第12話 遅くなった晩餐
詰所の前まで来ると、食欲をそそる良い匂いが立ち込めていた。
建物の前に置かれたテーブルと、調理をしている焚火の側には、番兵達が集まって夕飯を食べている。
「やべー、いい匂い。」
「私たちも早く城に戻りましょう。 きっと用意されてますから」
「えー? もうここで、みんなと一緒に食べてもいいんじゃね?」
食事をしているテーブルの近くまで歩いていく。大きな皿の上に、焼いてある肉の塊が山積みに置かれていた。皿からこぼれていた肉を、手に取ろうとしたがサリーに見つかり注意される。
「ちょっと! なにしようとしてるんですか!」
「いいじゃん、一個くらい! ケチだなぁ。」
「ケチとかじゃなくて、はしたないから言ってんの!」
言い合いをしていると、ヴィラが馬車と数人の番兵らを引き連れてやってきた。
「エリーナ様との用件は、もう済んだみたいですね。 お二人とも、ここで食事をしてから帰りますか?」
「いいんですか! じゃあお言葉に甘え――」
ヴィラの誘いに乗ろうとする俺の言葉を、即座にサリーが遮る。
「せっかくの申し出ですが、私たちは早急にガダヴォルフ城へ戻ります。」
「そうですか、それは残念ですね。 あなたたちのおかげでしたので……」
「俺達のおかげ?」
何の事を言っているのか分からない俺に、ヴィラが調理している焚火近くにあった毛皮を拾って見せた。
「今日の晩食は、あなた方が倒した魔獣の肉ですから」
「さっきの犬と熊かよっ!? ……あっぶねー、食わなくてよかったわ」
「私ら兵士にとっては、この上ない御馳走なんですよ」
「あぁ…… そうなんですね」
食べている番兵達に目をやる。確かに、食事をしている者みんなが美味しそうに、魔獣の肉を食べていた。しかし、自分たちを襲ってきた魔獣と聞いてしまったことで俺の食欲は一気に無くなってしまった。
ヴィラとサリーに連れられて、用意された馬車へ乗り込む。客人を乗せる物なのか、内装はとても煌びやかな造りをしていた。
俺とサリーが乗り込みドアを閉めると、ヴィラと複数の兵士達は、周りを囲むような陣形をとった。
「それでは出発します。 もし、途中で先程のような襲撃がありましても、外に出ないようお願いします。」
説明をしたヴィラが合図を出すと、ゆっくり馬車は動き出す。多少の揺れは感じるが、乗り心地は良かった。対面に座っているサリーは、馬車の窓に映っている自分の姿を見ている。エリーナさんから貰ったピアスを、嬉しそうに触っては、何度も室内が映った窓の横顔を確認していた。
「嬉しそうだな、そんなに欲しかったのか?」
「うん! これ、見た目もすごく良いけど、私の能力を最大限に活かせる付与もついてるから。 実は、前々からエリーナ様におねだりしてたんだぁ!」
「へぇ、サリーの属性って風だったっけ? どんなことできんの?」
属性の種類は分かっていても、具体的な内容は聞いていなかった。
「私は
「ふーん。補助魔法みたいなもんか……」
ルーペで見た限り、サリーの魔力量はかなり少なかった。そのピアスを付けた状態で見てはいないが、あの時よりも魔力は上がっているのだろう。
それに比べて、俺の能力は魔力吸収だが、属性は無い。この世界は属性や固有能力で魔力を消費する。つまり、俺には魔力はあっても、この魔力を活かす事はできない。
悶々とそんな事を考えながら、窓に映る自分を見ていた。
そして気付く。自分の上着が汚れ、右腕の一部が穴空きしている。
「しまった! この服、どうやってグニルダさんに説明しよう!」
「あっ! すっかり忘れてました! どうしましょう!!」
「やべーよ! とりあえずは、戦闘は無かったって事にしようぜ!」
「でも、その服の説明でうしたらいいでしょう?」
次第に近づく城。あまり悠長にしている時間は無い。
苦肉の策として、上着は途中で棄てた事として処理。そして、魔獣の襲撃があった事を黙っているようにと、馬車を護衛しているヴィラに伝えた。
「マサルさま、まだシャツの穴がっ!」
「これはこうすれば、なんとか誤魔化せるだろ」
シャツの袖をまくり上げて、穴が空いている部分を隠す。
一連の
馬車が止まり、上着を室内に置いてサリーと共に降りる。
城の正門は開いている。その前には、巨大な番兵のアトラーと同じ格好をしたグニルダさんが待っている。少し距離は遠いが、間違いなく怒っているのが分かる。
なぜなら、口から時折に火が噴き出していたのだ。
「では、私共はこれで失礼します。……ご武運を……」
「えっ!? ちょっと今なんて!!」
ヴィラ達護衛は、遠くからグニルダさんに一礼した後、足早に去って行ってしまった。
仕方がないので、二人でグニルダさんの所まで歩いて行く。本当ならば、ヴィラに遅くなった理由などの説明をして欲しかったのだが。
「一体、今何時だと思っておるのだ! サリー!!」
「申し訳ありません! グニルダ様!!」
「マサル様をこんな夜まで連れまわしおって! 万が一何か起こったらどうするつもりであったのだ!!」
悪魔というか鬼の形相で、サリーを
「ち、違うんだよ! 俺がエリーナさんに早く会いたいって言ったから――」
「だとしてもです! 城内の者、先方のエリーナ様に、何の報告一つも無しに行動したのは
ぐうの音も出ない。さすが城の執事を担っているだけはある。
時間は定かではないが、永遠とも思えるグニルダさんの説教を聞き続ける俺とサリーは、危うく泣いてしまうところであった。
「——である……ところでマサル様、お召し物の上着はどうなされたのですか?」
「あっと、こ、これは……そう! 途中で暑くたってさー、どこかに置いてきちゃったんだよー!」
「そうですか。 では、新しい物を用意致しますので、そちらに着替えてから夕食に致しましょう。 すでに、アーリア様はご食事を済まされており、待っておられます。」
「はっ? アーリアが? なんで?」
俺の新しい上着を持ってくるようにと、指示を出しているグニルダさんに気付かれないような声で、サリーが簡素に説明してくれた。
どうやら、説教が続いていると思っていたが、途中からアーリアを招いての晩餐をとしていたのに、という話になっていたようだ。
新しい上着を持ってきたメイドに服を着せてもらい、グニルダさんの案内されるがまま食堂へと通された。
そこには広い空間と長いテーブルがあり、ワインを飲むアーリアの姿があった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます