第3話「隆生と優美子、ミルと遠くから来た女性」

 その頃、隆生と優美子はさいたま新都心駅前にいた。


「この辺りって全然来た事なかったんだよなあ。やっと来れたよ」

 隆生が辺りを見渡しながら言う。


「お前は一時大宮に住んでいたんだろうが。一駅向こうだし、歩いても来れただろ」

 優美子が呆れながら言うが


「いやさ、忙しかったのもあったけど、いつでも行けると思ってたら行きそびれちゃったんだよ」

「あのなあ。まあ、今回こうして来れたのだし、ゆっくり見て回るか」



 そして、けやき広場からスーパーアリーナを眺めていた。

 今日はイベントも何もないので、中に入れないのが残念だとボヤきながら。


「電車の中から見てたけど、近くで見るとまた違うね。うん」

 隆生はそう呟いた後、ぼうっとスーパーアリーナを眺める。


「どうした?」

 優美子が尋ねると


「いやあの震災の時、ここに避難していた人が大勢いたんだなって」

「ああ。ニュースで見た」

「電車からも見えたよ。あの時は丁度こっち方面で仕事してたし。できればあそこへ行ってボランティアしたいとも思ったよ」

「あのな、不慣れで鈍臭いお前が行っても邪魔なだけだろが」

「酷っ! ……まあ自分でもそう思ったから、募金だけさせてもらったよ」

「俺もそう思って、たくさん募金させてもらったぞ」

「流石姉ちゃんだね」

「ああ。だが今尚向こうの方では、な」

「うん。ヒトシがもっと早く目覚めてくれていたら、なんて思ったりもしたよ」

「俺達があの時神力を使えていたとしても、あれは防げなかっただろうな」

「そうだね……」




「話は変わるが、音子の叔父さんもやはりうちの一族だったんだな」

「うん。ひいひい祖父ちゃんの弟さんの曾孫だって。音子さんは奥さんのお姉さんの子供だから、一族の血は引いてないんだよね」

「ああ。うちが遠い親戚だと知って、音子も驚いていたな」

 優美子はその時の事を思い出したのか、口元を緩ませていた。


「そして、洋樹君の所に封印の水晶球を置いて行ったのも、叔父さんだった」

「隆生とヒトシがいずれその子を救うのが見えていたとは、凄い力だな……そうだ、今回は上野さん達と会わないのか?」

 優美子が尋ねる。


「会えたらと思って洋樹君にメールしたら、今は家族で海外旅行してるって。また今度来る事あったら連絡してって返事くれたよ」

 隆生はあれからたまに上野に電話したり、洋樹とメールで連絡を取り合っていた。


「そうか。さてと、立ちっぱなしも何だから、コーヒーストアにでも入るか?」

「うん。ミルちゃんもいい……あれ?」

 辺りを見渡すと、ミルの姿はどこにもなかった。


「そ、そういえばさっきから静かだと思ってたが」

「え」


――――――


 そのミルはというと、一人で町を散策していた。


「あたしがいたらお兄ちゃんとお姉ちゃん、いい雰囲気にならないもんね~。お気遣いお気遣い」

 そんな事を呟いとるが


――――――


「ミルちゃんは何処行った!?」

「そう遠くへは行ってないと思うが、どうする!?」

「姉ちゃんは駅から東側を探して! 僕は西側を探すから!」

「分かった!」


 二人はミルを探す為に奔走していた。

 気遣っているつもりだろうが、子供が一人で何も言わずにどっか行ったらこうなるに決まってる。


 ちなみにミルもスマホを持っているが、ご丁寧に電源を切っていた。


―――――― 


 その後ミルは氷川神社の一の鳥居に着き、デジカメでその周辺の写真を撮った後、神社へ向かってトコトコ歩きだした。


 よく見ると、参道の両側にある並木の枝が風もないのに揺れている。


 それは自然界の長である精霊女王の後継者、ミルを歓迎しているかのようだった。


 そして、時折写真を撮りながら歩くこと約四十分。

 境内に着き、お参りした後の事だった。


「あれ?」

 ミルは神社の中にある池を眺めていた一人の女性を見つけた。


「ねえねえ、何してるの~?」

 ミルがその女性に声をかけると、彼女は辺りを見渡す。

 どうやら他に誰かがいるのかと思ったようだが、そこには彼女とミルしかいなかった。

「ねえ、お姉ちゃんの事だよ?」


「え? あの、もしかして?」

 彼女が振り返ってミルに尋ねると


「見えてるよ~。お姉ちゃん、幽霊でしょ?」

 ミルがなんでもないかのように言う。


「うん。でも怖くないの?」

「お姉ちゃんはいい人でしょ。だから怖くないよ~」

「ありがと。ってあれ? お嬢ちゃん、耳が尖ってる?」

 ミルの耳は魔法で人間のそれに見えるようにしてあったが、魂だけの彼女には真の姿にしか見えないのであった。


「あたしハーフエルフのミル。こっちじゃ風間美瑠かざまみるって名前なの」

 彼女もミカやユカと同じ風間姓を名乗る事にしていた。

 父方の従姉妹であるのは事実なので。


「へえ、エルフって本当にいたんだ」

「うん。でももうあんまりいないって、ママが言ってた」

「あらそうなの。寂しくない?」

「大丈夫だよ~。お友達いっぱいいるし」

「そう、よかった」

 彼女が笑みを浮かべて言った。


「ねえお姉ちゃん、もしかして成仏できないの?」

 ミルが心配そうに尋ねると

「え? 前にちゃんと天国へ行ったわよ。今日は許可を貰ってこの世に来たの」

「よかった~。あ、お姉ちゃんってこの辺に住んでたの?」

「ううん、もっと遠い所よ。ここは私の思い出の場所かな。ミルちゃんはこの辺りに住んでるの?」

 彼女が尋ねると


「違うよ、あたし今日初めてここに来たの」

「そうだったのね。一人で?」

「お兄ちゃんやお姉ちゃん達と来たけど、今は一人でお散歩してたの。ねえお姉ちゃん、この後どうするの?」


「そうねえ。もうちょっとあっちこっち見て回ろうかなあと思ってたの」

 彼女がそう言うと


「じゃあさ、着いて行っていい?」

「え? いいけど、おうちの人が心配しない?」

「大丈夫だよ。きっと今頃二人は、ふふふ」

「?」


――――――


「何処行ったあの腐った妹はー!」

 隆生はキレて叫びながらそこらを走っていた。



「く、神力でも居場所が分からんとは」

 優美子は道の隅で頭を抱えていた。



 ミルには神ですら気配を察知出来なくさせるという、難儀な特殊能力があった。

 精霊女王もそんな能力の持ち主であるので、大隔世遺伝したのだろうか。


――――――


「ねえ行こうよ~」

「うん、行きましょうか」

「そうだ、お姉ちゃんのお名前は?」

「私は神崎美幸かんざきみゆきって言うの。よろしくね」

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