第13話 戦いの開幕
アンナとカルーナは、玉座の間を訪れていた。
周囲には、数名の兵士、そして、玉座には、ウィンダルス王が座っている。
今日は、いよいよ、作戦決行の日だ。
「勇者アンナ、カルーナよ。お主達には、数名の兵士を護衛として同行させる」
ウィンダルス王に呼ばれ、五名の兵士が、アンナとカルーナに礼をする。
「そやつらの役目は、お主達を十全の状態で、剛魔将の元に送り届けること、及び、戦闘の補助だ。存分に使ってやってくれ」
「は、はい……」
アンナは、不安を覚えながらも、ウィンダルス王に応えるのだった。
◇
アンナとカルーナ、五名の兵士は、魔獣の森の周辺まで来ていた。
「ここから、我々のみが知っている道で、剛魔将の野営地に向かいます」
兵士の一人が、アンナ達にそう説明してくれた。
「我らが命に代えても、勇者様を送り届けます」
さらに他の兵士が決意を表明する。その目は、覚悟に満ち溢れていた。
アンナは、その言葉に応えるため、口を開いた。
「わかった。必ずや、剛魔将を討ってみせよう」
「はっ!」
アンナの言葉に、兵士達の士気は、高まっていった。
アンナは、この場において、弱気なことを言ってはならないと、カルーナから言われていた。
アンナが、自信を持っていなければ、他の者が萎縮してしまうかららしい。
そのため、語気を強め、勇者のイメージを崩さないように努めていた。
「時間です!」
時間を計っていた兵士が、言葉を放った。
ウィンダルス王国の兵士達が、陽動として、剛魔団に攻撃を仕掛けたのだ。
「私達も、行くぞ!」
「はっ!」
その言葉で、三人の兵士が前に、アンナとカルーナが真ん中に、残り二人の兵士が後ろに並んで、行動を開始した。
森の木々の間を、通りながら、剛魔団の野営地に向かっていく。
現状、作戦が上手くいっていれば、ほとんどの兵が、戦場に向かって、出払っているはずだ。
その裏をつき、一気に剛魔将を叩くのが、今回の作戦だ。
「剛魔将が、傍に誰かを残しているだろうか」
「それは、わからないけど、それを払うのが、私や兵士の役目だよ」
「うん、わかってる。私が剛魔将を倒すんだって……」
アンナは、多少不安に思いながらも、自分を奮い立たせる言葉を口にする。
「うん?」
その時、カルーナは違和感に気がついた。
アンナや兵士のことではなく、この森のことだ。
何かわからないが、空気がざわついたような感覚がしたのだ。
そして、すぐに、その正体が理解できた。
「伏せて!」
カルーナは、それを伝えるべく、叫び、自らの体を伏せた。
その声にすぐに反応したのは、アンナだった。
アンナは、カルーナとほぼ同時に、体を伏せていた。
それに遅れて、周囲の兵士達も、体を伏せようとした。
「ぐああっ!」
「かあっ!」
「ぐああああ!」
しかし、すでに遅く、前にいた三人の兵士の頭が貫かれた。
頭を貫いているのは、氷でできた杭のような物だった。
「くそっ!」
「お姉ちゃん!」
アンナとカルーナは、身を乗り出して、前に出る。それに、兵士達も続いた。
すると、開けた場所に出られた。
「ほほう、勇者には当たりませんでしたか……」
そこには、杖を持ち、ローブを纏ったオーガがいた。
「お前が、やったのか?」
アンナが聞くと、オーガは、薄ら笑いを浮かべながら、言葉を発した。
「ふふ、そうですよ。私は、剛魔団魔術師、ボゼーズでございます」
「剛魔団魔術師、ボゼーズ……まさか……」
兵士の一人が、その名に驚愕し、口を開いた。
「勇者様、こいつは、剛魔将の側近です」
「ええ、そうですねえ」
ボゼーズは余裕そうな顔で、四人を見つめていた。
「勇者様、カルーナ様、ここは我々にお任せください!」
「お二人は、剛魔将の元へ」
二人の兵士が、前に出て、アンナ達にそう言った。
しかし、カルーナは何か嫌な予感がしていた。
「だめ! 二人とも、下がって!」
「カルーナ?」
「おおおおおっ!」
「おりゃああああ!」
二人の兵士が、一斉に、ボゼーズに飛び掛かった。
すると、ボゼーズは、杖を構えながら、言い放った。
「
「うおっ!?」
「ぐああっ!」
すると、兵士達の体は凍っていき、固まりきってしまった。
「そ、そんな……」
「お姉ちゃん! 落ち着いて!」
驚くアンナを、カルーナが落ち着かせる。
「お姉ちゃん、こいつは私が、引き付ける。お姉ちゃんは、剛魔将の元に行って!」
「カルーナ!? そんな」
「お願い! この作戦の要は、お姉ちゃんなんだよ!」
カルーナの必死の呼びかけで、アンナは決意を固めた。
剛魔将を倒さなければ、ウィンダルス王国は終わってしまう。
そして、それをできるのは、アンナだけなのだから。
「……わかった。カルーナ、絶対に、死なないでよ!」
「うん、もちろん」
そう言って、アンナは、森の奥に駆け出した。
意外なことに、ボゼーズはそれに対して、特に反応はしなかった。
アンナのために、隙を作ろうと、身構えていたカルーナは、思わず驚いた。
「お姉ちゃんを通してくれるのね?」
「ふふふ、あのお方の望みは、勇者との戦いなのですよ」
そこで、ボゼーズは、杖を振るいながら、言葉を放った。
「
その瞬間、凍った兵士達が、カルーナ目がけて、飛んできた。
「くっ!」
カルーナが、身を躱すと、凍った兵士は、木々にぶつかり、砕け散った。
「おやおや、躱してよかったのですか?」
「……」
凍った人間を、外部の人間が融かすのは、かなり難しい。
回復魔法が、使えるならともかく、今のカルーナには、どうすることもできなかった。
(ごめんなさい、兵士さん達。必ず、仇は取ります)
カルーナは心の中で、兵士に謝罪しながら、表面上は冷静を保っていた。
ボゼーズは、明らかにカルーナを動揺させるために、発言していた。
ならば、動揺を表に出すことは、できなかった。
「別に人質にしてもよかったのですが、あなた程度にそれは必要ないでしょう?」
ボゼーズは、尚も煽り続けるが、カルーナはそれに乗る訳にはいかなかった。
◇
アンナが、森の中を駆け抜けていると、再び、開けた場所に出ることができた。
「待っていたぞ……」
「お前が……」
そこには、鎧を身に纏った、巨体のオーガがいた。
見えている部分は、厚い筋肉に覆われており、その口からは、牙が覗いていた。
さらに、その手には、その体に見合った、大きな棍棒を持っていた。
このオーガこそが、ウィンダルス王国を侵攻する魔王軍幹部。
「赤髪の女勇者!」
「剛魔将、デルゴラド!」
人間と魔族、勇者と魔将、二人はお互いを睨みつけながら、対峙していた。
「ふん、情報は得ていたが、こうして見ると、ちっぽけなものだなあ、人間よ」
「ちっぽけかどうかは、今にわかるさ!」
アンナは、聖剣を引き抜き、戦闘態勢に入る。
それを、デルゴラドは、興味深そうに見ていた。
「それが、聖剣……勇者の力か。いいだろう……相手にとって、不足はない!」
「くっ……!」
デルゴラドから、強烈な威圧感をアンナは感じた。
(これは……闘気!)
アンナは、その闘気に多少怯んだが、すぐに気を引き締める。
相手は、魔王軍幹部、油断していると、一瞬でやられるだろう。
今は、全ての恐怖心を捨て、勇者として、この強敵に立ち向かわなければならない。
「行くぞ! 剛魔将!」
「来るがいい、勇者よ!」
今、二人の戦いが始まった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます