第31話 傷を癒して
アンナとカルーナは、カルモの村に戻っていた。アンナはカルーナに肩を貸してもらい、なんとか歩いて来れた。
カルモの村の人々は、アンナとカルーナの帰りを待っていたらしく、温かく迎えてくれた。
どうやら、諸々の騒動からアンナが勇者だということは知られているようだった。
「アンナさん! カルーナさん!」
「ティリアさん!」
「ティリアさん、ただいま戻りました。それで、お姉ちゃんを……」
その中でもティリアは、特にアンナとカルーナの帰還を喜んだ。
しかし、傷つききったアンナの姿を認識すると、大きく動揺した。
「だ、大丈夫ですか!?」
「だ、大丈夫――」
「――じゃないです。お姉ちゃんの傷を治してください」
「カ、カルーナ? そんなに焦らなくても……」
「アンナさん、焦るべきです。傷の治療は、一分一秒が大事です。私の家に行きましょう」
という訳で、三人はティリアの家に向かった。
◇
アンナは、ティリアの家のベットで上半身裸になり、うつ伏せの状態になっていた。
背中には、ガルスの必殺技によってできた無数の傷があった。
ティリアには、何があったかを大まかに説明してあった。
「なるほど、事情はわかりましたが、この傷はひどいですね」
ティリアは傷の状況を見ながら、そう結論付けていた。
カルーナは、アンナの傷を見ながら、悲しそうな苦しそうな顔をして、言葉を発した。
「ガルスさんは、いい魔族ではあったけど、乙女の柔肌にこんな傷をつけるなんて、流石にそこはひどいよ」
「ま、まあ、そうだよね。跡が残ったりしないといいけど……」
「お、お姉ちゃん!?」
アンナの何気ない発言に、カルーナは強く反応した。
アンナが疑問に思っていると、カルーナが続きを口にした。
「ちゃんと、そういうことを気にしてたんだね!」
「え? カルーナ、それはちょっとひどくない?」
「あ、ごめん。お姉ちゃん、女の子っぽい所、あんまり見たことなかったから」
「もう……」
「ふふ、お二人とも仲が良いんですね……」
二人のやり取りを笑いながら、手を構えていた。
「いきます。ちょっと、痛いかもしれません。ですが、傷跡一つ残しませんよ。
「え? あ、い、痛……」
「我慢してください」
アンナの背中に、回復魔法がかけられた。
温かさとともに、しみるような痛みが背中に走った。
アンナは、今まで回復魔法というのはあまり痛みもなく、回復できるものだと思っていた。
事実、デルゴラドとの戦いの後は、こんな痛みは感じなかった。
「なんで、こんなに痛いの……?」
「それは、体が切れていて、回復魔法が直接傷に当たっているからです」
アンナが思わず口にした言葉に、ティリアが答えてくれた。
その言葉で、アンナは大体理解することができた。
「でも、痛いものは……痛い!」
「もう少し、我慢してくださいね」
「うう、わかりました」
アンナの治療は続いていった。
◇
アンナの治療は、かなりの時間続いた。
治療が終わった頃には、既に日が暮れていた。
「わあ、すごいよ。お姉ちゃん、傷が全部消えてるよ。跡も残ってないし!」
「そうなんだ。自分では痛みがなくなったことしかわからないけど、それならよかったよ」
「後は、安静にしてくださいね」
「あ、ありがとうございます。ティリアさんがいてくれて、助かりました」
「本当にありがとうございました。じゃあ、宿に行こうか、お姉ちゃん」
カルーナがそう言って立ち上がると、ティリアが声を発した。
「カルーナさん、カルーナさんも治療します」
「あ、いえ、私はそんなに傷ついてないですよ」
「カルーナ、ここは受けといたほうがいいよ」
「じゃ、じゃあ、お願いします」
「はい、それじゃあ、座ってください」
カルーナが座ると、ティリアは手を構えて、魔法を放った。
「
「あ、ありがとうございます」
カルーナの傷は大したことがなかったため、すぐに治療は終わった。
「さて、これでお二人の治療が終わりました」
「よかったね、カルーナ」
「うん、回復魔法が使える人がいて本当に助かりました」
「あ、いえ、そんな……」
ティリアは照れながら、そう言っていた。
ティリアの回復魔法に感謝しながら、アンナは一つの疑問を口にした。
「それにしても、いざっていう時、カルーナも回復魔法を使えた方がいいのかな?」
「あ、それなんだけど、実は攻撃魔法と回復魔法って、大分形式が違っててね。私は、あんまり得意じゃないんだ……」
「ああ、そうなんだ」
「あ、練習とかしてないって訳じゃないけど……」
「あ、そんなことを気にしてないよ。魔法のことは、カルーナの方が詳しいし、それに得意分野を伸ばす方がいいと思うし」
そんなアンナとカルーナの会話を、ティリアは見つめていた。
何か、きょとんとした顔だったため、アンナは疑問を投げかけた。
「ティリアさん、どうかしたんですか?」
「……あ、いえ、なんでもないです」
「そうですか?」
その日は、それだけでアンナとカルーナは宿に戻っていった。
◇
アンナとカルーナは、宿に戻り入浴を終えて、いつも通り二人でベットに入っていた。
アンナは、体がすっかり良くなり、ティリアに深く感謝していた。
しかし、カルーナは何故か浮かれない顔をしているので、疑問に思っていた。
「カルーナ、どうかしたの?」
「え……?」
「なんだか浮かれない顔しているよ」
「そ、それは……」
アンナの質問に、カルーナは動揺しているようだった。
どうやら、自分でもそういう顔をしている自覚はあったらしい。
「私に話せないこと?」
「あ、そうじゃないよ。その……」
「うん?」
「なんだか、今日の戦いを思い出しててね……」
「ガルスとの戦い? 何か気掛かりなことがあったの?」
アンナの言葉に、カルーナは意を決したような表情をして、言葉を発した。
「私……ガルスさんに、お姉ちゃんを殺さないって言われた時……」
「ああ、私の右手を切り落とすって言った時か……」
あの時は、アンナは他のことを色々と考えていたため、ガルスの発言については深く思考していなかった。
ただ、右手を切り落とすと言われて怖かったというのは、記憶に残っていた。
「私、それでもいいかなって、思っちゃったの……」
「え?」
「私は、お姉ちゃんと平和な暮らしができればそれでいいって、心のどこかで思ってたんだ……」
「カルーナ……」
「お姉ちゃんみたいに、私は決意できていなかった……」
そもそも、カルーナが旅に同行したのは、アンナとともにいたいからという理由だった。
アンナでさえ、最初から明確な決意を持っていた訳ではなかった。
そのため、カルーナがそう思っていてもいいのではないかと、アンナは思った。
しかし、カルーナの中ではショックだったようで、悩んでいるようだった。
「カルーナ、そんなに思いつめなくてもいいよ。誰だって平和に暮らしたいと思うのは、当然じゃないか」
「うん……」
「だから、気にする必要なんて……ないんだよ」
アンナは、カルーナを抱きしめ、ゆっくりと頭を撫でながら、そう諭した。
「ありがとう、お姉ちゃん。おかげでちょっと楽になったよ」
「うん、それならよかったよ」
カルーナが安心したよう顔になったため、アンナはもう心配はいらないと判断した。
「よし、それならそろそろ寝ようか?」
「うん、お休みなさい、お姉ちゃん」
「お休み、カルーナ」
こうして、二人は眠りにつくのだった。
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