第23話 カルモの村

 アンナとカルーナは、馬車で数日かけてカルモの村まで来ていた。


「ふう。結構かかったね、カルーナ」

「うん、ここがカルモの村だね」


 カルモの村は、なんの変哲もない普通の村であった。


「ここに聖女様がいるのかな?」

「多分、そうだと思うけど、どこにいるんだろう?」

「うーん、まあ、村の人に聞いてみればわかると思うよ」

「え? あ、うん。そうだね、それがいいと思うよ」


 カルーナの提案に頷くアンナを、カルーナが怪訝な目で見ていた。


「カルーナ、どうかしたの?」

「いや、お姉ちゃん。前々から思ってたけど……」

「思っていたけど?」

「ひょっとして、知らない人と話すの……苦手?」

「あ、うっ……そうです」

「やっぱり……」


 実は、アンナは他人と話すのが得意ではなかった。

 そもそも、アンナは境遇上、家族以外と話す機会は、あまりなかった。

 そのせいで、人と話す時、どうすればいいのかなどがわからなかったのだ。


「うーん、お姉ちゃんの境遇上、仕方ないとは思うけど、ちょっとずつ慣れていこうね

「うん、ありがとう。カルーナ」

「じゃあ、まず宿に向かおう」


 そう言って、二人は宿に向かった。





 馬車をしまった二人は、宿に来ていた。

 早速宿の主人に、村の聖女について、聞いてみることにした。


「あの、この村に聖女様がいるって噂を聞いたんですけど、それって本当ですか?」

「うん? ああ、聖女様か。確かにいるぜ」

「やっぱり、本当なんですね」

「まあな、この辺じゃ、結構有名だぜ」


 カルーナが聞いてみると、宿の主人はそう答えてくれた。

 どうやら、聖女は本当にいるようだ。

 次の問題は、どうやったら会えるのかと治療をしてもらえるかだ。


「どこに行けば、会えるんですか?

「村の奥の方に行けば、すぐにわかるさ。まあ、今日、会えるかどうかは、ちょっと怪しいかもしれないがな」

「うん? わかりました。ありがとうございます」


 それだけ言って、カルーナはアンナの方に顔を向けた。


「どうする? 今から行ってみる?」

「うん。早い方がいいよ。いい加減この手が不便だしね」

「じゃあ、行ってみようか」


 二人は、宿から出て、しばらく村を歩いた。

 すると、宿の主人の言っていたことが理解できた。


「うわあ、すごい行列だ」

「宿の人が言ってた意味が、わかったね」


 村のある民家の前に、行列ができていた。

 どうやら、聖女の噂を聞きつけてきた者達の行列のようだった。


「これは今日までには、難しいそうだなあ」

「どうしようか、お姉ちゃん? いざとなったら……」


 そう言って、カルーナは懐からあるものを取り出した。

 それは、ウィンダルス王から与えられたメダルである。メダルには、王家の紋章が刻んである。

 これは、王家の権力の証であり、王国内ではこれを見せることで、かなり融通を効かせることができるものだ。

 しかし、アンナは、そういったものを使おうという気分にはなれなかった。

 ここに来ている人々も、目的はアンナと同じはずだろう。

 そんな人たちの間を入るのは、どうにも気が引けてしまった。


「いや、並んで待とうよ。どの道、今日はこの村に泊まるんし、待ってればいいよ」

「うん、そうだね。じゃあ、並ぼうか」


 二人は、列の最後尾に行き、自分の番が来るのを待つことにした。

 列には、十数名が並んでおり、中に入った人が中々出てこなかったため、時間はかなりかかると感じた。

 待っている間、二人は喋りながら過ごすことにした。


「それにしても、この右手が無事に治るのかな?」

「うーん、前提として、そこは問題だもんね。でも、すごい魔法を使うみたいだし、きっと大丈夫なんじゃない?」

「うん。ただ、治らなかった場合のことも考えなきゃならないと思ってさ」

「そうだね。もし、治らなかったら、エスラティオ王国でも聞いてみよう」


 エスラティオ王国は、聖なる国と呼ばれるほどの国である。

 そんな国なら、きっと魔族が放ったこの呪いにも、対抗できるのではないかと、カルーナは思っていた。


「エスラティオ王国か。どんな国なのか、よく知っている訳じゃないけど、カルーナは知ってるの?」

「え? うーん、私も行ったことないから、詳しくは知らないよ。でも、知っていることとすれば……」

「すれば?」

「今、エスラティオ王国は、女の人が国王様なんだ」

「ふーん。つまり、女王様ってことなんだね」

「うん。なんでも、高い魔力を持った女王様で、高名な魔法使いとしても有名なんだよ」


 同じ魔法を使う者として、カルーナは女王に憧れを持っているように、アンナには見えた。

 確かに、女王にして魔法使いという肩書は、中々すごそうだとアンナも感じた。

 そして、考えてみると、自分達はその人と会話することになると気づいた。

 今は、人前なので聞けないが、後でカルーナに改めて作法を教えてもらおうと、アンナは思った、


「やっぱり、カルーナは色々知ってるよね。私も、叔母さんに習ったはずなんだけど、全然覚えてないや……」

「私は、どちらかというと、町に出て色んなことをしている内に覚えた感じだから、それに多分習った時には、まだ女王じゃなかったと思うよ」

「え? そうなの?」

「うん。女王様になったのは、ここ最近だよ」

「へえ、そうなんだ。何か事情があるの?」

「五、六年前くらいに、先代の王様が急に亡くなってから、一人娘の女王様が継ぐことになったんだ」

「じゃあ、結構日が浅い人なんだね」

「うん、他に血縁がいなくて、まだ若いのに苦労したみたいだよ」


 王族にも色々あるものなのだと、アンナは感じた。

 そんな話をしていると、列が進んでおり、そろそろ自分達の番であると、二人は気づいた。


「もうちょっとみたいだ」

「うん、聖女様って、どんな人なんだろうね?」

「そ、そりゃあ、聖女っていうくらいなら、高貴な感じなんじゃない? なんか緊張するね」

「お姉ちゃん、次みたいだね」


 自分達の前にいる人間が、家の中にから出てくるのを見て、カルーナがそう言った。

 すると、中から、


「次の方、どうぞ」


という、透き通った女性の声が聞こえてきた。


「は、はーい」

「じゃあ、行こうか、お姉ちゃん」

「うん」


 アンナは返事をし、心を決めてドアを開けた。

 内装は、普通の家であった。そして、家の奥にある椅子に、アンナと同年代の女性が座っていた。

 女性は、長く白い髪をしており、落ち着いているような雰囲気をアンナは感じた。


「なんか、イメージぴったりだなあ」

「うん、聖女様って感じする、綺麗な人だね……」


 二人が少し、面食らっていると、女性は微笑みながら口を開いた。


「お二人とも、初めまして。私はティリアといいます」

「あ、初めまして、アンナです」

「その妹のカルーナです。今日は、よろしくお願いします」

「今日はどうされたんですか?」

「あ、えっと……」


 アンナは、ティリアにここに至るまでの事情を説明するのだった。

 アンナが、自らが勇者だと語ると、ティリアは目を見開き驚いた。


「あ、あなたが……勇者様、なんですか……お噂は聞いています」

「あ、どうも……」

「この国に侵攻していた剛魔団を倒して頂いて、本当にありがとうございます」

「あ、いえ、私は、勇者として当然のことをしたまでです」


 ティリアにお礼を言われ、アンナは照れてしまった。

 そんなアンナを、横からカルーナが小突いてきた。このままでは、話が進まないからだ。

 という訳で、アンナは本題を話すことにした。

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