第4話 深い傷口

「はぁ…クソ…」

今にも消えてしまいそうな弱々しい声でそう呟いた。

溢れ出る涙を止めようとするも香子との思い出も溢れ、更に涙が出る。酷い悪循環だ。


このままじっとしていればまた泣いてしまう。そう思い、身体を動かす。

行動して、まずに思ったのが身体がベトベトする不快感だった。それもそうだ香子から、現実から逃げる為に走り、泣き続けたのだから。


身体に纏わりつく不快感を洗い落とすため、汗ばんた衣類を脱ぎ、シャワールームに入る。蛇口を捻り水を出す。流れ出た水は冷たくとても自分から浴びようと思わなかった。しばらく出し続けると水は徐々に暖かくなり始める。自分が好む温度になるとようやく水を浴び始める。水に打たれて少しすると不意に

(この不快感と共に香子との思い出も流れ落ちないだろうか…)

そう思うとシャワーの水と共に涙も流れた。



身体を洗い流し、スッキリすると浴槽から出て、身体を拭き、服を着る。ドライヤーで髪の毛を乾かし、時計を見る。9時40分だった。12時からバイトがある。現在地が分からなかったので地図アプリで調べ、バイト先までの距離を感覚で測る。今からならギリギリ間に合う、バイトに行けば少しは香子の事を忘れることは出来るだろう。しかし、バイト先に行くということは少しでも香子に近づくという事だ。それが嫌で休みたくなったが、自分のせいで他の人が迷惑になるのも嫌だったので渋々向かうことにした。


どうすればバイト先までの道に続くか分からなかったので先程調べた地図アプリを駆使しバイト先に向かう。驚いた事に結構遠くまで来ていて途中歩くのが嫌になった。しばらく歩いていると自分の知ってる道に出たのでスマホを使う必要は無くなった、使わないのなら出して置く必要も無いのでポケットの中にしまう。バイト先に近づくにつれ途中香子と会わないだろうか…と心配し、怯えながら向かった。怯えながらもバイト先に繋がる道を辿り、ようやく無事にバイト先に着き、ほっとしたのもつかの間だった。


「冬真せんぱい♪おはよーございます♪」

後から上機嫌な声で挨拶をされた。

一瞬、香子か!?と思い驚いて身体が跳ねたが、話しかけ方が違ったので安心して冷静になる。

話しかけてきたのは同じ大学の後輩の寧々だ。

「あぁ…おはよ…」

今は1人になりたかったので簡潔に挨拶だけ済ませた。

普段とは少し違う無気質な返答に違和感を感じたのか、少し心配したような顔になったが、多分、昼からのバイトがだるいだけなんだろう。と思ったのか直ぐに悪戯っぽく笑って

「昨日は…お楽しみでしたね♪」

と僕に傷口を抉る刃物の言葉を吐いてきた。

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