最終回 貴方を愛しています

あれから4ヶ月が経った。


それまでの間に色々な事をした。最初にした事は新しいアパートに契約をしに行った事だ。ずっと寧々の家に泊めさせて貰ったら流石に迷惑になるだろうし、何より僕が寧々に頼りっきりになって、完全に寧々に依存してしまう自信があったからだ。だから1度距離を置いて自分の事は自分で出来る様に一人暮らしを始めた。

しかし大変だったのは寧々を説得することだった。

僕が寧々に

「寧々、僕一人暮らしするよ」

と言ったら寧々は

「嫌です!そんなの絶対にダメです!」

とずっと言い張っていた。

「…なんでダメなの?」

と聞くと

「先輩と離れるのが嫌だからです…そ、それに今の先輩が1人になるとまた身投げします!だからそんなの絶対にダメです!」

と言い訳がましく、涙目で言われた。正直僕も寧々と離れるのは嫌だったが。これ以上寧々に迷惑をかけたくなかったから反論する

「僕も離れるのは嫌だよ、でも寧々に迷惑かけたくない…それにこのままだと絶対に寧々に依存するから…それに僕はもう大丈夫だよ、身投げはしない」

と言ったら泣きながら

「でもっ…それでもやだ……やです…依存してもいいからぁ…私から離れないで下さい…」


と、こんな感じで最初は話にならなかったが、時間をかけて話し合ったらなんとか分かって貰えた。


しばらくして一人暮らしが始まった。

一人暮らしに慣れるまで1ヶ月位かかった。料理は殆ど香子や寧々に任せていたから衰えていたし、選択、掃除、バイト等で疲れたが、バイトに行くと寧々がいて疲れが癒された。

そして大分一人暮らしに慣れると、寧々と約束したバイクの後に乗せていろんな所に行ったり、香子と住んでいたアパートを解約した、勿論彼女いない歴=年齢の山下さんにも別れの挨拶をした。その後はバレンタインにチョコを貰ったりした。


少しだけ寧々と距離を置いた時があった。それは確かめ、向き合わなければいけないことがあったからだ。


それは寧々に対する気持ちだ。寧々の事は 好き だ。でもそれは依存に近い 好き だった。その程度なのだ。香子に裏切られ、辛くなった時に側にいてくれて依存してるだけだ。だからその程度の気持ちで寧々と付き合いたくはなかった。その程度の気持ちで付き合えばきっと傷つけてしまう、きっと頼りっぱなしになってしまう、負担になってしまう…それが嫌だった。


だから少しの間、1人で過ごした、自分一人で出来るように。頼りっぱなしにならない様に。少しは頼られるように。寧々が辛い時支えれる様に。


寧々と少し離れただけでもすぐに会いたくなった。ふとしたら寧々の事を考えていた。友達とは上手くいっているのか、風邪引いてないか、家では1人で寂しくないだろうか。気づけば寧々の事を考えていたのだ。


それでも耐えた。4ヶ月前の寧々の気持ちに応えるために。伝える為に。


そして今日、寧々に告白する。


告白する為に大学の帰りに寧々と一緒に帰ると誘う。そして一緒に帰る。その帰り道は何時もとは逆に無言だった。何時もする会話は無かった。何となく察してくれたのだろう。


「寧々、話したい事があるんだ…でも…ここだと何だし…遠回りしても…良いかな?」

「良いですよ、先輩」

そして2人が帰る何時もの帰り道とは違う方に歩く。



「………」


言葉はない、ただ歩く。気まずくも無い。先輩が伝えたい事を私に伝えてくれるまで先輩の行く所についていく。



「………」


言葉は出さない、伝えたい事を言うまで。伝えたい事を伝えれる場所に行くまでただ歩く。寧々と一緒の歩幅で。



無言の時間もようやく終わる。伝えれる場所に着いた。ようやく伝えれる。

「…寧々?」

「…はい、なんですか?先輩」

「…今から寧々の気持ちに応えたい…僕の気持ちを伝えたいんだ」

「…やっとですか…?ずっと待ってましたよ、先輩…応えるのに時間かかり過ぎです…」

「…ごめんね…」

「良いですよ…先輩だから、特別に許してあげます」

「…ありがとう…寧々」


…息を整える。緊張する。だけど、この思いだけは今すぐ伝えたかった。だから自然と言葉が出た


「寧々、君の事が好きです。これからも僕と一緒にいて下さい」

「…ずっとその言葉を聞きたかったです…先輩?私こそ…これからも先輩の隣にいていいですか…?」

「むしろ居てくれなきゃ困るよ…」

「ふふ…そうですか…そこまで言われたら一緒に居てあげますよ。先輩が私に離れたいって言ってももう離しませんから…」

「僕から離れるつもりは無いよ」

「だったら良いです、私も離れるつもりはありませんから…」

その言葉を表現するように寧々は強く僕を抱き締めた。そして僕も言ったことを表現するように寧々を抱き締める。


しばらくすると離れ、寧々が質問する。


「…先輩、なんで告白する所がよりによりって此処なんですか?ちょっとセンスないです…」

「失礼な…なんでって言われても…此処は僕にとって大事な場所だから、理由は…分かる…と思うよ」

「…?あ…成程、先輩らしいですね。その理由だったら此処に選んだのも納得です」

そう言い笑顔になる寧々。


「じゃ、先輩、ここ寒いですし、もう帰りましょうか?」

「うん、そうだね」

「…んっ」

「…なに?」

「寒いんで…暖めてください…」

そう言い手を出す。

「仕方ないな…」

そう言い、手を繋ぐ。満足気に寧々はまだ笑顔になった。


「ねぇ、先輩、先輩は私の何処を好きになってくれたんですか?」

「…色々あるけど…1番は笑顔だよ、僕によく見せてくれるその笑顔に惚れた」

「…そうですか♪」


そんなカップルがよくする会話をしながら、寧々を家に送るために向かう。

しばらくすると思い出したかのように寧々が言う

「…そういえば先輩…私に愛の言葉を言ってくれないんですか?」

「…え?好きって言ったよ?告白した時に…」

「もう!愛してるって…言ってくれないんですか…?」

「…また勇気出させんの?」

「はいっ♪」

「はぁ…」

恥ずかしかったが言うしかないと思ったので口にする


「…寧々、愛してるよ」


そう言うと寧々は満足そうな顔をしていた。


が、納得いかなかった、僕は言ったのに寧々からは帰ってこなかったことに。

「…寧々は言ってくれないのか?」

「え?えっと…恥ずかしい…から、また今度じゃダメですか…?」

「僕は言ったのに寧々は言ってくれないのか…?」

「うぅっ…先輩のいじわる!1回しか言いませんからね!ちゃんと聞いててくださいよ!」



真っ赤な顔を沈めさせ、落ち着くために深呼吸をする。



準備が出来たらしく目を開けた。まだ少し赤い頬で、真剣な目で僕の目を見て言葉を出す。



「冬真先輩、貴方を愛しています」

照れながらも寧々は笑顔で言った。僕を救い、支えてくれた何一つ変わらない素敵な笑顔で。


ーfinー

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