第63話 楽しい家庭への入門

 次の患者は河原美恵、二十八歳、主婦である。吾郎はいつものように、

渋沢吾郎:どうしました。

 というと、美恵は疲れている様子をしながら話し出した。

河原美恵:あの、私、家事で疲れました。うちの夫はご飯を食べたらまずいと言うし、洗濯物はその辺に置きっ放しだし、掃除も大変なんです。それに加えて愚痴ばっか言っています。正直疲れてきました。でも離婚はしたくないんです。何か言い方法はありますか。

渋沢吾郎:河原さんの夫の態度に問題があるんですね。

河原美恵:そうです。もっと私に優しくしてくれればいいんですけど。

渋沢吾郎:普段の生活がもっと楽しくなればいいと思いますが。

河原美恵:私もそう思っています。しかし、楽しくするっていっても夫は無愛想ですし、私も楽しくなれません。

渋沢吾郎:もしかして、あなたはお見合い結婚ですか。

河原美恵:はい。でもどうしてわかったんですか。

渋沢吾郎:その理由は、一つ目は普段楽しくないという事は、夫婦の言葉が少ないという事。二つ目は夫が無愛想である事、三つ目はあなたは疲れていても離婚したくない事です。特に、三つ目の離婚したくないという理由は生活が出来なくなるからだとすると、やはりお見合い結婚だなって思ったんです。

河原美恵:それを聞いていると、なんか私は夫と心が通っていないと思えます。でも、夫は仕事はよくできる人なんです。だから給料も高いので私は離れるにはなれられないんです。

渋沢吾郎:なるほど。結婚は単に好きだからという理由では成立しませんからね。やはり結婚は生活のことを考えなければなりませんからね。だから河原さんは今のだんなさんと結婚した。そういうわけで河原さんは今のだんなさんと結婚すれば生活は豊かだろうと思ったという事ですね。

河原美恵:はい。ただ、今の生活ではどうしても疲れるんです。

渋沢吾郎:それなら、さっきも言いましたように普段からだんなさんと楽しく過ごせばいいのではありませんか。

河原美恵:でもどうしたら夫と楽しくなれますか。

渋沢吾郎:そうですね。会話を多くしたらどうです。心が通い合えば楽しくなれますよ。

河原美恵:でも・・・・・・。気分が乗らないんです。

渋沢吾郎:やはりお見合いだから心のそこから好きになれないといいたいのですか。

河原美恵:はい。

渋沢吾郎:でも、これから好きになっていけばいいのではありませんか。一緒に生活しているところを見るとだんなさんの事は認めているという事ですよね。

河原美恵:はい。

渋沢吾郎:認めているなら好きになったらどうです。

河原美恵:そうですね。

渋沢吾郎:それでは夫婦がうまくいく方法を録画したビデオテープがありますが、それは千円ぐらいなので夫と一緒に見てみますか。

渋沢吾郎:そんなビデオテープがあるんですか。じゃあ見てみます。

 美恵は吾郎の診察が終わって夫が帰ってきたときに早速食事をしながら吾郎が渡したビデオを見た。すると、驚いた事に、ビデオの登場人物はなんと吾郎と清子だった。

 ビデオが始まった。

 『夫婦の楽しく安らぐ家庭物語』

 という題名から始まった。舞台は吾郎の家である。吾郎が家に帰ってきた。

渋沢清子:ただいまー。

 清子は玄関のところまで迎えに行った。

渋沢清子:あなたお帰り。今日寒くなかった?

渋沢吾郎:寒かったよ。

渋沢吾郎:じゃあ抱きしめて暖めてあげる。

 清子は吾郎を抱いた。このときに、テレビ画面に文字が映った。

 『楽しい夫婦になるポイント一、』

 〈夫が帰ったときに、少し話してスキンシップをしたり、サービスしてみたりする。〉

渋沢吾郎:清子。今日はいい匂いがするね。今日はカレーかい。

渋沢清子:そうカレーよ。でも中にはずれがあるよ。

渋沢吾郎:梅干でも入っているの。

渋沢清子:いいえ。肉だと思って食べたら実はカレー粉の塊だったりするから。

渋沢吾郎:そんなの煮込めばいいってーの。

 『楽しい夫婦になるポイント二』

 〈くだらなくてもジョークを言うといい。〉

 テーブルの上に食事が並べられ、吾郎は、

渋沢吾郎:じゃあいたたきます。あれ。おいしいね。清子の愛情がこもっているよ。

渋沢清子:なんか照れるわね。もっと食べる?

渋沢吾郎:おう。

渋沢清子:じゃあ、今度は私を食べる?

 『楽しい夫婦になるポイント三』

 〈相手を誉めたり、愛という言葉を使うと妻は喜ぶ。〉

 食事が終わって吾郎はいった。

渋沢吾郎:いやー。結構な食事だね。さすが清子。清子を妻にして良かったよ。

渋沢清子:じゃあ今度はもっとおいしいの作るね。

 『楽しい夫婦になるポイント四』

 〈妻を喜ばすと、妻は疲れがなくなり、やる気が出て、次の日もサービスされる可能性は大。夜のサービスも期待できるかも。〉

渋沢吾郎:清子。実は今日はプレゼントを買ってきたんだ。いつも家事をやってお疲れ様。

 吾郎はカバンから紙で包まれた箱を取り出した。

渋沢清子:何が入っているの。

渋沢吾郎:腕時計。

渋沢清子:ありがとう。腕時計が欲しかったのよ。これで主婦やっている甲斐があるわ。

 『楽しい夫婦になるポイントその五』

 〈たまに家事をしている妻にプレゼントをあげると妻は家事に力が入る。〉

渋沢清子:あなた。こんな素敵なプレゼントありがとう。肩もんであげるね。

渋沢吾郎:ありがとう。終わったら今度は俺が胸もんであげるね。

 『楽しい夫婦になるポイントその六』

 〈妻が気分よければ大胆なジョークも使える。〉

渋沢吾郎:清子。今日は特別に俺の気持ちがこもっている表彰状をあげる。

    表 彰 状      渋沢清子殿

 あなたはえらい。凄くえらい。俺はあなたと結婚してよかった。これからもよろしく。

そして、副賞はまむしドリンク一年分です。

 『楽しい夫婦になるポイントその七』

 〈プレゼントはお金がかかるので、表彰状を替わりにあげるのも一つの方法。さらにアイデアを工夫すると生活がより楽しくなる。〉

渋沢清子:あなた。私幸せでなんか怖い。

渋沢吾郎:幸せでいいんじゃないの。その分なんかやる気が出てくるだろ。

渋沢清子:うん。私もっと頑張るね。

 『楽しい夫婦になるポイントその八』

 〈幸せになると夫も妻もやる気が出てくる。〉

 さらに、このビデオには楽しい夫婦になるポイントがまだあった。その他の楽しい夫婦になるポイントは以下のとおりである。

 その九  お互いのミスは責めない

 その十  長所を認める

 その十一 遊ぶ機会を作る

 その十二 相手がひどいと思う悪口は言わない

 その十三 助け合う

 その十四 小さな事でもいいところは誉める

 その十五 何か起きたら話し合う

 その十六 お互いを信用する

 その十七 お互いを大切にする

 その十八 お互いを尊重する

 その十九 隠し事はしない

 その二十 共に行動する

 その二十一 優しく接する

 ビデオは終わり、それを見た川原のだんなは美恵ともっと話すようになり、美恵もだんなに優しく接するようになった。河原家の家庭は徐々に明るくなってきたという。


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