第4話「永遠の愛のネックレス」

 その後、ミルと美幸は近くの公園や茶屋を周り、住宅街の中を歩いていた。


 そして

「あ、お花屋さんがあるよ~」

 ミルがそこを指さしながら言うと

「あ、ついつい来ちゃった」

 美幸が気まずそうに呟いた。


「あれ、どうしたの?」

「ううん、なんでもないわ。そうだ、覗いてみる?」

「うん!」


 ミルと美幸が店の中に入ると


「いらっしゃいませ~」

「こんにちは。ゆっくり見ていってね」

 店長の美咲と、健一がにこやかに応対し


「はーい!」

 ミルが元気良く答え

「見えるわけない、か……」

 美幸は少し寂しげに呟いた。


――――――


「どうだった?」

 優美子が尋ねる。

「いなかったよ。いったいどこ行きやがった?」

 隆生は首を横に振る。 


「はっ? ま、まさか誘拐されたとか?」

 優美子が真っ青な顔になって呟くと

「も、もしそうなら、犯人の腕か足の骨折るかもしれないね」

 隆生が何かズレた、いやこの場合ズレていない事を言う。

「ああ。あの子はあれでエグい所があるから、そのままジワジワと嬲り殺すかも」

「いや、その後あっさり焼き殺すかもしれないよ」

「その方がマシかもな。以前電車内に出没する痴漢を捕まえて、全身に釘打ち付けたいとか言ってたからなあ」

「もう口にできないほどエグい事、興奮しながら言ってたね。ああ将来が不安だよ」

 二人がそう話していると


「あの、ちょっといいですか?」

「え、あ」

 道のど真ん中で物騒な事を話していたもんだから、通りかかった警官に交番に連れてかれる羽目になった。


――――――


「あれ?」

 美幸が棚にあったあるものを見て戸惑う。

 そこにあったのは、ピンクの胡蝶蘭を象ったペンダントだった。


「これって胡蝶蘭だ。花言葉は『あなたを愛してます』だよね」

 ミルがそれを見ながら言う。

「あら、よく知ってるのね」

「うん。花言葉や植物の事はよく勉強しておきなさいって、ママに言われたの」

「へえ、それはなぜなの?」

「えっと、あたし大人になったら環境保護のお仕事したいの。だからまず、そういう所からだって」

「う~ん? そんなものなのかなあ?」

 美幸は首を傾げた。


「お姉ちゃん、これって手作りなの~?」

 ミルがそのペンダントを指さしながら言う。

「ええ。それはうちのダンナさんが作ったんですよ~」


「え?」

 美幸が目を丸くした。


「へ~、お兄ちゃんすっごいね~。これってなんか、輝いてるって感じだよ~」

 ミルが笑みを浮かべて言うと


「ありがと。実はそれ、僕が昔とある人から貰ったものを真似して作ったんだよ」


「とある人って、元カノ?」

「ううっ!?」

 それを聞いた健一は驚いて後ずさった。


「わーい、当たった~!」

「な、何で分かったんだよ?」


「分かりますよ~、ね?」

 美咲はミルに向かって微笑みかけた。


「うん! あ、これくださ~い!」

 ミルがペンダントを指さしながら言うと

「はい~。千両ですよ~」

「はへ?」

 ミルは可愛らしく首を傾げた。


「うう、これがジェネレーションギャップなのね、よよよ」

 美咲はわざとらしくよろけた。


「ごめんね。それ、千円だよ」

 健一がそれを指して言うと

「はい、釣りはいらねえぜ~」

 ミルはそう言って「一億円」と書かれたおもちゃのお札を差し出した。

「ははは。うちの奥さんより冗談が上手いね」

「ふえ~ん!」

 美咲は分かりやすい嘘泣きをした。


「にひひ~。はい、ホントのお金」

 今度はちゃんと千円札を渡した。

「ありがとうございます。じゃあ、包装するから待っててね」

 健一はそれをそうっと手に取り、奥のレジカウンターに向かった。


「ふふ、相変わらずね」

「ねえ、あのお姉ちゃん達ってもしかして」

 ミルが美幸に尋ねる。


「ええ。お友達よ」

「へ~、じゃあお話する? あたし通訳してあげるよ」

「いいの。こうして元気な姿を見られただけで」


「え~、お姉ちゃんがあのお兄ちゃんの元カノなんでしょ?」

 ミルが健一を指さしながら言う。

「な、なんで分かったの!?」

 美幸も後ずさって驚く。

「分かるよ~」

 ミルはケラケラ笑いながら言った。



「うーん、あの子なんか独り言ばかりだな?」

「いえいえ、きっと天使さんとお話してるんですよ~」

 いや、幽霊なんだが。



「でも、本当にいいの?」

 ミルが不安気に尋ねると

「ええ。実はね、この前いっぱいお話したのよ」

「そうだったんだ。じゃあ大丈夫だよね~」

「ありがとうね。そうだ、もしかしてそれって、誰かにあげるの?」

「うん。えっとね、その子は遠い所にいるんだけど、いつかまた会えた時に渡すの」



「好きな子が転校して行ったってとこかな?」

「そうかも。でもいつか会えますよ~。そしてあれをね」



「あ、ユカお姉ちゃんにシューヤお兄ちゃんだ」

 ミルが丁度戻ってきたユカとシューヤを見つけ、側に駆け寄った。


「あ、あれ? ミルちゃんは隆生さん達と一緒じゃなかったの?」

 ユカが戸惑いながら尋ねる。

「途中で別れたの~」

「へえ、それでその人と?」

「うん」

 ユカは美幸の方を向き、軽く会釈した。

 どうやら幽霊だとすぐ分かったようで、健一と美咲がいる手前もあって話しかけはしなかった。

 

「あれ、君達知り合いなの?」

 健一が尋ねる。

「はい。この子はわたしの従妹です」


「そうだったのですか~、あ、丁度出来ましたよ~」

 美咲が差し出したそれは、緑の蔓を模した紐に小さな緑の葉をつけた、揃いのネックレスだった。

「これ、アイビーをイメージしてるんですよ~」

「知ってる~、花言葉は『永遠の愛』だよね~」

 ミルがネックレスを見つめながら言う。

「先に言わないで~、え~ん」

 美咲は分かりやすい嘘泣きをした。


「永遠の愛……あの、ありがとうございます。おいくらですか?」

 シューヤが財布を取り出しながら聞く。

「はい、二千万両です~」


「は?」

「……え?」

 シューヤとユカはどう反応していいか分からず固まった。


「ううう、この子達にも通じないなんて~」

 美咲はまた分かりやすい嘘泣きをした。


「それ、二つで二千円だよ」

 健一が指を二本立てて言うと


「え? もっと高いのかと思いました」

 ユカが驚いて言った。


「お手頃価格で売りたいってのがうちの方針なんだ。それにそれは君達の為に作ったものだからホントはタダにしたいんだけど、依怙贔屓はダメだって店長が言うしね」


「あ、ありがとうございます!」

「こんな素敵なものを……嬉しいです」

 シューヤとユカはそれを手に取り、互いを見つめ合う。


「あれ、ユカとシューヤに、ミルちゃん?」

 そこにミカが通りかかった。


「え? あ、お姉様もこの辺にいたの?」

「うん。近くのボーリング場で遊んだ後、神社にお参りして来たの。チャスタと、あれ?」

 ミカは辺りをキョロキョロ見た。




「香織姉ちゃん、どうしたんだよ?」

 チャスタがいきなり物陰に隠れた香織に尋ねる。

「ごめん。あたしはここで帰るわ」

 香織が申し訳無さそうに言う。

「ん? そうか、あの兄ちゃんがそうなんだね」

 チャスタは店の入口に立つ健一を見つめながら言った。

「あんたホント鋭いわね」

「まあね。って、やっぱまだ顔合わせ辛い?」

「そこには奥さんもいるんでしょ?」

 香織がいる場所からは美咲は見えなかった。


「あ、うん。いるみたいだよ」

 チャスタが店の方を見て答える。

「健一君だけならまだいいけど、二人で並ばれると、ちょっとね」

 香織はそう言って項垂れる。


「わかったよ。じゃあまた会おうね」

「うん、今日は楽しかったよ。ミカちゃんにもよろしくね。それじゃ」

 香織はその場から去って行った。


 チャスタはその後、ミカの側に寄ってこっそり耳打ちした。


「あのね、昨日結婚式場にいた人と駅前で偶然会ってね、さっきまで一緒にいたんだけど、急用が出来たとかで帰っちゃったのよ」

 ミカがそう説明する。


「そうだったの。わたしもその人に会いたかったな」

 ユカが残念がると

「連絡先教えてもらったから、またこっちに来た時にね」

「うん」


「あ、隆生さんに連絡しないと」

 シューヤが胸ポケットからスマホを取り出すと

「ちょっと待って。僕の事は言わないでね」

 健一が口元に指を立ててそう言った。

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