2章 わたくし

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 わたくしは世界が嫌いでした。

 わたくしは自分自身が嫌いでした。

 たくさんの人が私を望んだからこそ、わたくしが在るのだということは重々理解していました。それにわたくし自身、夢や希望もたくさん抱いていましたし、他人や家族から大いに期待もされているのも分かっていました。

 けれども、どうしようもないのです。

 どれだけ努力しても、報われないものは在るのです。

 どれだけ頑張っても、本当の天才には敵わない時があるのです。

 しかし、わたくしの周りはソレを許しませんでした。

 わたくしが努力しないから結果が出ないのだと。

 わたくしの努力が足りないから成果として現れないのだと。

 そう決めつけて、わたくしを糾弾して、突き放したのです。

 わたくしの頑張りを認めてくれない世界。

 わたくしに過度の期待を押し付ける世界。

 その期待に応えることのできなかったわたくし。

 だからわたくしは、この嫌いな世界と自分自身を消すために「逃げる」ということを選択したのです。


 見知らぬ人々が行き交う駅の構内。電車がやって来ることを知らせる電子音が鳴る中で、わたくしは自らの意思で足を踏み出し、大きな鉄の塊に弾き飛ばされました。

 瞬間的には無くならない意識の中で、バラバラになる私の身体を認識します。

 わたくしの愛した手。わたくしを支えてくれた足。わたくしが手入れをし続けた髪。そんな私の部分たちが、赤い液体を艶やかに撒き散らしながら飛んでゆく。

 さよなら、さよなら、さよなら、わたくし。

 さよなら、さよなら、さよなら、世界。

 女の人特有の甲高い悲鳴が耳に届くけれど、もうわたくしには関係のないことでした。だって、手も、足も、きっと胴体でさえも原型をとどめていないほどバラバラになったわたくしには、もう、何一つ関係のないことなのですから。



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