第40話 松川くんの事情3

悠人の痣が気になった俺は、悠人に嫌われるのを覚悟して痣について話を聞くことにした。


「なぁ、悠人」


「んー? なぁに?」

この間痣を見られそうになって、焦っていた悠人だったが、俺に気づかれていないと思ったらしく、今日も楽しそうにしている。


「俺、絶対誰にも言わないからさ。困っていることとか、悲しいなってこととか教えてほしいな」


「…」

悠人は黙って砂に絵を描いている。


「言いたくないことだったらいいぞ? ただ兄ちゃんは悠人の味方だぞ〜って言いたかったんだ」

あぁ、だめだな。痣のことを詳しく聞きたくても、直接的な聞き方なんてできない…。


「…だれにもないしょ?」

黙っていた悠人が口を開いた。


「おぅ。内緒」


「…あのね。ままとなかよしの“かいくん”がね。ぼくのこときらいになっちゃったの」

ママと仲良しの“かいくん”…?


「かいくんってどんな人? 兄ちゃんより大きい?」


「うん。おまわりさんくらい! ぼくともなかよしだったのに、なんでかなぁ」

おまわりさん…。やっぱ、大人の人だよな。嫌いに…。


「なぁ、悠人。その“かいくん”に痛いこととかされた?」


「…うん」

悠人はコクリと頷くと、消えそうな声で返事をした。


「そうかー。辛かったなぁ」

悠人を虐待してるのは、母親じゃなくて、母親の男か…?


「そのことはママも知ってるのか?」


「…ママもいたいいたいなの。ぼくがなかよくできないからだ…」

…! 母親もDVを受けているってことか。なんなんだ、何で一気に悪いことばかり起きるんだ!


「どうしたら、なかよしになれる…?」


「…どうしたらいいかなぁ」


それから2人で少し黙って、時間になってしまったから、帰したくもない家に悠人を見送らなければならなかった。

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