第10話 癒える傷口
扉を閉ると音が鳴り響いた。その音は香子との関係が切れ、全て終わった。そんな音のようにも聴こえた。
「先輩…もう…行きましょうか」
「うん…そうだね…行こうか…」
涙が1粒こぼれた。終わってしまった事が少し悲しかったのだ。もう香子とは笑う事もない、思い出も、もう増えない、彼女が隣に居ることはもう無い。そう考えると無性に悲しく、切なくなったのだ。
そんな僕を見て寧々はそっと僕の手を握ってくれた。僕はこの手で何度救われたのか。どれ程支えて貰ったのか。
「…寧々、ありがとう…君に支えてもらってばかりだ…寧々が居たから終わらせる事が出来た…ありがとう。もう、きっと大丈夫」
「…そうですか、わかりました」
そう言い笑っていたが、手だけは離さなかった。僕自身も離そうとはしなかった。
帰りはバイクで帰るため、鍵をかける。バイクに乗り寧々がその後に乗る。少し前まで香子だけの場所に…
「…先輩、もうあの人との思い出は蘇らせませんよ…私が全て上書きするんです…先輩が愛したあの人の思い出も…居場所も……別れても先輩を苦しめるなんて、許せませんから…」
「…そっか…それじゃあ…山ほどある思い出、全て上書きしてくれるかな?」
「さっきも言いました、全て上書きするって…大丈夫です。すぐに忘れさせますよ」
少し掠れた声と震える体で、不安そうな顔で言う。寧々のそんな顔は見たくなかった。
「分かった、じゃあ僕は寧々にいっぱいの思い出を作るよ…」
「…!はいっ!」
嬉しそうな声で返事をする。
「…寧々そろそろ行こうか。ヘルメットは被ってね。…じゃあ行くよ、しっかり掴まっててね」
「はい!離しません♪」
バイクで寧々の家に向かってる途中、ここ2日で色々あったなと思った。昨日香子が寝盗られた事を知り、今日別れたのだ。そしてその間に僕は寧々に想いを寄せている。正直軽い男だなと自分で思った。2年も香子の事を想い続けていたのにたった1日で香子より寧々を見るようになった。そんな軽い自分が許せなかった。
そんな事を考えているとあっという間に寧々の家に着いた。
「はぁ…疲れた…」
「先輩~…私も疲れました~…リビングまで運んでくださーい…」
「…しょうがないな」
「え…?えっと…ほんとに…?」
「あぁ、ほら、おいで」
そう言い背中を向けてしゃがむ。
「お、お邪魔します…」
そう言い、寧々は僕の背中に体を預ける。そして落ちないように肩を掴む。
「…先輩…これいいです…またしてください」
「気が向いたらね」
「約束ですよ…?」
そう耳元で囁く。寧々の声が、僕の耳に透き通る。
その声は魅力的だった。
リビングに着き、寧々を背中から降ろす。
そして風呂に入る。最初はどっちが最初に入るからで議論になった。今思えばどっちからでもいいのだが、僕は泊まらせて貰ってる身で、家主?より先に入るの事に気が引けたのだ。寧々は僕というお客様より先に入るのがなんか嫌だったらしい。日本人のいい所でありめんどくさい所だ。
風呂から上がり、就寝につく準備をする。
「…先輩…本当にそこでいいんですか…?」
「うん、泊めさせて貰ってるからね、ベッドで寝たい、なんて烏滸がましい事言えないよ…」
「…そうですか…なら先輩。私のベッドで寝ましょう?勿論、私も一緒に、ですが」
「…なら尚更ダメだよ」
「じゃあ私もここで先輩と一緒に寝ます。あーあ、酷い先輩だなぁ~。女の子にこんな所で寝かせるなんて」
「…分かったよ。ベッドで寝ればいいんだろ…」
「はい!じゃあ私の部屋に行きましょ♪」
寧々が寝たら抜け出してリビングに行って寝ようと思っていた。が、現実はそこまで甘くなかった。
寧々にがっちりとホールドされ抜け出せなかったのである。
だから諦めて寝る事にした。あんまり寝れなかったけど。
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