第13話 戦いの開幕

 アンナとカルーナは、玉座の間を訪れていた。

 周囲には、数名の兵士、そして、玉座には、ウィンダルス王が座っている。

 今日は、いよいよ、作戦決行の日だ。


「勇者アンナ、カルーナよ。お主達には、数名の兵士を護衛として同行させる」


 ウィンダルス王に呼ばれ、五名の兵士が、アンナとカルーナに礼をする。


「そやつらの役目は、お主達を十全の状態で、剛魔将の元に送り届けること、及び、戦闘の補助だ。存分に使ってやってくれ」

「は、はい……」


 アンナは、不安を覚えながらも、ウィンダルス王に応えるのだった。





 アンナとカルーナ、五名の兵士は、魔獣の森の周辺まで来ていた。


「ここから、我々のみが知っている道で、剛魔将の野営地に向かいます」


 兵士の一人が、アンナ達にそう説明してくれた。


「我らが命に代えても、勇者様を送り届けます」


 さらに他の兵士が決意を表明する。その目は、覚悟に満ち溢れていた。

 アンナは、その言葉に応えるため、口を開いた。


「わかった。必ずや、剛魔将を討ってみせよう」

「はっ!」


 アンナの言葉に、兵士達の士気は、高まっていった。

 アンナは、この場において、弱気なことを言ってはならないと、カルーナから言われていた。

 アンナが、自信を持っていなければ、他の者が萎縮してしまうかららしい。

 そのため、語気を強め、勇者のイメージを崩さないように努めていた。


「時間です!」


 時間を計っていた兵士が、言葉を放った。

 ウィンダルス王国の兵士達が、陽動として、剛魔団に攻撃を仕掛けたのだ。


「私達も、行くぞ!」

「はっ!」


 その言葉で、三人の兵士が前に、アンナとカルーナが真ん中に、残り二人の兵士が後ろに並んで、行動を開始した。

 森の木々の間を、通りながら、剛魔団の野営地に向かっていく。

 現状、作戦が上手くいっていれば、ほとんどの兵が、戦場に向かって、出払っているはずだ。

 その裏をつき、一気に剛魔将を叩くのが、今回の作戦だ。


「剛魔将が、傍に誰かを残しているだろうか」

「それは、わからないけど、それを払うのが、私や兵士の役目だよ」

「うん、わかってる。私が剛魔将を倒すんだって……」


 アンナは、多少不安に思いながらも、自分を奮い立たせる言葉を口にする。


「うん?」


 その時、カルーナは違和感に気がついた。

 アンナや兵士のことではなく、この森のことだ。

 何かわからないが、空気がざわついたような感覚がしたのだ。

 そして、すぐに、その正体が理解できた。


「伏せて!」


 カルーナは、それを伝えるべく、叫び、自らの体を伏せた。

 その声にすぐに反応したのは、アンナだった。

 アンナは、カルーナとほぼ同時に、体を伏せていた。

 それに遅れて、周囲の兵士達も、体を伏せようとした。


「ぐああっ!」

「かあっ!」

「ぐああああ!」


 しかし、すでに遅く、前にいた三人の兵士の頭が貫かれた。

 頭を貫いているのは、氷でできた杭のような物だった。


「くそっ!」

「お姉ちゃん!」


 アンナとカルーナは、身を乗り出して、前に出る。それに、兵士達も続いた。

 すると、開けた場所に出られた。


「ほほう、勇者には当たりませんでしたか……」


 そこには、杖を持ち、ローブを纏ったオーガがいた。


「お前が、やったのか?」


 アンナが聞くと、オーガは、薄ら笑いを浮かべながら、言葉を発した。


「ふふ、そうですよ。私は、剛魔団魔術師、ボゼーズでございます」

「剛魔団魔術師、ボゼーズ……まさか……」


 兵士の一人が、その名に驚愕し、口を開いた。


「勇者様、こいつは、剛魔将の側近です」

「ええ、そうですねえ」


 ボゼーズは余裕そうな顔で、四人を見つめていた。


「勇者様、カルーナ様、ここは我々にお任せください!」

「お二人は、剛魔将の元へ」


 二人の兵士が、前に出て、アンナ達にそう言った。

 しかし、カルーナは何か嫌な予感がしていた。


「だめ! 二人とも、下がって!」

「カルーナ?」

「おおおおおっ!」

「おりゃああああ!」


 二人の兵士が、一斉に、ボゼーズに飛び掛かった。

 すると、ボゼーズは、杖を構えながら、言い放った。


氷結呪文アイス

「うおっ!?」

「ぐああっ!」


 すると、兵士達の体は凍っていき、固まりきってしまった。


「そ、そんな……」

「お姉ちゃん! 落ち着いて!」


 驚くアンナを、カルーナが落ち着かせる。


「お姉ちゃん、こいつは私が、引き付ける。お姉ちゃんは、剛魔将の元に行って!」

「カルーナ!? そんな」

「お願い! この作戦の要は、お姉ちゃんなんだよ!」


 カルーナの必死の呼びかけで、アンナは決意を固めた。

 剛魔将を倒さなければ、ウィンダルス王国は終わってしまう。

 そして、それをできるのは、アンナだけなのだから。


「……わかった。カルーナ、絶対に、死なないでよ!」

「うん、もちろん」


 そう言って、アンナは、森の奥に駆け出した。

 意外なことに、ボゼーズはそれに対して、特に反応はしなかった。 

 アンナのために、隙を作ろうと、身構えていたカルーナは、思わず驚いた。


「お姉ちゃんを通してくれるのね?」

「ふふふ、あのお方の望みは、勇者との戦いなのですよ」


 そこで、ボゼーズは、杖を振るいながら、言葉を放った。


氷結操作アイス・コントロール


 その瞬間、凍った兵士達が、カルーナ目がけて、飛んできた。


「くっ!」


 カルーナが、身を躱すと、凍った兵士は、木々にぶつかり、砕け散った。


「おやおや、躱してよかったのですか?」

「……」


 凍った人間を、外部の人間が融かすのは、かなり難しい。

 回復魔法が、使えるならともかく、今のカルーナには、どうすることもできなかった。


(ごめんなさい、兵士さん達。必ず、仇は取ります)


 カルーナは心の中で、兵士に謝罪しながら、表面上は冷静を保っていた。

 ボゼーズは、明らかにカルーナを動揺させるために、発言していた。

 ならば、動揺を表に出すことは、できなかった。


「別に人質にしてもよかったのですが、あなた程度にそれは必要ないでしょう?」


 ボゼーズは、尚も煽り続けるが、カルーナはそれに乗る訳にはいかなかった。





 アンナが、森の中を駆け抜けていると、再び、開けた場所に出ることができた。


「待っていたぞ……」

「お前が……」


 そこには、鎧を身に纏った、巨体のオーガがいた。

 見えている部分は、厚い筋肉に覆われており、その口からは、牙が覗いていた。

 さらに、その手には、その体に見合った、大きな棍棒を持っていた。

 このオーガこそが、ウィンダルス王国を侵攻する魔王軍幹部。


「赤髪の女勇者!」

「剛魔将、デルゴラド!」


 人間と魔族、勇者と魔将、二人はお互いを睨みつけながら、対峙していた。


「ふん、情報は得ていたが、こうして見ると、ちっぽけなものだなあ、人間よ」

「ちっぽけかどうかは、今にわかるさ!」


 アンナは、聖剣を引き抜き、戦闘態勢に入る。

 それを、デルゴラドは、興味深そうに見ていた。


「それが、聖剣……勇者の力か。いいだろう……相手にとって、不足はない!」

「くっ……!」


 デルゴラドから、強烈な威圧感をアンナは感じた。


(これは……闘気!)


 アンナは、その闘気に多少怯んだが、すぐに気を引き締める。

 相手は、魔王軍幹部、油断していると、一瞬でやられるだろう。

 今は、全ての恐怖心を捨て、勇者として、この強敵に立ち向かわなければならない。


「行くぞ! 剛魔将!」

「来るがいい、勇者よ!」


 今、二人の戦いが始まった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る