第6話 魔王城 ガダヴォルフ
「おぉ! 城内ってもっと、こう……薄暗くて、怖いイメージだったんだけど。」
召喚された部屋から出ると、広くて明るい通路が左右に続いている。
「ここガダヴォルフは、元々人間種が造った物を先代魔王様が譲り受けたのです。」
「へぇ、先代の魔王が造らせた訳じゃないんだ?」
「はい、ですので城内の管理や警護、雑務等は人間種に姿形が近い種族等で構成されているのです。 ただ、あのような城内の一部となれるものは例外ですが。」
グニルダさんが指さした方向に目をやると、そこには通路の両側に等間隔で並んでいる銅像があった。
「これ、ただの銅像じゃないの?」
「これらはガーゴイルが変化しているのです。 今は像ですが、専用の鈴を鳴らせば元の魔物に変わります。 起こしてマサル様にご挨拶を致しましょう。」
左胸ポケットに手を入れて取り出そうとしているのを見てすかさず
「いや、いいよ! それより先に俺の部屋に行こうか!?」
「かしこまりました。」
再び歩こうとした時だった。
初めてこの城内でグニルダさんとサリー以外の人に出会った。
「グニルダ様、先程お持ちになられましたテーブルセットは何処に?」
「あれは召喚部屋にあるので片付けておいてくれ。」
「かしこまりました。 ……こちらの御方は?」
最初に会った時のサリーのような美しい女性が俺の方に顔を向けて訪ねてくる。
「この御方は、新しき魔王様で在らせられる。 お前もサリー同様、皆に周知させるように頼むぞ。」
「どうも。」
軽く愛想笑いをしたがら俺が挨拶をすると、グニルダさんと同じだったように片膝をつき頭を下げたまま
「お初にお目にかかります、魔王様。 ご用が御座いましたら何なりとお申し付け下さい。」
「あ、はい。 わかりました。」
「それでは失礼致します。」
にこやな笑顔を残し、去っていく彼女の後ろ姿を目で追いながら、サリーとはまた違った甘い残り香についつい鼻の下を伸ばしてしまう。
ふと、サリーと目が合うと 虫けらを見るかのような目で俺を見ていた。
「なにか?」
「いえ、別に。」
サリーが俺を置いて先に行ったので、二人について行く。
「こちらがマサル様のお部屋になります。」
「おおぉ!」
赤に金の細かい細工がなされた大きな扉、中に入ると中世の宮殿のような煌びやかな内装の寝室であった。
「すっげーけど、これが玉座の間ってのなの?」
「いいえ、こちらは寝室。玉座の間は最上階の中央にございます。」
「最上階? この城って、何階建て?」
「ガダヴォルフ城は地上3階の地下2階になっております。今私どもがおりますのは2階の城内にいる方々と我ら使用人どもの居住階であります。」
部屋にあるテーブルセットの椅子に腰かけると、サリーが前のように予め用意されていたガラス製の容器に入った水を注ぎ、俺に渡そうと近づいてくる。
「前みたくこぼすなよ。」
「二度もそんなことしませんよ。」
「ふーん。」
サリーが入れた水を一口飲み高い天井を見ていると、あることに気が付いた。
「2階が居住スペースって言ったけど、召喚部屋ってのも同じ階だよね?」
「召喚部屋は主に力を持つ方々しか使用できないので、すぐお部屋にご案内できるようにと造られているのです。ですので、いつ魔王様が召喚されてもいいように、私はあの部屋で待機しておりました。」
「じゃあ先代魔王が戻ってくるの待ってたら、俺が来たって感じなんだ。」
グニルダさんの表情が急に曇り、両腕に力が入っている。
「いえ、先代魔王様はお隠れになられたのは間違いございません……」
これ以上聞くのはやめておこう。今まで見たグニルダさんの態度からしても相当新しい魔王、つまりは俺のことを待っていたのだから。
「と、とりあえず。 じゃあ玉座の間って所に行こうか!? その封印された扉が開くかも知れないしさ!」
「はい、では早速ご案内致します。」
椅子から立ち上がり、部屋から出ようとしてまた一つ疑問が浮かんだ。
「そういや召喚されるのって魔王以外にいるの? 俺の他ってなると、あの七つのなんとかって人達?」
「はい。 ただし、嫉妬と傲慢・憤怒の方々はこちらでの召喚はなされません。」
「へぇ、ということは。 他の4人は来るんだ。」
「すでにこのガダヴォルフ城内に怠惰のベルフ様、色欲のアーリア様はお住まいになっておりますので、玉座の間に行った後はお二人にお会いして頂きたいのです。」
余計な事を聞いたなという思いの中、俺は玉座の間に向かうため部屋を出た。
階段を登りきると今まで見たどの部屋の扉より大きい銀のような扉の前に来た。
扉というよりかは、門といった方があっている。
「うっひょー! でっけー!!」
「マサル様。 この中央の印がこの封印解除の場所にになります。」
扉の中央には俺の手のひらと同じ模様の半球体とその周辺を囲むように七つのそれぞれ違う模様をした半球体がはめ込まれている。
俺はその部分を手で触ってみたが、なんの反応もない。
「なんにも起きないな。」
「やはり皆様の承認をもらわなければならないようですね。」
「承認?」
「この扉に記されている。七つをそれぞれ
確かに扉の中央の印は俺のと一緒ではあるが、俺の紋章には周りにある七つの印はない。
「べ、別に開かなくても大丈夫なんじゃないかな?」
「それはご自身が魔王になりなくないとおっしゃるのと同義ですよ。」
間髪入れずにサリーが俺の問いかけに答えた。
魔王を辞退する……それはせっかく転生してくれたあの難聴天使ばぁちゃんやここにいるグニルダさんの気持ちに応えないということ。
転生する前、何も成しえずにただ惰眠を貪り、人生を過ごしていた過去の自分に戻るということと、同じなのではないだろうか。
周囲から疎まれ、家族からは落胆されながら過ごす日々に笑っていたが、実際俺の内心はひどく自己嫌悪に襲われていた。あの時みたくなるくらいなら、せっかくの異世界ファンタジーを、あの小説やゲームの中でしかなかった空想世界を楽しむべきなのではないのか。
自分で自問自答していると、グニルダさんが心配そうな顔をして近づき
「マサル様……例え全ての力が手に入らなくとも、私はあなた様はお慕え申しております。」
「あはは……冗談、冗談だよ!」
愛想笑いの後、封印の扉へと続く長い下り階段を見ながら
「せっかく生き返ったんだ、とことんやってやろうじゃないか!!」
二人の不思議そうな顔が目に浮かぶが、俺は声を張り上げていた。
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