その9 リースィへ行こう

 それは、凄まじい風と共にやってきた。

 飛行艇である。


 エミィに見せてやろうとしたが、すぐにポケットに入ってしまう。


「風が強すぎて吹き飛ばされてしまいます!」


 持ち前のおっとりした口調すら忘れて必死にポケットの裾部分を掴んでいた。


「ああ、すまんすまん」


 俺はエミィに話しかけたつもりだったがなぜかルキが反応した。


「ん?どうかしたの?」


 そういえばルキにはまだエミィを見せていないな、と思ったがポケットの中から声が聞こえてくる。


「同じ妖精召喚の能力を持っている人間じゃないと妖精は見えないのですよー」


 てっきり誰にでも見えると思っていたがそうでもないらしい。

 流石にルキといえど「妖精召喚できるんだー」なんて迂闊に言ったらどんな目で見られるか分からない。


「誰かにリュックが当たったような気がして……」


 ルキはなるほどそうかという風に納得して飛行艇を再び眺め始めた。

 やっと風が弱くなってきたためエミィはポケットから頭を出した。


「大きいですねー!こんな大きいものがお空を飛ぶなんて信じられませんよー」


 正直に言って羽もプロペラも付いていない巨大な船が空を飛ぶというのは俺自身も驚きである。

 元いた世界での飛行機もなんでもありの魔法を使わずに飛ぶという驚きのものではあるが。


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名前:飛行艇(リースィ行き)

材質:木製(ランドウッド)

備考:内蔵されている風属性の魔石で浮遊することができる。この時に発生する風魔法はバードストライクを防ぐためにも利用される。


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 飛行艇が着地してまもなく、中に乗っていた人たちがおりていく。

 少しすると乗車案内が始まった。


「飛行艇の席は先着順だからさっさと乗りましょう?」


 ルキに言われるがままに俺は飛行艇に乗り込んでいく。

 確かに乗車チケットに席の指定はされていなかったなぁ……。


 ルキは飛行艇の窓側の席を取っていた。

 俺はその隣の席に座る。今のうちに薬を飲んでおくことにしよう。


「……水がねぇ!」


 粉タイプの酔い止め薬を買ったまでは良かったのだが水のことをすっかり忘れていた。

 俺の切実な声に対して隣のルキは反応してくれた。


「水なら、魔法で創り出すことができるわよ?」


 ナイス、ルキ!

 確かリュックの中には水筒が入っていたはず、そこに入れてもらおう。


 わざわざ水筒があるのに水は入っていなかったのかという話だが、自分でもなぜ水筒があって水がないと思ったのかは分からなかった。

 ただ、普通に水は入っていて水は俺のズボンに思いっきりこぼれた。


「ルキ、分かっている。それ以上は言わないでくれ」


 これはただの水だからなー!!

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