付き合ったはいいけどお互いどうすればいいか分からない件

内海葵の悶絶

「あああああああああああああああああああ、何でこうなったんだ~っ!」


 映画デートから帰宅した私はベッドの上で悶絶していた。いい方向にとはいえ、大幅に予想とは違ったことになってしまっている。

 そもそもの私の予想だと、残念ながら先輩は私をただのデュエル相手としてしか見ていない。そしてデートの最中の反応を見ている限りその様子はおおむね当たっていたような気がする、残念ながら。


 私はそんな鈍感な先輩には好意を知ってもらいたかったため策略を立てた。いくら何でも告白の練習に対してOKすれば、先輩とて私が好意を持っていることを認めざるを得ないだろう。

 その後私の好意に気づいた先輩を少しずつ攻略する予定だった。服を選ぶ云々の話もそのつもりで出したのだった。いくら先輩とデュエルしても異性として意識されることはないので、それ以外での関わりを増やしていきたかったのだ。そう、あれはあくまでとっかかりを作るためにやったのに。


 それがなぜかいきなり終わっていた。デュエルしようとして手札を引いたらいきなりサレンダーされたようなものである。

 ていうか、普通に考えていくら何でもあの流れでOKするだろうか? 

 そもそも好きな人が出来たとか言っていたのに、先輩ちょっと流されやすすぎないだろうか? 

 あ、やっぱりなしで、とか言われないだろうか? 

 うん、うまく行きすぎてだんだん不安になってきた。もし本命の人と会話なんかしてしまったら、またそちらに流されてしまうのでは? ここは先輩が動揺しているうちに畳みかけるか?


 そこで私は先ほどのやりとりを思い出す。

「というか、お前俺のこと好きだったのか?」

「……はい」


「あああああああああああああ、やっぱり恥ずかしい~! 私これからどんな顔して先輩に会えばいいんだろう!」

 恥ずかしさにかられた私はベッドの上にいたクマのぬいぐるみをぽふぽふと殴りつける。そんな訳で、土曜日の夜は私がベッドの上をごろごろするだけで更けていった。


 幸い、日曜日はバイトが入っていたので余計なことを考える間もなく終わっていった。ちょっと上の空でミスは多かったけど、もし予定が何もなければ私は一日中悶えていたかもしれない。


 バイトが終わったところで私はようやく落ち着いて来る。幸か不幸か、先輩とは学校ではほぼ会ったことがない。もっぱら、放課後にカードショップで会うだけである。

 でも、普通にカードショップで会って普通にデュエルとかしていたら、また普通の関係になってしまわないだろうか。仮にあのときデートで何となくテンションが上がってOKされてしまったとしても、異性からデュエリストに認識が戻ってしまう可能性がある。それは困る。


 そうだ、ここは畳みかけるしかない。非情だがデュエルの世界に逆転はない。均衡していた戦いに生まれたちょっとした有利不利、カード一枚のアドの差から決着がついてしまうことが多い。今私はよく分からないけど告白をOKされて有利な状態になっている。ここから一気に決めてしまわなければ。


 幸い、私は先輩の家を特定している。いつか先輩と付き合ったら家まで迎えに行こうと思って、帰宅する先輩の後をつけて場所を調べたことがあった。もしかしたら先輩は今頃告白をOKしてしまったことを後悔しているかもしれない。が、そこで私が家まで迎えに行くことでその揺らぎを封じ込めることが出来る。

 そうだ、考える時間を与えてはいけない。勢いでこのまま押し切らなければ。家まで行くのはちょっと遠いけど、昼休みに二年生の教室まで行くことに比べれば全然平気だし。


 そう決心した私は明日早起きして先輩の家に押しかけることに決めた。……そう決意した瞬間緊張で眠気が吹っ飛んで寝られなくなったけど。

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