神の視点

コオロギ

神の視点

 ひどい映画をみた。

 いや、映画としては傑作中の傑作で、あまりにも有名なので実際にみたことのない人でも映画にまったく関心のない人でもそのタイトルと、そのおおざっぱなストーリーくらいは「ああ、あれね」と知ったかぶりを決め込めるほどのものだ。

 自分もご多分に漏れず「ああ、それね」と云っていた口だったのだけれど、きちんと鑑賞したことがないことがあの映画中毒者にばれて、この世のものとは思えないとでも云いたげな顔を見せつけられてやむにやまれずレンタルしてきたのだった。

「あーああ」

 ここでこいつがこんなことを云うせいでこの後疾風怒涛の鬱展開になるのだ、と駄菓子をぼりぼり齧りながら傍観していてふと、神の視点とはこういうものかと思った。

 どんなに苦しいことが起ころうとどんなに愉快なことが繰り広げられようと、見て聞いて感じて、未来も過去も知っていても、手出し無用。

「ああ、まただ」

 またあいつがしゃしゃり出てきた。

 あいつがいなければすべてうまくいくのにと思う。心底思う。けれども。

 それでは絶対につまらない。

 

「どうだった」

「なにが」

「この間絶対みるって云ってたじゃないか」

「ああ、あれね」

「どうだった」

「ひどかった」

 そうだろう、と映画中毒者はにやりと笑った。

「おもしろかっただろう」

「まあね」

「あれほど完成されたものはなかなかお目にかかれない」

 映画という水を得た死んだ目をした魚が元気に泳ぎ出す。

 手出しのできない映画のように、楽しさも美しさも悲しみも、恐怖さえも楽しみに換えながら。

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神の視点 コオロギ @softinsect

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