第21話 次の目的地は

 アンナとカルーナは、王座の間にて、ウィンダルス王と対面していた。

 ウィンダルス王が、笑顔であったため、二人はその口から発せられる言葉に、期待を覚えずにはいられなかった。


「二人とも、喜ぶのだ。アンナの右手を治せるかもしれない」

「ほ、本当ですか?」

「やったね! お姉ちゃん!」


 ウィンダルス王の言葉で、二人は喜んだ。

 これで、アンナの右手を元に戻すことができるのだ。


「さて、それも含めて、これからのことを話したいのだ」

「はい、わかりました」


 アンナが答えると、ウィンダルス王は大きく頷いた。


「まず、その右手を治す方法なのだが、ある一つの村に噂があるのだ」

「噂……ですか?」

「うむ。国境近くにあるカルモの村に、聖女と呼ばれる女性がいるらしい」


 聖女と聞いて、二人は驚いた。

 そんな風に呼ばれる人がいるというのは、どんな人なのだろうか。


「その聖女は、高度な回復魔法を使い、傷や病をすぐに治すことができるようなのだ。それなら、お主の右手を治すことができるだろう」

「な、なるほど」


 ウィンダルス王の言葉に、アンナは期待を大きくした。

 この右手に何が起こったかはわからないが、噂になるほどに高度な回復魔法なら、可能性はあるかもしれない。


「そして、それに連なり、お主達にはエスラティオ王国に向かってもらいたい」

「エスラティオ王国……」

「お姉ちゃん! それって!」


 エスラティオ王国とは、ウィンダルス王国の南側に隣接している国である。

 ウィンダルス王国よりも小さな国であるが、この国には勇者にとってゆかりの深い国である。


「うむ、エスラティオ王国は聖なる国と呼ばれるほど、勇者に関する伝説や伝承が多い国だ。お主の助けとなるだろう」


 この王国でも、勇者に関する伝承は調べたが、エスラティオ王国ならさらなる力の手がかりが見つかるかもしれない。


「現在、エスラティオ王国には、鎧魔団が攻めてきているらしい。その戦いにも、力を貸してやって欲しいのだ」

「あ、はい。もちろんです。それが勇者の役目ですから」

「ふむ。そこからは、恐らく国を回っていくことになるはずなのだ」

「国を回るですか……」

「ああ、このウィンダルス王国からは、海を跨いで、アストリアン王国にも行けるのだが、今はそちらは通れぬ」

「……通れない? 何か不都合があるんですか?」


 ウィンダルス王が、難しい顔でそう言うので、アンナは思わず聞いていた。


「今、その海路は、海魔団がいるのだ。下手に刺激するのは悪手であると、アストリアン王国と協議して決めたのだ」

「海魔団……やはり、至る所に魔王軍がいるんですね……」

「うむ。故にアストリオン王国に行くには、迂回して行くしかないだろう」


 そこまで言って、ウィンダルス王は思い出したように、手を叩いた。


「そうだ! お主達の旅にあたって、何か欲しいものはあるか? それを聞いておかなければならんと思ってな」

「あ、えっと、ちょっと待って下さい」


 そこでアンナは、カルーナの方を向いた。

 こういうことは、アンナ一人で決めるべきだはないと感じたからだ。

 それに、カルーナの方が、そういうことには詳しいはずだ。


「カルーナ、何かあるかな?」

「うーん、必要なものか……案外、思いつかないものだね」


 しかし、カルーナも、これに関しては特に思いついていないようだった。

 そういう訳で、二人は頭を抱えることになった。

 二人が悩んでいると、ウィンダルス王が声をかけてきた。


「一応、国を渡ったりする時のために、通行証は用意しよう。さらに、お主達の旅費に関しては、全て王国が持とう」

「あ、ありがとうございます」

「お、お世話になります」


 ウィンダルス王の言葉は、とても寛大なものであるため、二人は思わず頭を下げた。

 この旅にかかる資金は、莫大なものになることが予想できるため、そう言ってもらえると二人にとってはとてもありがたいのだ。

 そこで、アンナはある一つのことを思い出た。


「あ、王様、一つありました」

「うむ。アンナよ、なんでも言うといいぞ」

「はい。今回、私達を運んでくれた馬と馬車を譲ってもらえませんか」

「あ、確かにそれは必要だね。流石、お姉ちゃん」

「ああ、お主達を送る手段か。それは考えていたのだが、御者も必要だろうか?」


 ウィンダルス王も、どのような手段で旅をするのか、思案していたようだった。

 御者がいるかという質問に、アンナは少し考える。そして、すぐに結論を出した。


「いえ、御者はいりません。私もカルーナも、馬車の操作は行えます。御者がいても、なんというか……」

「うむ、そうか。それなら、あの馬達と馬車をお主達に譲ろう」


 アンナは、ケシルの村で亡くなった兵士のことを思い出していた。

 あのような思いをしたくないこともあり、御者の同行を拒否したのだった。

 ウィンダルス王も、薄々それを感じ取っていたのか、アンナの言葉を深く言及することはなかった。


「それだけで良いのか? 他にいるものはないのか?」

「……いえ、それだけで大丈夫です。御心配頂き、ありがとうございます」


 アンナの言葉で、締めくくられ、この会話は終了した。

 こうして、アンナとカルーナの次の行き先が決定するのだった。





 アンナとカルーナの出発は、翌日になることになった。

 二人は、入浴を終えて、部屋に戻り、明日の準備をしている最中だった。


「カルモの村で、この右手が治ってくれるといいんだけど……」

「うん、これで解決してくれたらいいね」


 準備といっても、軽く荷物をまとめるだけだったので、カルーナがすぐに終わらせた。

 そのため、二人は、くつろぎながら話をするのだった。


「それで、エスラティオ王国では、鎧魔団が次の相手か……」

「うん、剛魔団長のデルゴラドが言ってたことが本当なら……」

「そう、他の魔将は、デルゴラドよりも強いってことになる」


 アンナは、右手を見つめながら、考えていた。

 デルゴラドに勝てたのは、運やカルーナの手助けがあっても、ぎりぎりだった。

 それよりも、さらに強い相手となると、自分が倒せるのか心配になってくる。


「私は、勝つことができるのだろうか……」

「お姉ちゃん……」

「あ、いや、大丈夫だよ。うん」


 カルーナが、不安そうな顔で見つめてきたため、アンナは、すぐに自分の言葉を打ち消した。

 自分が弱気になると、カルーナまで不安にしてしまうのだ。

 心を強く持たなければならないと、アンナは思うのだった。


「まあ、今日はゆっくりと休んで、明日に備えようよ」

「うん、そうだね。それじゃあ、寝よっか」


 そう言って、アンナとカルーナは同じ布団の中に潜り込んだ。

 最早、二人は、自然とこの状態になるのだった。


「お姉ちゃん、お休み」

「お休み、カルーナ」


 二人は目を瞑り、明日からの旅に備えるのだった。

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