第13話 自殺願望

次の患者は衣川光一33歳である。

渋沢吾郎:今日はどうしました。

衣川光一:自殺願望が止まりません。

渋沢吾郎:そうですか。理由は。

衣川光一:自分には未来がありません。希望もありません。これから生きていく自信もありません。命も狙われています。どうせならいっそうのこと自殺をしようと思っているのですが・・・。

渋沢吾郎:なるほど。これは厄介な問題ですね。未来が無い。希望が無い。ですか。

衣川光一:生きていて楽しいことが無いのです。

渋沢吾郎:そうでしょうね。夢が無い人生ほど辛いものはありません。

衣川光一:なんでこんな運命になっているのか自分でもわからないのです。

渋沢吾郎:そうでしょうね。天のシナリオは解り難い。でも、ここに来ているということはまだあなたに生きる意志があるということは理解できていますか?

衣川光一:・・・・・・。確かにその通りです。渋沢先生のカウンセリングは患者に希望を与えるという噂を聞いています。

渋沢吾郎:そうですか。私の意見ですが、この状態を切り抜ける方法はいくつかあります。まずは何もかも忘れて、国の生活補助金をもらって遊んで暮らす。これがひとつの方法。次の方法は、原因を徹底的に探り、根本的なところから解決を狙う。これもひとつの方法。今のところこの2つです。捨てるか解決させるか。ただ、捨てるといっても、一時的にそうしていて時期が来れば頑張ればいいという方法もありますが。

衣川光一:私は根本的なところから解決をしたいです。

渋沢吾郎:そうですか。一番難しい方法を選ぶんですね。でも、希望はあります。まず言えることは私はあなたの味方です。そう。味方を増やしていく方法が地味ですが、一番効果があります。

衣川光一:なるほど・・・。さすが渋沢先生ですね。

渋沢吾郎:希望が見えてきましたか?

衣川光一:はい。ありがとうございます。とりあえずそうしてみます。

渋沢吾郎:やり方は、一人一人を大事にしていくところから始まります。見えてきましたか?

衣川光一:わかりました。ありがとうございます。

 と、診察は終わった。衣川光一は何かを感じたらしく、吹っ切れた状態で帰って行った。

 今日の夜吾郎は清子と自殺について話していた。

渋沢吾郎:なあ、清子。今、結句自殺者が本当に多いよな。原因は何だと思う?

渋沢清子:そうね。自分に未来がない、自分を支えているものが何もない、そういったところからそうなっちゃうんじゃないかなあ。

渋沢吾郎:そう。それに、生きる意欲をなくすと自殺に走ってしまうんだよ。

渋沢清子:うん。そうよね。

渋沢吾郎:で、どうすれば自殺は止められるか。それは自分が生きていることに理由が必要なんだと思う。自分には使命がある。生きていることが楽しい。自分は誰かの役に立っている。などとね。つまり、この世にいる理由を認識すれば、頑張れるんだと思う。

渋沢清子:なるほどね。

渋沢吾郎:そう。だから、俺は患者には必ず方向性を言うのは、このためなんだよ。

渋沢清子:なるほどね。

渋沢吾郎:今日の結論はこんなところだな。

渋沢清子:そうね。

 と、二人の会話は今日も続いた。

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