第7話 限界と告白

(ここは何処だ…何処に向かってる…?)

自分でも分からなかった。ただ暗い夜の道を歩いていた。自分の意識とは関係なく身体だけが勝手に動いていた。何も考えず、ただ身体が動く通りに身を委ねた。

しばらくすると足の動きが決まった。どうやら目的地に着いたみたいだ。何処にいるか意識して見る。橋の上ど真ん中だった。


その時ようやく自分の気持ちを理解した。どうやら僕は死にたいらしい。


生きる事に対してなんの未練もなかったので、怖いという意識がなかった。なので簡単に手すりの上を上がる事が出来た。あぁ…やっと楽になれる…そう思い身体を倒そうとしたその時だった。

後から荒々しい声が聞こえた。

「先輩!?何やってるんですか!そんな事今すぐやめて下さい!」

息を切らしながらも今にも身投げしそうな僕の体をか細い手で道路側に引っ張り、手すりから降ろされる。…そりゃそうだ、誰だって知り合いが目の前で自殺しようとしたら止める。僕でも止める。

だが、もう自分の事などどうでも良く、早く楽になりたかった。もうそれしか頭になく、頭が回っていなかった。だから思った事を寧々に向かって言った。

「僕の事はほっといていいよ」

そう言うと次の瞬間。


バチンッ!


と音が鳴り響いた。

気付けば痛みが走っていて、顔が川の方を向いていた。何が起こったか分からなかったが痛みを感じたその部位を触ってみる、どうやら頬っぺたを叩かれたらしい。

何故、叩かれたのか分からなかった。なので素直に聞いてみた

「…なんで叩いたの?凄く痛かった…」

「なんで!?なんで分かりませんか!?貴方が自殺しようとしていたからですよ!?私が止めようとしたら僕の事はほっといていい!?ふざけないで下さい!!」

「…自殺したらダメなの?」

「ダメです!絶対にダメです…!」

「…それでも…ごめんね、もう限界なんだ…見逃してくれないかな…」

「嫌です…!絶対に嫌です…!見逃しません…貴方のそのお願いだけは絶対に聞けません…もし貴方がまだ自殺しようと思っているのなら私も一緒に死にます…本気ですから…」

「…?なんで…?僕のせいで関係ない君まで死なせちゃうのは…いや…そっか…うん、分かった…自殺はしない、約束する…」

これ以上言っても無駄だと思った。だから口では諦めたのだ。自殺をしないと言うのは勿論嘘だ、この後、しばらくすれば安心して帰ってくれるだろう。そう思っていた。しかし寧々は帰ることはなかった、寧ろより近くに来て今度は抱きついてきたのだ。昼の時の優しく包み込むような包容では無く、力強く、まるで僕がちゃんとそこにいて生きているか確認する様なハグだった。


寧々は僕という人間がそこに居ることを確認出来たのだろう、今度は泣き始めた。そして何度も「良かった」と繰り返した。

この寧々の姿を見て僕は、僕の為にここまで泣いてくれる人が居るのなら…この子のためにもう少しだけ生きてみようと思った。



しばらく経ち、完全に泣き止む、すると寧々が

「…あの…先輩、先輩は帰るところあるんですか…?」

「…ないけど…それがどうした?」

「そうですか…じゃ、じゃあ……先輩が良ければ、です…が、私の家に泊まりませんか…?」

寧々の放った言葉に驚いた。大学生と言えど女の子が簡単に男を家の中に呼ぶのは不味いだろと思った。だから断った、傷つかないように。

「いや…いいよ。大丈夫、またホテルに泊まるから…」

「いや…ダメです」

どうやらダメらしい。そして続けて寧々が言った

「これから先もホテルに泊まる気ですか?毎日ホテルに泊まっているとお金尽きちゃいますよ…?なので先輩は私の家に泊まるべきです。拒否権はありません。…それに今の先輩を1人にしたら直ぐに自殺しようとしますからダメです」


確かにその通りだった。毎日ホテルは流石にキツかった。何せ高いネックレスを買っていたのだ、そのせいで貯金もあまり無かった。それに自殺は直ぐにする予定は無かったが、はする予定ではあったのだ。それを見透かして言ってきたのだ。だから、今この提案拒否しても絶対に寧々は認めてくれないだろう、なので大人しく従う事にした。


寧々の家に向かう途中、ふと気になった事がった。何故、寧々はここまでしてくれるのか。聞いてみる事にした。

「…寧々、なんで寧々はそんなに必死に僕に生かせようとするんだ?…何でそこまで尽くしてくれるんだ?何故…僕が死のうとしたら一緒に死ぬと言ったんだ…?」

それを聞いた寧々は悩んでいた。言おうか言わないか葛藤してる様に見えた。そして答えが出たのか質問に答えてくれる。

「それは…先輩の事が…貴方の事が大好きだからです…愛しているからです…」

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