日常会話でカウンタートラップを発動するのやめて欲しい

「ふああ……眠い」

 週明け、俺はいつも通りの朝を迎えた。内海に告白されたのは予想外だったが、付き合っている男女が一般的に何をすればいいのかが俺にはよく分からない。

 ♡とか絵文字がふんだんに使われたラインが届くのかと思ったが、蓋を開けてみれば連絡すらまるでなかった。もしやからかわれただけだったのだろうか。そんな懸念すら芽生えてくる。


「まあいいか、どうせまた放課後会うんだろうし」

 というかそもそも内海は何がきっかけで俺のことを好きになったんだろうか。自慢じゃないが俺はデュエルが強いこと以外に特に取り柄はない。というか、デュエルが強いのは高二だと取り柄とは言えない(悲しいが)。

 そんなことを思いつつ俺は家を出る。うちは普通のマンションだが、エントランスを出るとなぜか内海の姿があった。


「おわっ、内海!? 奇遇だな」

 すると内海はこちらを向く。なぜか俺の言葉にむっとしたような顔になる。日曜日の夜に夜更かししたせいか、目の下に隈がある。週末ってついつい夜更かししちゃうよな。

「おはようございます、先輩。でもこんなところで本当に奇遇で通ると思いますか?」

「え?」

 というかいつもショップを出て帰るとき、方向違ってたからな。


「迎えに来たんですが」

「えええええええええ!?」


 思わず俺は大声を上げてしまう。通勤に出るサラリーマンたちがちらちらとこちらを見ながら通り過ぎていく。恥ずかしい。内海はそんな俺の反応に甚だ不本意そうな顔をする。

「驚きすぎじゃないですか? 付き合った男女が一緒に登校するなんて」

「わ、悪い」

 正直、放課後まで会えないかと思って少し残念に思っていたところなので素直に嬉しいと思う。

「という訳で行きますよ」

「お、おお」


 歩き出したのか、内海も緊張しているのか口数が少ない。せっかく一緒に歩いているのに俺たちはつい無言になってしまう。元々俺はデュエル中とかカードに関すること以外には口数が少ないタイプだしな。

 とはいえ、それでずっと無言でいるのももったいない。何か話題はないだろうか。いや、ちょうど聞きたいことがあったんだった。


「なあ、ところで内海は何で俺のことが好きなんだ?」

「うえっ、げほ、ごほっ!」


 俺の質問に急に内海はむせた上せき込んだ。

「大丈夫か?」

「ごほっ、大丈夫じゃないですよ! い、いきなり何てこと聞くんですか! そんなこといたいけな後輩の女の子に言わせるんですか!?」

 内海が顔を真っ赤にしてまくしたててくる。

「だって俺たちって恋人というよりは遊び相手という感じだっただろ? だから聞いておきたくて」

「そ、それはそうですが……だからって……ん? いや、これはチャンスなのか?」

 内海は急に何かをぶつぶつと自問自答し始める。そして自分の中で解決したのか、一つ咳払いすると再開する。


「こほん、分かりました。そこまで言うなら答えてあげましょう。ただし先輩がなぜ告白をOKしたのかを教えてくれた後に、ですが!」

 そう言って内海は俺にびしっと指を突き付けてくる。何だと!? これは見事なカウンターを決められてしまった。


「な、何だと!?」

「だ、だ、だって先輩、違う人が好きだって言ってたじゃないですか!」

「そ、それはそうだが……」


 確かにそう言われると困るな。何気なく聞いてしまったが、思いのほか恐ろしい話題だったということを俺は理解する。え、これ答えないといけないのか? でも俺から話を始めておいて今更やっぱやめとこうとか許されないよな。これは恐ろしいカウンターだ。俺はもうどうにでもなれとばかりに宣言する。



「そ、それは……デートの時のお前が可愛かったからだ!」

「え……うそ……///」



 俺の決死の反撃に、カウンターを決めたはずの内海が轟沈する。恥ずかしそうに俯いている内海は可愛いが、言った俺も恥ずかしくなってくる。これはカウンター返しというよりは刺し違える形になってしまった。


「何というか……その……ありがとうございます……?」

 内海は消え入りそうな声で言う。変な策を弄さずにずっとこの感じでいった方が可愛いのにと思わなくもないが、この可愛さはギャップから来ているのだろうか。

それからしばらく俺たちはお互いが恥ずかしくなって黙り込む。そのうちに学校が近づいて来る。


「じゃあ、この辺で」

「そ、そうですね」


 俺は学校ではカードゲーマーであることすら隠しているため、ただの目立たないモブ陰キャとして認識されている。そこに可愛い後輩と一緒に登校していることがばれれば、悪目立ちしてしまう。しかもなれそめを聞かれれば俺が高二であってもショップでカードゲームをしていることまでばれてしまう。

 おそらく内海もカードゲーマーであることを隠しているのだろう。俺たちは校門から離れたところで手を振って別れると、あえてタイミングをずらして校門をくぐるのだった。


そして俺は気づく。

内海が俺を好きになった理由聞くの忘れたあああああああああ

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