何人もいたので内海はそのうちの一人というぐらいの認識しかなかったし、もっと言えば名前すらも知らなかった。

 逆に言えば同じ中学の友達は次々にデュエリストを卒業しており、俺の相手は他校の生徒ばかりだった。内海も中学は違うところだった。


 ある日俺がカードショップに行くと、その日はたまたま他に誰もいなかった。たまたま誰も来ない日もあるが、単に学校で何かあって来るのが遅いだけの日もある。仕方がないので俺は一人でカードを眺めつつ待つことにした。

 すると、そういう日に限っていつも現れないような金髪チャラ男リア充がギャル彼女とともにやってきた。このお店はカード以外にゲームなども売っているため、時々こういう場違い(俺の主観)な奴がくることもある。俺は全く気にしていなかったが、急に男が俺を指さして耳ざわりな声で言った。


「おい、あれ越水じゃん。あいつ一人でカード見てるとか陰キャボッチオタクかよw」

「えー、まじ?w 超受けるんだけどwww」


 彼らの声を聞いて瞬間的に体が強張るのを感じる。特に奴らが人間的に優れているとは思わないが、スクールカーストというものが染みついてしまった俺の身体は本能的に奴らを格上と認識してしまうのだろう。腹立たしいがどうにもならない。くそ、面倒なのに絡まれた。

 どうする? このまま気が付かない振りをするか? 別に奴らは何か考えがあって言っている訳ではない。屈辱的だが、気づかない振りをしていればそのうち立ち去るだろう。そう思って沈黙していると。


「あー、越水さん! すみません、お待たせしてしまって!」


 そう言って俺の元に駆け寄ってきたのが内海だった。しかも顔には普段からは想像出来ないような笑顔を張り付けている。まるで彼氏に駆け寄る彼女、それもかなり付き合い立てのような感じだ。別名ぶりっ子である。明らかにいつもと違う雰囲気に俺はしばし呆気にとられる。


「何あの娘、ちょっと可愛いんだけど」

 が、そんな内海を見た金髪チャラ男とギャルが驚いているのを見て、俺は茶番に乗ることにした。

「もう、遅いじゃないか。待ちきれなかったぜ」

 内海の顔を見ていると、不思議と先ほどまでの緊張は解けていた。

 ちなみに下の名前で呼ぼうと思ったが当時知らなかったのは秘密である。内海は俺の側まで歩いてくると、めっちゃ仲いいですよみたいな雰囲気で俺の腕に大げさに抱き着く。制服越しに体温が伝わってくる。振りとはいえ、急に接触されて不覚にもどきりとしてしまう。


「げ、あいつ他校の彼女いるのかよ」


 急にビビり出すチャラ男。何でかはよく分からないが、当時他校の彼女がいるのはすごいみたいな風潮があった。そしてそれを見て不機嫌になるギャル子。

「え、ちょ、ウチより他校の彼女の方がいいって言うの?」

「いや、そういうことじゃないって」

「でもさっきあの娘に可愛いって」

 みるみるうちに険悪になるチャラ男とギャル。こいつら別れればいいのに、と思っているとさっさと去っていってしまった。


 後に残された俺はほっと息を吐く。

「ありがとう、協力してくれて」

「いえ、何か不快だったので。……あ、すみません」

 そう言って俺の腕からぱっと離れる。その様子を見ているといつもの内海で、さっきまでのぶりっ子していた彼女が嘘のようである。


「そう言えば……その、名前」

「えー、私名前すら認識されてなかったんですか? 内海です、内海葵」

 内海はわざとらしく不機嫌そうな顔になる。

「すまんすまん、今後よろしくな内海」

「とりあえず、名前を忘れないために早速デュエルしてもらいましょうか。二度と忘れられないようにしてあげますよ……敗北の記憶とともに、ですが」

「ほう、随分大きく出たもんだな? 覚えておいてやるよ、大口を叩いてきたけど実力は飛んだカマセだったってな」


 その後俺たちは何度も対戦して、どちらかが勝つたびに「これは二本先取のマッチ戦だから」とか「今のはネタデッキだったからガチデッキでもう一回」とか言い訳しては再戦を繰り返した。勝ったり負けたりしたが全体では五分五分ぐらいだったような気がする。


 この日以来、何となく俺と内海はライバルのような関係になった。ショップに何人か人が集まっていても、内海とデュエルすることが多くなったような気がした。まあ、まさか他の仲間が皆ショップから消えて二人きりになるとまでは思っていなかったが。

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