第6話「全員揃って」

「さて、せっかくこうして会ったのだし、皆で夕飯にでも行く?」

 健一が隆生達に尋ねると


「は~い。でも十一人入る場所あるかなあ?」

 美咲がそんな事を言った。


「は? ここにいるのは九人だろ。僕達二人と、兄ちゃんと姉さん達が七人で」

「え~、そこの物陰にいる綺麗な女性と、ミルちゃんの隣にいる元カノさんは仲間外れですか~?」

「は?」



「あ、香織姉ちゃん? まだいたんだね」

 チャスタは香織がすぐに戻ってきて物陰からずっと見ていたのを気配で察していたが、気づいてないフリをしていた。


「う、バレたか。いやちょっと気になる事があってね」

 香織が気まずそうに言う。


「やっぱ健一さんの事が?」

「そうじゃなくて、いくつかね」

「?」



「みっちゃん、そこにいるの?」

 健一はミルの隣を見つめる。


「えっとね、美幸お姉ちゃんはね、お兄ちゃんとの思い出の場所に行きたかったんだって」

 ミルがそう言うと

「本当に見えて話せるんだね。でないと名前が分かるわけない。あ、もしかして美咲も?」

 健一は美咲の方を向いた。

「見えませんよ~。でもずっと一緒にいたからか、なんとなく分かるんですよ~」

「そうか。僕もまた会いたいな。あれは夢じゃなかったんだし」


「あの、会えるようにできますよ」

 ユカがいきなりそんな事を言った。

「へ?」


「実はこの子だけでなく、わたしと姉も見えてるんです」

「ええ、うちの家系って霊感強い人が多くて。それで霊能力者みたいな事も出来るんですよ」

 ユカとミカが続け様にそう言った。


(以前聞いたが、シルフィード王家の血筋はそういった人が多いとか。だからそれは嘘じゃないけど、幽霊を見えるように出来るとは聞いてないぞ?)

 隆生が心の中でそう呟き、首を傾げる。


「へ、へえ。で、その霊能力とかで見えるように出来るの?」


「はい。じゃあちょっと」

 ユカは一瞬ミカとアイコンタクトした後


「スンナトイニトチミラノイミニカニトチミミラノチスチモニモニカチニミラ、スンナトイニトチミラノイミニカニトチミミラノチスチモニモニカチニミラ」

 手を合わせて呪文を唱え始めた。


「なんでか知らんが、この呪文を聞いてるとムカついてくるんだけど?」

 隆生がそう言った時


「隆生さん、優美子さん。おそらく美幸さんなら仮初めの体に入れるかと」

 ミカが小声で二人に話しかけた。


「ああ、健一がうちの一族の事を知らない事は言ってないけど、雰囲気で察してくれたんだね?」

 隆生も小声で言う。

「ええ、知られたら後々困ると思って。これなら誤魔化せるかと」

 

「ありがと、分かったよ」


「トチチクナカチスニカラモラ、コチスチミラトイノチニクイ!」

 ユカが手をかざした時に合わせ、隆生と優美子が神力を放った。


――――――


「あ、本当に体が?」

 美幸さんが実体化した。

 へえ、結構美人さんだ。


「みっちゃん……」

 健一は目を潤ませていた。

 どうやら前にも会っていたようだけど、また会えてよかったね。


「お久しぶりですね~、また会えて嬉しいです~」

 美咲さんは軽い口調だな。もっと驚けよ。

 てかあんたも会った事あるんか?


「えと、え? あれ?」

 香織さんは何が起こったか理解出来んようだった。

 まあ、これが普通だよね。


 うん、守護神イオリさんから聞いてたけど、この三人の女性がいたから、この世界が救われたのか。


 心の中でそう呟く隆生だった。


――――――


「ユカちゃん、ありがとうね」

 美幸がユカの手を取り、礼を言う。


「ええ。でも実体化させたのは」

「知ってるわ。それとは別に、あきらつむぎちゃんの事。あなたのおかげで二人が成仏できたってあの世で知ったわ」

 美幸が小声でそう言った。


「え、え? 何故美幸さんがお二人の事を?」

 ユカが目を丸くしていると

「章は私の弟なの。だから幼馴染の紬ちゃんも知ってるわ」

「そ、そうだったのですか? あ、でもあれはわたしだけじゃなく、他の人も」

「ええ。でも今はあなたにね」



「えーと? これ、どういう事?」

 香織はまだ混乱していた。


「まあ、心霊現象だと思ってください」

 優美子がそう言って香織に話しかける。


「は、はい。あ、やっぱり優美子先輩ですよね?」


「へ? ああ、君はたしか高橋香織だったか?」

「はい! 覚えててくれて嬉しいです!」

 香織は一転して元気になった。 


「あれ、優美子姉さんと香織さんって、知り合いなの?」

 健一が尋ねると

「彼女は俺の大学の後輩だ。と言っても彼女が大学に入ったのは俺が卒業した後なんで、会ったのは昨日が初めてだが」

「音子先輩の結婚式でお話させてもらって。優美子先輩は伝説の人だから、会えて感激でしたよー!」


「そういや姉ちゃん、昨日はえらく女性達に言い寄られてたわ。しかし世間って広いようで狭いな」


「へえ、どんな伝説なんだろ?」

「悪い事じゃないんだろうけど」

 チャスタとシューヤが首を傾げながら言うと


「あのね、単位を盾に女子学生に迫る変態教授を謀略で追い出したんだよー。後は覗き魔をバックドロップで倒したとか、ストーカーを池に放り込んだとかさ」

 香織がそう説明した。


「へえ。優美子さんって凄い方ですね~」

 美咲が感心して言い


「姉さんってそんな事してたの?」

 健一が隆生に尋ねる。

「僕も知らんかったわ。てかてっきり姉ちゃんが後輩女子を口説きまくったのかと」

「JDなどに手を出すか。俺は下はヒトケタ、上は十八歳のJKが限度だ」



「隆生さん落ち着いて!」

「それマジでヤバイって!」

 隆生が近くにあった鉢植えで優美子を殴ろうとしたが、シューヤとチャスタが腕を掴んで止めていた。


「離せー! あの変態ロリコンババアをこの手で討たせてくれー!」


「ふん、冗談の通じぬ奴だ」

 優美子がしかめっ面で言い


「あの~、売り物壊さないでくださいね~」

 そう言いながらもどこか呑気な美咲だった。


「し、しかし優美子先輩と健一君が親戚だったなんて」

「血は繋がってないけどね。ところで久しぶり」

 健一が香織に話しかける。


「あ、うん。あの時以来だね。てかさっきから気になってたんだけど、奥さんってあの人じゃなかったの?」

 香織が美幸を指しながら言うと


「あっちが前に言ったみっちゃんだよ。奥さんはそっち」

 健一は美幸と美咲を交互に指さした。


「……うん、もう深く考えるのはやめよう」

「その方がいいよ。僕もよく分からないんだし。ところで香織さんはどうするの?」

「うーんそうね、優美子先輩もいるし、行くとするか!」

 ニカッと笑いながらそう言う香織だった。


「香織姉ちゃん、こうならなきゃたぶんこっそり着いてきただろな」

「チャスタ、それ言わないの」

 ミカとチャスタが小声で話していた。


「しかし今日はどこも混んでるだろし、予約無しで大丈夫かな?」

 隆生がそう言った時、彼のスマホからメールの着信音が聞こえた。


「あれ、誰? ……は? えっと、ここに電話すればいいのか?」

 隆生はメールを見た後、店の外に出て電話で話し出した。


 そして

「ふう、なんちゅう偶然だよ」

「は、何が?」

 健一が首を傾げて尋ねる。


「いやさ、ネットで知り合った友達からメールが来たんだけど、その人の別の友達がこの辺りで子供連れOKの居酒屋やってるんだって。それでさ、今日十人分の予約があったんだけど時間になっても来ないし、電話しても出ないって」

「それドタキャンてか、イタズラだろ!」


「うん。それでね、それを聞いた友達が片っ端からこっち方面の知り合いに連絡して行けるかどうか聞いたんだけど、皆無理だったんだって。そして僕が昨日からこっちに行くって言ったのを思い出して、もうダメ元でメールしたんだってさ」


「そうだったんだ。で、OKしたんだよね?」


「当然。皆もそこでいいよね?」


「ああ、いいぞ」

 優美子が答えると、全員も後に続いて頷いた。


「あ、その友達も来るの?」

 健一が気になって聞くと


「いや、その人は三重県に住んでるから今からじゃ無理だよ。さっきの電話で『皆さんによろしく伝えてください』って言ってたよ」

「へえ。そんな遠くから友達の為に」

「うん。いい人だよ」


 てか、ネット友達じゃなくて守護神イオリさんからだったけどね。

 そこの店長は守護神様の補佐役の神様らしく、今は人間になって居酒屋やってるとか。

 本当はドタキャンじゃないけど、そういう事にしといてくれって言われたしね。


 隆生は心の中でそう言った。


「あ、そうだ。そこは美味しい魚料理の店らしいけど、美咲さんや香織さん、美幸さんは魚大丈夫ですか? 一応肉料理もあるみたいだけど」

「はい~、好き嫌いありませんから~」

「あたしも大丈夫ですよ」

 美咲と香織が頷きながら答え


「私も大丈夫……あ、ダメです」

 美幸が俯きがちになって言う。


「あれ、みっちゃんも好き嫌い無いだろ?」

 健一が首を傾げると

「ううん、私お金持ってないから」

「なんだそんな事か。それなら」


「僕が全員分出すよ」

 隆生が健一より先にそう言った。


「え? い、いや兄ちゃん、それは流石に悪いよ」

 健一が慌てて言うと


「まだ結婚祝い渡してなかったし、ここは奢らせてよ。美幸さんと香織さんはついでというか、招待させてよね」

「えっと、本当にいいの?」

「いいよ。遠慮するなって」

「じゃあ、お言葉に甘えます」

 健一はそう言って頭を下げた。


「あ、あのすみません。初対面の私もだなんて」

 香織が申し訳なさそうに言うと


「いいですって。それに聞けばうちの連れがお世話になったそうなんで、そのお礼と思ってください」

 隆生はにこやかにそう言った。


「やば、惚れそう。流石健一君の従兄さんだわ」


「あいつ、結構惚れられるな」

 優美子がボソッと呟いた。

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