その5 三大信仰

 俺はとりあえず腹ごしらえをすませる。

 妖精であるエミィは「食事」という概念はないらしく、机の上に座って俺の食べ物をじっと眺めているだけだった。


 この世界で初めて食べたものはハンバーガーで何のひねりもないバンズに何のひねりもない肉と野菜が乗っかったシンプルなもの。

 俺にとっては見慣れている物だったがエミィには新鮮に見えるようで食い入るように見ていた。


「それにしても布教なんてやったこともないし見たのもフランシスコ・ザビエル以来なんだよなぁ……」


「ふらんしすこ……?それ、なんですかー?」


 そうか、この世界では人物名や概念が違う可能性の方が高いよな。

 エミィにはザビエルが転生前にいた世界の有名な宣教師ということを伝え、俺は考える。


 異世界だから、とあまり深く考えずにいたがテーブル横にある窓を見てみると中世ヨーロッパのような景色である。

 でも、馬車が行き来しているわけではないし街ゆく人々の服装も様々で現代と遜色はない。

 空も青く、白い雲が浮かんでいて、鳥もいるし人も空を飛んでいる……ん?


「え、人が空を飛んでるんだけど!?」


 驚いてつい思ったことが口に出てしまった。


「そりゃあ、妖精もお空は飛びますからねー」


「妖精は小さいけど明らかに人間サイズだったから!」


 「能力視」を使えば何の種族だったか分かったかもしれないが、すでに視界を外れている。


「鳥人族じゃないですかー?羽が生えていたのならきっとそれですよー」


 羽が生えていたかどうかも今となっては真偽不明だが鳥人族という種族がいることが分かる。

 おそらく俺が想像しているようなものなのだろう。


「鳥人族はほとんどがお空の神様エステルを信仰してるんですー!」


 空の神様?


「そのエステルっていう神様はどのくらい信仰されてるの?」


「どうでしょう、でも三大信仰のうちの一つですよー!」


 三大信仰、聞いただけでも凄そうだよな……。

 ただ、その中に創造神であるアキオスが含まれていないであろうことも容易に想像がついた。


「ちなみに、三大信仰の他にはどんな神様がいるの?」


「海の神様ミリュートと大地の神様グリーアスがいるんですよー!」


 空と海と大地の神様、確かに信仰度は高そうな神様ばかりである。

 しかし着目すべき点はそこではない。

 この世界の神様はおそらく概念ごとにいる、という所だろう。


 例として挙げるのなら、太陽神や賢神というようなメジャーどころも信仰されているということ。

 この世界の人間の思考はまだまだよく分からないがそもそも「始まり」なんてことを考えたことがない人が多いのかもしれないな。


 ……今まで宗教の勧誘なんてすべて撥ね退けてきた光正だったが、まさか自分が勧誘する側になろうとは。


「まあ、それを名目に旅をする、なんてのも悪くはないかな」


 光正は窓の外にある街を見つめながらそう言った。

 どんな旅になるのか期待に目を輝かせて……。

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