第6話 気持ちの余裕
今日の天気は生憎の雨。しかもかなり強い降り方。
僕は六時半に起きた。今日も仕事でメンバーのみんなに会えるのを楽しみにしている。
天気が悪いと、調子を崩すメンバーさんは少なくない。そういう場合はあえてデイケアに来てもらっている。自宅で悶々と過ごすよりはいいから。これは、高木主任の考え方で理にかなっている。デイケア内では周知されている。さすがだ。主任になるだけのことはある。
現在は十月上旬。徐々に寒くなってきている。もう少ししたら冬支度をしないと。いまはデイケアスタッフに支給されている上下紺色のジャージを着ている。その上に僕は黒いジャンパーを羽織っている。十二月になったらコートを着てこないと。去年、新調したもの。
まず、ご飯を炊いた。と言ってもタイマーをセットしており、六時になると炊飯が始まる。おかずはすごくシンプルなもの。生卵と納豆で食べることがおおい。でも、からだにはいいはず。それを食べてからシャワーを浴びた。それからジャージに着替えて、朝のニュースを観ようと思い、テレビをつけた。十五分程観て出勤した。九時までに行かないといけない。
僕の家はアパートで安いところをえらんだ結果、山のほうにある家になった。なので、職場までは三十分くらいかかる。いまの職場についたころ新車を購入した。五年ローンだ。約二百万した普通車。仕事さえしていれば返せるという自信はある。給料によるが。
明日は土曜日。昨日、母から電話がきて父と一緒に様子を見にくるらしい。僕は、大丈夫だからと言ったが、僕が札幌にきてから一度も来てないから行く、と言ってきかない。まあ、いいや。好きにさせよう、そう思うことにした。僕は母に電話で言った。
『泊まるなら布団と食材買ってきて』と。
ついでに、料理してくれと。すると、
『全く、作って食べさせてよ。食材は買っていくから』
でも、断固拒否した。自分の分をつくるのも面倒なのに、親の分までなんてとんでもない! それもつたえると、
『なんだ、なさけないねえ』
言われた。なにがなさけないんだ、ただ面倒なだけだ。
『もっとがんばりなさい』
「すでにがんばってるよ!」
と言い返すと、
『親孝行するくらいの気持ちを持ちなさいと言っているの』
「まだいいだろ」
そう言って僕は鼻でわらった。
『親孝行したいときには親はもういない、というはなしもあるんだよ』
「フッ」
僕はまたわらった。そして、
「そんなに言うなら、来なくていい!」
怒鳴ると、
『また、おこるし。あんたはすぐ怒るんだから。もっと、おさえなさい』
母のえらそうに上から目線はあいかわらずだ。なんとかならないものか。感じわるい。このことを以前にも母に言ったが、あたまが固いせいか聞き入れようとしない。というか、聞き入れられないのかもしれない、加齢のせいで。
電話はこのへんで終わった。
デイケアのプログラム中に、
だが、デイケアの送迎車のなかでまた大沢恵はパニック発作を起こした。助手席に乗っていた僕はそれにいち早く気付き、運転手の上原博につたえた。すぐに送迎車を停め、病院に電話をした。けれど、電話ではどうにも処置ができないということで、一旦、病院に戻ることになった。
戻ったが、大沢恵の主治医は往診に出ていて不在。とりあえず、点滴室でまだ点滴は打たないけれど、そこのベッドでやすんでもらうことになった。先輩の上原博が言うには、パニック発作は薬に頼らず気持ちだけで治す、というのは得策ではないらしい。要は、根性論は通じないというやつだろう。
約一時間後、大沢恵の主治医はデイケアのスタッフルームに内線電話を寄越した。内線に出たのは僕だ。
「はい、デイケア山崎です。はい、そうです。大沢恵さんです。いまは、点滴室で休んでもらっています。わかりました。すぐに向かいます」
僕は内線で医師とはなしたあと、高木主任に、
「点滴室に行ってきます」
つたえてから、すぐに点滴室に向かった。
「先生のはなし、よく聞いてきてよ」
高木主任がそう言うので僕は、
「はい!」
と返事をした。
約一時間後、僕はスタッフルームにもどってきた。
開口一番、高木主任は、
「先生なんて言ってた?」
言うので僕は、
「安定するまで、デイケアは休んだほうがいいと言ってました」
「やっぱりね……」
「えっ、高木主任、知ってたんですか?」
「いや、憶測よ」
「そうですか、さすがですね」
「いい憶測ならいいけど、デイケアをやすむなら良くない憶測よ」
僕はだまっていた。そして、
「大沢さん、どれくらいやすむんですかね」
「それはいますぐにはわからないわよ」
「ですよね」
高木主任は、
「大沢さん、最近、真面目にデイケア来てたから疲れちゃったのかもね」
そう言った。
確かにそうかもしれない。大沢さんはここ最近、がんばっていた。でも、それが裏目に出るのは気の毒だ。仕方ないけれど。
僕はスタッフルームの自分の席の椅子にすわり日報を書きだした。それから、スタッフの上原博や、上田志穂、笹田亮子が送迎やそれ以外の業務を終えてもどって来た。
「お疲れ様でーす」
と僕は笑顔で言うとそれぞれのスタッフは、
「お疲れー」
返事をくれた。複数人に言ってもらえるとなんだかうれしい。
「山崎君」
高木主任が呼んだ。
「はい」
僕が返事をすると、
「数日後に大沢さんにいつくらいから来れるか電話してもらえる?」
でも、僕は思った。こちらから電話をするのは彼女を焦らす原因になるのではないかと。
しかし、それは言わずに、
「わかりました。ちなみに三、四日後ですか?」
「そうね。忘れないでね」
「はい、わかりました」
僕はすこしずつ、この仕事に慣れてきたと思う。メンバーさんや、スタッフとも上手くやれてるし。生きるのが下手な僕でも、なんとかやれている。
僕の実家は北海道の帯広市にある。大学進学を機に札幌市に引っ越した。それでも、車は必需品で毎日愛用している。でも、もしかしたら札幌市中央区なら地下鉄や、バスなどの公共交通機関が完備されているから車はなくてもいいかもしれない。ただ、地方に行くときはこまるかもしれないが。
最近では、すこしだけ気持ちに余裕ができてきたおかげか、彼女が欲しくなった。正直、最近すこしさみしい。そのさみしさを埋めるために彼女をつくるというわけ。こういう理由で彼女をつくるのはよくないだろうか。相手に失礼かな? でも、好きでもないのに付き合うわけではないから、いいと思うけれど。
彼女ができて、いい子であれば結婚も視野にいれて交際しようと考えている。でも、みんなはどこで見つけるのだろう? ぜんぜん出逢いがないのはいなかのほうだから? それは、いいわけのような気がする。僕は札幌市南区に住んでいて、現に同じ地域に住んでいる同級生は彼女がいる。なぜ、僕にはできない? 外見上の問題か? 身長が低く、ふとっていておまけに、髪の毛がうすい。それに、にきび面。それだけで言えば、いいところがない。
でも、自分で言うのもなんだが、僕は温厚でやさしいと思う。なのに、なぜ?
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