第11話 言っておくべきこと
アンナとカルーナは、兵士に、客室まで案内されていた。
「こちらです。では、ごゆっくりどうぞ」
そう言って、兵士は去っていき、二人は客室に入った。
「わあ、広いね、お姉ちゃん」
「確かにそうだね」
客室は、倍の人数がいても、大丈夫そうなほど広かった。
アンナは、ベットに倒れこみ、力を抜いた。
「お姉ちゃん? 大丈夫?」
「き、緊張した……」
「あはは、まあ流石にそうだよね」
アンナの精神的疲労は、かなりあった。ちょっと前までは、自分が王様と会話するなんて、考えてもなかったことだ。
逆に、それほど疲れてなさそうなカルーナを見て、アンナは不思議に思った。
「カルーナは、なんで平気そうなの?」
「え? ああ、疲れてはいるよ。ただ、勇者としての責任を抱えているお姉ちゃんよりは、楽ってだけだよ」
「そっか……」
それにしたって、王様に意見できるカルーナを、アンナはすごいと思っていた。
「それより、お姉ちゃん。王城のお風呂、使ってもいいみたいだし、今日こそは、一緒に入ろ?」
「ああ、そうだったね。いいよ、じゃあ、もう行こうか。早く入って、早く寝よう」
話がまとまり、二人は、入浴することとなった。
◇
「やっぱり、王城のお風呂となると、広いね」
「うん、カルーナ。そうだけど……」
アンナとカルーナは、王城のお風呂に入っていた。
かなり広いお風呂で、軽く百人くらいは入れるのではと、アンナは感じていた。
しかし、そんな広いお風呂だというのに、カルーナは、アンナに引っ付き、離れようとしなかった。
「引っ付いてたら、意味はないんじゃない?」
「お姉ちゃんが嫌なら、離れるけど……」
アンナが聞くと、カルーナはとても悲しそうな顔をした。
アンナとしては、文句を言ったつもりはなかったため、すぐに謝罪することにした。
「あ、嫌な訳ないよ。勘違いしちゃってごめんよ」
「そうだったんだ。それなら、よかった」
アンナがそう言うと、カルーナは、安心したように表情を和らげた。
「やっと、お姉ちゃんと一緒にお風呂に入れたから、昔みたいにしたかったんだ……」
「うん? そういえば、喧嘩するまで、ずっと一緒に入ってたんだっけ?」
「うん、家のお風呂は狭かったけど、二人でくっついて入るの、私は好きだったよ」
カルーナは微笑みながら、そう言い放った。
アンナは、昔を思い出しながら、カルーナを見つめた。
すると、そこで一つ気づいたことがあり、思わず口にしてしまった。
「それにしても、カルーナも成長したんだね」
「え? それって……」
「……あ、いや、体が大きくなったって意味だよ」
カルーナの表情が変わったので、アンナはすぐに誤魔化そうとした。
「嘘だ。今、ある一点を見つめてたよ」
「うっ……それは」
しかし、カルーナには見抜かれていたようだ。
カルーナは少し怒ったような口調で、言葉を続けた。
「そういう意味なら、お姉ちゃんも人のこと言えないでしょ」
「いや、ごめんって」
「あ、その……」
アンナが謝ると、カルーナは少し怯んでしまった。
「ごめんなさい、言い過ぎちゃったかもしれない……」
「えっ……?」
何やら、カルーナの様子がおかしいと、アンナは感じた。
今のは、恐らく、自分に非があったはずだ。それなのに、カルーナは何か怯えてるように思える。
そこで、アンナはわかった。カルーナは、自分に嫌われることを恐れているのだと。
喧嘩をしていた時のことが、よっぽど辛かったのだろう。アンナに酷いことを言うのを、極端に避けているようだ。
そこで、アンナはさらにあることに気づいた。
「お姉ちゃん? どうかしたの?」
そんなアンナを、カルーナが心配そうに、見つめていた。
「カルーナ」
「え? 何?」
「よく考えてみれば、カルーナは普段から、私のことを思ってくれてるって、伝わるようなことをしてくれてるよね」
「あ、うん。まあ、そうだと思うけど……」
「けど、私は、そういうことするの苦手だから、できていなかったと思う」
「ええっ? いや、そんなことないよ」
カルーナに否定されたが、アンナは思っていた。先程のように、不安にさせたのは、自分の思いがちゃんと伝わっていなかったせいだと。
「だから、正直に言うよ。私、カルーナのこと大好きだから、安心して」
「ほへえっ!?」
アンナは、多少の気恥ずかしさとともに、自分の正直な気持ちを打ち明けた。
すると、カルーナの顔がどんどん赤くなっていった。
「カルーナ?」
「あ、いや、その……」
しかし、恥ずかしがるにしても、少々赤くなり過ぎなのではと、アンナは感じた。
そして、よく考えてみると、今は入浴中だということに気づいた。
「もしかして、のぼせたの? 大変だ! 今すぐ上がろう!」
そう言って、アンナが立ち上がると、カルーナはもっと顔を赤くした。
さらに、小さな声で、何かを呟き始めていた。
「待って……今はちょっと」
「カルーナ! しっかりして!」
「いや、お姉ちゃん、ちが……」
アンナは、カルーナの言葉も聞かず、お湯から、抱き上げ、脱衣所に向かった。
◇
「カルーナ? もう平気?」
アンナとカルーナは、客室に戻っていた。
「うん、なんだか、色々衝撃的で、混乱してたみたい」
「そうだったんだ、ごめんね。けど、これだけは、覚えておいて」
「何?」
「私に嫌われるとか思って、遠慮したりするのはやめてね。それって、なんだか、対等じゃないって感じだし」
「あ……」
カルーナは、驚いたように、目を丸くした。
「……わかってたんだ?」
「情けないことに、気付いたのはさっきだけどね」
「うん。今日のことで、大丈夫だって、私もわかったよ。だから、きっと大丈夫」
カルーナは、にっこりと微笑みながら、言葉を続けた。
「でも、なんか、自分でもわからない時があるんだ」
「わからない?」
「うん、どうしてかわからないけど、機嫌が悪くなっちゃって」
「ああ、そんなの誰にだってあるよ。特にカルーナの年頃には、珍しくもない。私だって、カルーナくらいの年はそうだったよ」
「そうなんだ」
アンナにも、そんなことがあったと聞いて、カルーナは安心したようだった。
「さて、そろそろ寝ようよ、さ、カルーナ」
アンナが、ベットの布団を広げて待機すると、カルーナは驚いたような顔をした。
「どうしたの? いつもみたいに、一緒に寝ないの?」
「今日も、一緒でいいの?」
「そりゃあ、もちろん。というか、私がカルーナが隣にいないと、安心できない体になってきてる。嫌じゃなければ、一緒に寝て欲しいな」
「じゃあ、お邪魔します」
カルーナが布団に入り、明かりを消し、二人は布団の中で、向かい合った。
「明日からは、どうなるんだろうか……」
「うん、きっと大変になると思う……けど、大丈夫、私が一緒だよ。お姉ちゃん」
「カルーナ……」
アンナは、カルーナを引き寄せ、抱きしめる。
「ありがとう。心強いよ」
「どういたしまして、あ、そうだ」
そこで、カルーナは何かを思い出したように、声をあげた。
「どうしたの?」
「お姉ちゃんが、ちゃんと言ってくれたから、私もちゃんと言うね」
「え? 何を?」
「大好き」
「あ……うん、ありがとう」
アンナは、きっと明日も大丈夫だと思えた。
カルーナが、隣で自分を支えてくれると思うと、体の底から勇気が湧いてきた。
「それじゃあ、お休み、お姉ちゃん」
「あ、うん。お休み、カルーナ」
アンナとカルーナは、お互いがそこにいるという安心感から、リラックスして眠りにつくことができた。
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