第5話 結果を残したい

次の患者は山本啓太26歳である。

渋沢吾郎:今日はどうしました?

山本啓太:実は、僕はいま、うつなんです。

渋沢吾郎:それは、誰かに話しましたか?

山本啓太:はい。ですが、わかってもらえません。

渋沢吾郎:うつになるパターンはですね、ずっと張り詰めてきた緊張が限界を超えると、急に糸がぷつりと切れたように元気がなくなるというケースが多いです。なにか、悩んでることがあったのではありませんか?

山本啓太:はい。自分が今までやってきたことが、なくなってしまうということです。

渋沢吾郎:つまり、どういうことですか?

山本啓太:今まで自分がやってきたことが、他人に奪われるのです。悔しくて溜まりません。

渋沢吾郎:それは辛いですね。真実が曲げられるほど辛いことはありませんよね。

山本啓太:はい。自分は、この世に、結果を残したいのです。しかし、他人に奪われれば、評価は他人に持っていかれます。

渋沢吾郎:それではうつになってしまうのも無理ないですね。

山本啓太:そうです。

渋沢吾郎:では、誰にも真似ができない結果を残してはどうでしょうか。

山本啓太:なるほど。

渋沢吾郎:そうです。もっとスケールを大きく持つのです。スケールが大きければ、誰も真似ができません。

山本啓太:渋沢先生の言うとおりです。ありがとうございます。

渋沢吾郎:では、今日はこの辺でいいですか?

山本啓太:はい。いいアドバイスありがとうございます。

 と、山本啓太の診察は終わった。

その夜、五郎は清子と話した。

渋沢五郎:なあ、清子。結果を残すということについてどう思う?正直大変なことだと思うけど。

渋沢清子:そうね。それに、結果を作ってそれを著名人に奪われるのはつらいわね。はっきり言って、やる気がなくなっても当然よ。

渋沢五郎:そうだよな。他人の夢を潰すことは許せないよ。だけど、人生はそういうものかもしれないな。それに、世の中は奪い合いの世界も存在する。ただ、人としての最低限のルールは必要だと思う。例えば、真実を曲げないとか。

渋沢清子:あなたってほんとよくできてるね。私、惚れ直しちゃう。

渋沢五郎:そう言われると、なんか俺もやる気が出てきた。

渋沢清子:私も。

  その夜の2人はお互いに満足した。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る