お調子者キャラのクラスメートは時々うざい
俺はいつものように二年一組の教室に入っていく。休み明けのためか、微妙にテンションが低い人が多い。俺も教室に入ると一気に気だるさがこみあげてくる。
「ふああああ~」
「お、越水! お前聞いたぞ」
が、席につくなり隣の席の三好が話しかけてくる。三好陽之。名前の通りお調子者の陽キャである。別に仲がいい訳ではなかったが、誰にでも仲良さげに話しかけるタイプであるため、俺も時々会話ぐらいはする。
「え、何を?」
「この前ミラポで一年の内海と二人きりで仲良さげに歩いてたってまじ!?」
「ちょっ、声でけえよ」
別に悪い奴ではないし、俺みたいな陰キャにも分け隔てなく接してくれるいいやつではあるんだが、この時ばかりはこいつの性格が憎くなる。しかもナチュラルに大きい声でしゃべるから結構周りにも聞こえてしまっているはずだ。
しかし同時に疑問が湧いてくる。俺は同じクラスだが、内海は一年なのに何でこいつが名前知ってるんだ? ちなみに内海は部活にも入っていないと言っていたからそういう繋がりもないはずだ。
「悪い悪い、で、どうなんだ?」
ようやく三好が声を潜めてくれるが、すでにクラスの何人かがこちらに注目している。こうなった以上俺にはシラを切ることしか出来ない。
「人違いだって」
「いや、人違いな訳ねえよ。お前は隣の席で見慣れてるし、内海を間違える訳ないだろ?」
どうなんだ、と聞きつつ確信してるじゃねえか。俺は懸命に話題そらしを試みる。
「あいつってそんなに有名人なのか?」
「あいつ?」
「あ」
普通に考えて「あいつ」ていうのは面識のある相手に対して使う呼称である。これでは知り合いであることを暴露したも同然だ。語るに落ちるとはこのことである。途端に三好がニヤニヤし始める。
「もう観念しろって」
「……違うって。たまたま会っただけだって」
反射的に否定してしまう。
「そうか~? たまたま会ったにしては仲良さそうだったが?」
「それは、ほら、よくたまたま会うから」
俺も自分で何を言っているのかよく分からない。何か三好が完全に「あー」みたいな顔になっているので俺はもう一度話題を変えることを試みる。
「それで、内海は何で有名なんだ?」
三好も俺の反応を見て満足したのか、これ以上の追撃は勘弁してくれるらしい。もう遅いがな。
「しらばっくれやがって~。あいつ中学のころ、ミスコンで優勝したんだぜ?」
「まじか」
言われてみれば確かに可愛い部類ではあるが。全然イメージがわかない。
「今でも高一で一番モテるって噂なんだぜ」
「え、そうなのか?」
「そうなのかじゃねえよ。お前も二人で歩いてた癖に。でも放課後は週に二、三日バイトがあるって言ってるし、誰とも付き合わないしで怪しかったんだよな。でもそういうことだったのか」
それは単にカードショップに通ってるだけじゃねえか。普通高校生でそんなに放課後にバイトしないが。というかこいつ他学年なのにやたら詳しいな。
「心配するなって。そういうことなら手を出そうとする奴がいたら止めてやるよ」
「いや頼むから言いふらさないでくれ」
ありがたいのはありがたいが、迷惑の方が大きい。
「そうか? まあ色々あるもんな! 頑張れよ!」
三好は勝手に納得して去っていったが、すでにクラスメイトの何人かが訝しげにこちらをちらちら見ている。くそ、災難だった。でも言われてみれば、普段の内海がどうしているのか気になるな。ちょっと見にいってみるか。
その日、休憩時間に早弁を完了した俺は(休憩時間はすることがなくて暇なのである)、昼休みに一年の教室を見にいくことにした。二年生がうろうろしていたら変に思われるが、俺は目立たないので多分一年生には認識すらされてないだろう。
「ねえ聞いたよ、葵また告白断ったんだって~?」
ギャルっぽい茶髪の女子が内海に話しかけている。その隣にもう一人、運動部っぽいジャージの女子がいる。あれがリア充グループだろうか。教室内には複数のグループが出来ているが、何となくあの三人がその中でも最上位のように見える。自分のクラスに置き換えてみると注目が大きいのは理解出来た。
「え、何で知ってるの、も~」
え、あのちょっとぶりっ子しながら否定しているのが内海なのか? それとも実はあれが素なのか? 何というか、デュエルの時ともデートの時とも表情が違うんだが。
「だって葵可愛いのに恋人いないから」
今度はジャージ子が言う。まあ、可愛いけど中身デュエリストだからな。俺は自分だけが知っている情報で脳内マウントをとる。
「だからバイトが忙しいからって言ってるでしょ? 大体あんただって恋人いないじゃん」
このちょっと慌てている感じはデートの時の内海っぽいな。
「いや、あたしは部活忙しいから」
否定するジャージ子。それを見てギャル子の追撃の矛先はジャージ子に移ったらしい。
「とか言って本当は部活の中にいるんじゃない?」
「違うって~」
その後三人はしばらくジャージ子が部活内の誰と親しいかで盛り上がっていた。なるほど、リア充というのはこんな感じなのか。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。