第62話 心配症

 次の患者は、金子沙織、四十二歳が診察室に入ってきた。吾郎はいつものように、

渋沢吾郎:どうしました。

金子沙織:心配症が治らないんです。

渋沢吾郎:治らないってことは何回かいろんなところの病院に行ってその治療法では治らなかったということですね。

金子沙織:はい。

渋沢吾郎:では、心配性が原因で今まで起った事を話してください。

金子沙織:はい。まずは家を出るときなんかは、家を出たら電気は大丈夫か、ガスはきちんと止まっているだろうかとか、ちゃんと窓のかぎを閉めたかどうかとか心配で家まで戻ってしまうんです。それで、家に戻ったら大丈夫な状態になっているんです。そういうことが毎日起こるんです。

渋沢吾郎:それは大変ですね。他にあります。

金子沙織:銀行でお金をおろしたのに本当におろしたのだろうかとおろしてから十分後にそう思ってしまうんです。そのときに、財布の中を開けたらもちろんちゃんとありました。これって深い病気なんですか。

渋沢吾郎:そんなに深い病気じゃないですよ。工夫をすればなんとかなる場合もありますよ。

金子沙織:本当ですか。

渋沢吾郎:たとえば、メモをするのいいでしょう。家を出るとき、自分でメモ帳を持って、ガスは止めてあるのを確認したらメモ帳のガスの欄にまると書くんです。電気もそうです。そして、外へ出て不安になったらそのメモを見れば大丈夫だと確認できるという事です。この案についてどう思いますか。

 沙織は瞳が開いた思いで、

金子沙織:それもそうですね。結構単純ですね。ありがとうございます。答えは以外と簡単でしたね。

渋沢吾郎:ではもう心配はないですね。他のこともそうするといいでしょう。ただ、メモ帳は自分の身から絶対離さないようにしてください。

金子沙織:ありがとうございました。

渋沢吾郎:じゃあ薬はいらないですね。

金子沙織:はい。

 今日も診察が終わり、家に帰って吾郎は清子と話した。清子が言った。

渋沢清子:あんたって本当に冴えまくってるね。

渋沢吾郎:たいしたもんだろ。まあ心配症は誰もが持っているんだけどね。

渋沢清子:あなたも心配している事ってあるの。

渋沢吾郎:あるよ。

渋沢清子:例えば。

渋沢吾郎:清子が俺が浮気しているんじゃないかとか。

渋沢清子:心配なんかしてないよ。あなたは私なしでは生きていられないから。

渋沢吾郎:それもそうだなあ。一応言っとくけど、俺の浮気相手は清子だからな。

渋沢清子:じゃあ、私の浮気相手もあなたね。

 吾郎はくつろぎながら話し、清子は洗濯物をたたみながら話した。


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