第12話 戦いの準備

 アンナとカルーナは、玉座の間を訪れていた。

 少し待っていると、ウィンダルス王が来たので、二人は跪いた。

 

「楽にしてくれていい」

「は、はい」

「はい、ありがとうございます」


 しかし、ウィンダルス王がすぐにそう言ったので、二人はそれに従い、立ち上がった。


「さて、二人とも昨日はゆっくりと眠れたかね?」


 ウィンダルス王にそう聞かれたので、アンナが返答した。

 昨晩は、ぐっすりと眠れていた。


「はい、お陰様で」

「うむ。それなら、結構」


 そこで、一呼吸置いてから、ウィンダルス王は話し始めた。


「早速で悪いが、本題に入らせてもらおうか。まず、我が国の状態から説明するとしようか」


 王様は、兵士の一人に合図を出す。

 すると、その兵士が口を開き、説明を始めた。


「今現在、我がウィンダルス王国には、魔王軍が侵攻してきています」

「魔王軍……」


 その名前を聞いて、アンナは、いよいよ本格的に戦いに参加するのだと実感した。

 これからは、今まで味わったことのないものが待ち受けているのだろう。

 そう思うと、自然と体が震えるのだった。


「我が国を今侵攻している一団は、オーガである剛魔将デルゴラド率いる剛魔団です」

「剛魔将? それって一体なんですか?」


 聞きなれない単語だったので、アンナは思わず口を挟んでいた。


「魔将とは、魔王軍幹部に与えられる称号のようなものだそうです。つまり、このデルゴラドは、魔王軍の幹部ということです」

「魔王軍の幹部……」

「デルゴラドは、現在、魔獣の森に拠点を設置しています。我らも何度かの交戦を経ていますが、状況は優勢とは言い難いでしょう」


 そこまで、言って、兵士は下がっていった。

 その次の言葉は、ウィンダルス王が喋っていた。


「このデルゴラドは、優れた指揮官なのだ。さらに、こやつ一人で、百人に匹敵する力を持っている。つまり、デルゴラドを倒さなければ、我らの勝利は訪れぬということじゃ」


 ウィンダルス王は、アンナを見つめながら、話を続けた。


「しかし、この王国の兵士には、情けない話だが、デルゴラドに勝てる者はいないのだ。そこで、勇者アンナよ、お主の出番だ」

「え? 私ですか?」

「ああ、我がウィンダルス王国の総力を持って、剛魔団を引きつける。その間に、剛魔将を叩いて欲しいのだ」


 ウィンダルス王の言葉に、アンナは息をのんだ。


「結構は三日後を予定している。それまでに、準備するべきものがあるなら、なんでも準備しよう。申し訳ないが、頼まれてくれ」


 アンナは、数秒考えていた。今の自分に、魔王軍幹部と戦えるだけの力があるのかと。

 しかし、今更、引き返すことができるはずもない。

 そして、勇者たる自分にできなければ、他のどの人間にも、剛魔将を倒すことはできないだろう。

 故に、決意する。戦い、さらに勝つことを。


「……はい、わかりました。やってみせます」


 その言葉に、周囲からは歓声があがるのだった。





 王に何が欲しいかと言われ、アンナが一番最初に思いついたのは、勇者に関連する書物を読むことだった。

 そのため、カルーナとともに、一般には公開されないような本が置いてある書庫に案内されていた。


「にしても、書物を読んで、どうするつもりなの?」


 書庫の本を漁っている時、カルーナがアンナに、そう話しかけてきた。


「今まで、勇者がいたのだとしたら、その人達は、どんな風に魔族と戦ってたのか、参考にしたいと思ってね」

「ああ、なるほど」


 そこで、アンナは一つの本のある一説を見つけた。


「人と魔族の歴史、人間と魔族は、長い歴史の間、幾度となく戦っている。その始まりがなんだったのか、それはわからない」

「ああ、よく聞くよね、それって」

「その戦いは、いつも、勇者と魔王が中心となっている。どちらかが、生まれれば、どちらかも生まれる。決着がつけば、負けた方に、新たな者が生まれる」

「そうなんだよね。ずっと前に、一度、魔王が討伐されて、何十年かは平和だったみたいだけど、今の魔王が誕生して、再び戦いが始まったらしいよ」

「勇者とは、聖なる光の使者であり、魔王とは、邪なる闇の化身である。そして、各々、その力を用いて戦っているのだ」


 そこまで読んで、アンナは、一度、本を置いた。


「どうしたの? お姉ちゃん?」

「この本の通りなら、勇者には、聖なる光の力があるってことだよね」

「うん、それが聖剣じゃないの?」

「いや、聖剣って、私、ほぼ普通の剣としてしか使えてないから、聖なる光とはいえないんじゃないかって思うんだ」


 その言葉に、カルーナは首を傾げた。


「それって、つまり、勇者の力を使いこなせてないってこと?」

「うん、そう思うんだ。それが何か、この書物からは読み取れないけど」

「けど、聖剣って、光ったりするし、それが聖なる光なんじゃないの?」

「うーん、そうかもしれないけど……」


 アンナが悩み始めたため、カルーナは話を変えることにした。


「お姉ちゃん、今はそんなことより、武器や防具を固めようよ。わからないことより、そっちの方が効率いいと思う」

「……うん、それもそうだね。それじゃあ、武器屋に向かおうか」


 こうして、二人は武器屋に向かうことになった。





 ウィンダルス王に話を通していたため、武器や防具の値段は、王国が持ってくれることになっていた。


「つまり、値段に関係なく、良いものを揃えればいいってことだね」

「うん、けど、ちょっと気が引けるな……」

「何言ってんの、お姉ちゃん。国の危機なんだから、そんなの気にしちゃだめだよ」


 王都ミルストスには、王国内、最高の武器屋がある。

 今は、その武器屋で品定め中だった。


「といっても、私には聖剣があるから、武器はいらないな」

「うん、だから、お姉ちゃんは防具だね。どんなのがいいの?」


 そこで、アンナは、あの後兵士から聞いた、剛魔将デルゴラドの特徴を思い出していた。


「デルゴラドはオーガらしいし、その異名の通り、力が強いらしい。だから、攻撃を防御するよりも、躱すことを心掛けたいかな」

「うん、それがいいと思う」

「だけど、飛び道具や魔法なんかを、ある程度防げる物は欲しいかな。無防備でいくのは、流石に危険すぎる」

「だったら、軽い防具がいいね。革製の小手とかにしてみようか」


 そして、カルーナは店にある革製の小手を手にとった。


「実際に着けて、どれが馴染むか確かめてみるといいよ」

「うん、ありがとう。カルーナ」

「じゃあ、私は、自分が使う杖とか見に行ってくるね」

「ああ、うん」


 買い物が進み、二人は全身を軽くて、なるべく丈夫な防具で固めるのだった。





「さて、だいたい準備はできたね」

「うん。カルーナ、今日はありがとうね」


 大方の準備が終わり、二人は、王城の客室に戻っていた。

 後は、三日後の戦いに備えて、自己鍛錬と休息を行うだけだ。


「それにしても、いきなり、魔王軍幹部だなんて、王様も無茶言うよね」

「仕方ないさ。王様だって、兵士の人達だって、剛魔将には敵わないんだから。私がやるしかないんだよ」


 そう言ったアンナが、震えていることに、カルーナは気づいた。


「お姉ちゃん……本当に大丈夫?」

「……大丈夫では、ないだろうね。正直、すごいプレッシャーだし」


 アンナは、自らの拳を握りしめながら、言葉を続けた。


「でも、やるしかないんだ。私は、勇者だから、皆の未来を守らなきゃだめなんだ」

「お姉ちゃん」


 そんなアンナを、カルーナは思わず抱きしめていた。


「カルーナ?」

「絶対勝って、戻ってこよう?」

「……うん」


 もうすぐ、決戦が始まる。

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