第3話 目覚めし力
アンナが、様子を伺っていると、残る盗賊二人が、ゆっくりと歩み寄ってきた。
二対一のため、アンナが圧倒的に不利だった。
「くらいやがれ!」
「おうよ!」
盗賊二人が、襲い掛かってきたため、アンナは、一歩後退し、馬車の中に戻る。
カルーナはおらず、反対の戸が開いていたため、どうやら、逃げたようだった。
「おふっ!」
「あぶねえなあ!」
「てめえが気をつけろ!」
「なんだと?」
盗賊二人は、ぶつかりかけて、お互いに文句を言っていた。仲間意識さえ希薄な屑なのだと、アンナは感じた。
この盗賊達の戦闘力が、それほど高くないことは、先程理解できた。
後は、どうにかして、一人ずつ戦闘不能にしていかなければならない。
そこで、アンナは、馬車の中に、買い物で買った物があることに気づいた。
カルーナには、申し訳なかったが、武器として、使わせてもらうことにした。
アンナは、カルーナの荷物から、衣服を取り出した。
「そらっ!」
そして、アンナは、衣服を盗賊目がけて、投げつけた。
「なんだ?」
「服だあ?」
一瞬だが、盗賊二人の視界が塞がれる。
その隙に、アンナは飛びかかり、膝蹴りを盗賊の一人に喰らわせた。
「おぶっ!」
「おい! どうした!?」
盗賊の腹部に、完璧に膝蹴りが入り、男は倒れ込んだ。
「てめえ! よくも!」
もう一人が来たので、しゃがんだ状態で、その足を払った。
「うおおっ!」
男はバランスを崩し、倒れ込んだ。そこにすかさず、もう一発蹴りを喰らわせる。
「おぶっ!」
男は、顔面を押さえながら、転げ回った。
「はあ、はあ、やったのか?」
周りを見てみると、男が三人転がっていた。カルーナを追いかけようと、家の方向へ向かおうとしたが、そこである光景が目に入った。
「おっと、動くなよ。動けば、このお嬢ちゃんの首に、ナイフが突き刺さるぜ」
「うう」
カルーナが、盗賊と思われる男に捕らえられていたのだった。
盗賊は、どうやら、四人組だったらしい。
「逃げるこいつを捕まえてたら、三人、伸びてやがるから、驚いたぜ」
「くそっ……!」
盗賊を三人だと思い込んでいた自分のミスだと、アンナは思った。
後ろを見ると、三人の盗賊が立ち上がっていた。
「いてえ、よくもやってくれたよなあ」
「こいつは痛めつけなきゃ、気がすまねえなあ」
「まったくだぜ。たっぷりと、楽しませてもらおうぜ」
下種な笑いを浮かべながら、アンナの方へ近づいてきた。
こんな状況だが、アンナは、カルーナのことだけを考えていた。
カルーナは、目に涙を浮かべている。この状況が辛くて、怖いのだろう。
そう思うと、怒りが湧いてきた。どうして、こんな屑どもに、自分とカルーナの人生を邪魔されなければならないのだろう。
体の奥から、熱いものが流れてくることが、アンナにはわかった。
「へへ、動くなよ」
「しゃあ、借りを返すぜ」
「よし、こういうのが一番やる気でるなあ」
「おい、おい、やり過ぎんなよ。商品なんだからな。それに俺は、手がだるいぜ」
「うう」
男達が何か言っているが、アンナに聞こえたのは、カルーナの声と、その涙が零れ落ちる音だけだった。
アンナはほぼ無意識に、右手を掲げていた。
「うん?」
「なんだ?」
「うわあ!」
「ま、眩しい……!」
アンナが、右手を掲げると、そこから光が発せられた。
その右手が熱くなり、手の平に、三角形の紋章が浮かんでいた。
不思議なことに、アンナの目ははっきりとしていた。
アンナは一気に駆け出すと、カルーナを捕える男の元に向かう。
「あうっ!」
「があっ!」
同じタイミングで、カルーナが男の腕に噛みつき、拘束を解除していた。
「カルーナ!」
「お姉ちゃん!」
こちらに来たカルーナを、しっかりと抱き止める。
「ありがとう、お姉ちゃん」
「ううん、ごめんね。カルーナ、怖い思いさせちゃって」
男達は、目が慣れてきたようで、二人を見て叫び始めた。
「てめえ!」
「くそがっ!」
「逃げられると思うなよ」
「状況は変わってねえんだよ」
アンナは冷たい視線で、男達を見つめ言い放つ。
「今なら、見逃してやる。でなければ、命はないと思え」
「な、何を偉そうに……」
「やるぞ! おめえら!」
「上等だ!」
「行くぜえ!」
男達は、四人同時に、アンナにかかってきた。アンナは、カルーナを下がらせ、手を広げた。
すると、手の平から、光り輝く剣が出てきた。アンナは、それを握りしめると鞘から抜き、男達が来るのに合わせて薙ぎ払った。
「ぐっ!」
「があっ!」
「ぎぎゃあ!」
「ぐあああっ!」
口々に悲鳴をあげながら、男達の腹部が切り裂かれていく。
八つの物が落ちる音がした後、アンナは剣を鞘に納めた。
「はあ、はあ」
「お姉ちゃん!」
アンナが息を切らしていると、カルーナが抱き着いてきた。
「カルーナ」
「よかった、よかった、よかった」
カルーナが涙を流していたので、アンナは、その頭を撫でてあげた。
◇
しばらく、そこにいると、光を見たのか、町から数名の兵士が来ていた。
現場を見て、兵士達は、驚いた顔をした。
「君がやったのか?」
「そうだけど、悪いことしたなんて、思ってないよ。そいつらは、そうなるだけのことをした」
「そうか、いや、君達が悪い訳ではないことは、状況を見ればわかるよ」
飲み込みの早い兵士で助かったと、アンナは思った。
その時、兵士は、アンナの剣の方に注目した。すると、兵士は、悩むような顔をした。
「うん? ちょっと待ってくれ。その剣を見せてくれないか?」
そう言われて、特に断る理由もなかったため、アンナは兵士に剣を渡すことにした。
「これ? いいけど」
アンナが兵士に剣を渡すと、兵士は目を丸くした。
「これは……まさか」
「どうしたんですか?」
「ちょっと、君の……右の手の平を見せてくれないか?」
「えっ? ああ」
アンナは、そういえば、先程変な痣ができていたことを思い出していた。
アンナが手を広げて見せると、兵士は驚いたように、目を丸くした。
「やはり、間違いないか……」
「どうしたんです?」
「いや……今はよそう」
その兵士は、踵を返し、周りの他の兵士に指示した。
「今から、現場を整理する。私は、すぐに本部に伝えなければならないことがある。この場は、お前達に頼む。いいか、一番大切なのは……」
そこで、兵士は、アンナとカルーナを見た。
「このお嬢さん方を、安全に家まで送ることだ。わかったな!」
他の兵士達は、大きく返事し、それぞれの作業にあたった。
◇
アンナとカルーナは、兵士に護衛されながら、帰路についた。
その間、カルーナは、アンナの手を決して離そうとはしなかった。
家に着き、兵士の説明が終わった後、ソテアが二人を抱きしめた。
「叔母さん……」
「お母さん……」
「あんた達、心配をかけて……」
ソテアは、目に涙を浮かべながら、そう呟いていた。
厳しい人物ではあるが、自分達に対する思いやりは、やはり強かったのだと二人は理解した。
「中々、帰って来ないんで、心配したんだ。そもそも、アンナがいなくなっていたしね」
「叔母さん、ごめんなさい」
「お母さん、私が悪いの、私が連れだしたの……」
「今はいいよ。無事に帰って来てくれさえすれば、それでいいのさ……」
そんな三人の元へ、グラインが寄ってきた。グラインは、ソテアの肩に手を置くと、喋り始めた。
「ソテア、二人とも疲れているだろうし、早く休ませてあげよう。二人とも、ご飯は食べれるかな? お風呂もたまっているし、あれだったら、部屋に戻って寝てもいい」
「あ、うん。今は、ちょっと、食欲はないかな」
「私も、食欲はないかも、お風呂に入って、寝たいかな」
「そうね。アンナ、あんたには、少しだけ言わなきゃいけないことがあるから、いい時間にリビングに来てくれないかい?」
「え? わかった、いいよ」
ソテアにそう言われ、アンナは少し怯えたが、今の感じからして、勝手に町に出たことへの説教じゃなさそうだと思ったので、了承することにした。
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