第23話 カルモの村
アンナとカルーナは、馬車で数日かけてカルモの村まで来ていた。
「ふう。結構かかったね、カルーナ」
「うん、ここがカルモの村だね」
カルモの村は、なんの変哲もない普通の村であった。
「ここに聖女様がいるのかな?」
「多分、そうだと思うけど、どこにいるんだろう?」
「うーん、まあ、村の人に聞いてみればわかると思うよ」
「え? あ、うん。そうだね、それがいいと思うよ」
カルーナの提案に頷くアンナを、カルーナが怪訝な目で見ていた。
「カルーナ、どうかしたの?」
「いや、お姉ちゃん。前々から思ってたけど……」
「思っていたけど?」
「ひょっとして、知らない人と話すの……苦手?」
「あ、うっ……そうです」
「やっぱり……」
実は、アンナは他人と話すのが得意ではなかった。
そもそも、アンナは境遇上、家族以外と話す機会は、あまりなかった。
そのせいで、人と話す時、どうすればいいのかなどがわからなかったのだ。
「うーん、お姉ちゃんの境遇上、仕方ないとは思うけど、ちょっとずつ慣れていこうね
「うん、ありがとう。カルーナ」
「じゃあ、まず宿に向かおう」
そう言って、二人は宿に向かった。
◇
馬車をしまった二人は、宿に来ていた。
早速宿の主人に、村の聖女について、聞いてみることにした。
「あの、この村に聖女様がいるって噂を聞いたんですけど、それって本当ですか?」
「うん? ああ、聖女様か。確かにいるぜ」
「やっぱり、本当なんですね」
「まあな、この辺じゃ、結構有名だぜ」
カルーナが聞いてみると、宿の主人はそう答えてくれた。
どうやら、聖女は本当にいるようだ。
次の問題は、どうやったら会えるのかと治療をしてもらえるかだ。
「どこに行けば、会えるんですか?
「村の奥の方に行けば、すぐにわかるさ。まあ、今日、会えるかどうかは、ちょっと怪しいかもしれないがな」
「うん? わかりました。ありがとうございます」
それだけ言って、カルーナはアンナの方に顔を向けた。
「どうする? 今から行ってみる?」
「うん。早い方がいいよ。いい加減この手が不便だしね」
「じゃあ、行ってみようか」
二人は、宿から出て、しばらく村を歩いた。
すると、宿の主人の言っていたことが理解できた。
「うわあ、すごい行列だ」
「宿の人が言ってた意味が、わかったね」
村のある民家の前に、行列ができていた。
どうやら、聖女の噂を聞きつけてきた者達の行列のようだった。
「これは今日までには、難しいそうだなあ」
「どうしようか、お姉ちゃん? いざとなったら……」
そう言って、カルーナは懐からあるものを取り出した。
それは、ウィンダルス王から与えられたメダルである。メダルには、王家の紋章が刻んである。
これは、王家の権力の証であり、王国内ではこれを見せることで、かなり融通を効かせることができるものだ。
しかし、アンナは、そういったものを使おうという気分にはなれなかった。
ここに来ている人々も、目的はアンナと同じはずだろう。
そんな人たちの間を入るのは、どうにも気が引けてしまった。
「いや、並んで待とうよ。どの道、今日はこの村に泊まるんし、待ってればいいよ」
「うん、そうだね。じゃあ、並ぼうか」
二人は、列の最後尾に行き、自分の番が来るのを待つことにした。
列には、十数名が並んでおり、中に入った人が中々出てこなかったため、時間はかなりかかると感じた。
待っている間、二人は喋りながら過ごすことにした。
「それにしても、この右手が無事に治るのかな?」
「うーん、前提として、そこは問題だもんね。でも、すごい魔法を使うみたいだし、きっと大丈夫なんじゃない?」
「うん。ただ、治らなかった場合のことも考えなきゃならないと思ってさ」
「そうだね。もし、治らなかったら、エスラティオ王国でも聞いてみよう」
エスラティオ王国は、聖なる国と呼ばれるほどの国である。
そんな国なら、きっと魔族が放ったこの呪いにも、対抗できるのではないかと、カルーナは思っていた。
「エスラティオ王国か。どんな国なのか、よく知っている訳じゃないけど、カルーナは知ってるの?」
「え? うーん、私も行ったことないから、詳しくは知らないよ。でも、知っていることとすれば……」
「すれば?」
「今、エスラティオ王国は、女の人が国王様なんだ」
「ふーん。つまり、女王様ってことなんだね」
「うん。なんでも、高い魔力を持った女王様で、高名な魔法使いとしても有名なんだよ」
同じ魔法を使う者として、カルーナは女王に憧れを持っているように、アンナには見えた。
確かに、女王にして魔法使いという肩書は、中々すごそうだとアンナも感じた。
そして、考えてみると、自分達はその人と会話することになると気づいた。
今は、人前なので聞けないが、後でカルーナに改めて作法を教えてもらおうと、アンナは思った、
「やっぱり、カルーナは色々知ってるよね。私も、叔母さんに習ったはずなんだけど、全然覚えてないや……」
「私は、どちらかというと、町に出て色んなことをしている内に覚えた感じだから、それに多分習った時には、まだ女王じゃなかったと思うよ」
「え? そうなの?」
「うん。女王様になったのは、ここ最近だよ」
「へえ、そうなんだ。何か事情があるの?」
「五、六年前くらいに、先代の王様が急に亡くなってから、一人娘の女王様が継ぐことになったんだ」
「じゃあ、結構日が浅い人なんだね」
「うん、他に血縁がいなくて、まだ若いのに苦労したみたいだよ」
王族にも色々あるものなのだと、アンナは感じた。
そんな話をしていると、列が進んでおり、そろそろ自分達の番であると、二人は気づいた。
「もうちょっとみたいだ」
「うん、聖女様って、どんな人なんだろうね?」
「そ、そりゃあ、聖女っていうくらいなら、高貴な感じなんじゃない? なんか緊張するね」
「お姉ちゃん、次みたいだね」
自分達の前にいる人間が、家の中にから出てくるのを見て、カルーナがそう言った。
すると、中から、
「次の方、どうぞ」
という、透き通った女性の声が聞こえてきた。
「は、はーい」
「じゃあ、行こうか、お姉ちゃん」
「うん」
アンナは返事をし、心を決めてドアを開けた。
内装は、普通の家であった。そして、家の奥にある椅子に、アンナと同年代の女性が座っていた。
女性は、長く白い髪をしており、落ち着いているような雰囲気をアンナは感じた。
「なんか、イメージぴったりだなあ」
「うん、聖女様って感じする、綺麗な人だね……」
二人が少し、面食らっていると、女性は微笑みながら口を開いた。
「お二人とも、初めまして。私はティリアといいます」
「あ、初めまして、アンナです」
「その妹のカルーナです。今日は、よろしくお願いします」
「今日はどうされたんですか?」
「あ、えっと……」
アンナは、ティリアにここに至るまでの事情を説明するのだった。
アンナが、自らが勇者だと語ると、ティリアは目を見開き驚いた。
「あ、あなたが……勇者様、なんですか……お噂は聞いています」
「あ、どうも……」
「この国に侵攻していた剛魔団を倒して頂いて、本当にありがとうございます」
「あ、いえ、私は、勇者として当然のことをしたまでです」
ティリアにお礼を言われ、アンナは照れてしまった。
そんなアンナを、横からカルーナが小突いてきた。このままでは、話が進まないからだ。
という訳で、アンナは本題を話すことにした。
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