第2章
第38話 松川くんの事情1
俺は中学の時弟を亡くした。部活に忙しかった俺と仕事に忙しかった父。両親は俺たちが小さい頃に離婚して父1人に育てられた。仲の悪い家族じゃなかったし、弟は亡くなる前の日も無邪気な笑顔を見せてくれていた…。
弟が死んだのはいじめのせいだった。忙しい俺と父に心配をさせまいと必死に隠していたようだ。死ぬ前に相談してくれればとも思ったが、気づけなかった俺にそんなことを思う資格なんてなかった。弟はよく日記を書いていた。最初は家族との楽しかったこと、友達との嬉しかったことが広がっていた。ページをめくるごとにそんなかわいらしい日記はひどく苦しいものへと変わっていった。ただ家族との思い出は「楽しかった」「うれしかった」と幸せなままだった。それが余計に辛いページを際立ててもいた。弟には1人友達がいた。その友達がいじめられたのをかばって弟はいじめられた。それでも、弟にはたった1人の友達がいたから耐えられた。日記の最後のページには“信じてたのに”という言葉が記されていた。泣きながら謝っていた弟の“元”友達はあの日、弟が死んだ日に弟に水をかけたという。水をかけられたくらいで…なんて思ったか? どんなに辛いいじめにあっても、俺たち家族と笑って過ごし、どんなに悲しい思いをしてもたった1人の友達との学校生活を送っていた弟の味方がいなくなった。俺には弟の気持ちを知ることなんてできないが、“信じてたのに”という言葉と涙の跡は大切な友達からの裏切りへの苦しみが見えた。最後のページにはもう少し文章があった、涙に濡れた紙には走り書きのように“お兄ちゃん、お父さん大好きだよ、ごめんね”と書いてあった。俺は弟の死から立ち直ることなどできなかった。
高校生になって俺の身近でもいじめが起きた。いじめられたのは俺の友人だった。弟と同じ立場になって、いじめを止めた弟がどれだけかっこよくて勇気のある男だったのかを知った。少しずつ友人を無視する人が増えていき、俺はこのいじめを止めて弟と同じ道を歩むのかと考えた。そのとき友人を考える余裕なんてなかった。ある日友人はいじめの主犯格のやつから水をかけられた。そこで、弟と友人が重なった。ここで俺はここで見放す程度の関係になるためにこいつと仲良くなったわけじゃない。そして、友人を弟と同じ道に進ませてはいけないと思った。気づいたときには主犯格のやつを殴っていて、先生に怒られていた。担任のホームルームで先生も弟と似ていると思った、幸運にも救われただけで。俺は担任のいう助けた友人になれたのだろうか。もっと早く助けられたんじゃないのだろうか。友人は俺にすごく感謝した。いじめもなくなったようで純粋に嬉しかった。でも、担任の話を聞いていじめてたあいつが気になった。あいつのしたことは最低だが、あいつだって今は辛いはずだ…と。話しかけたが失敗し、あいつは学校に来なくなった。俺はあいつに何をしてやれたのか…考えすぎた日は体調を崩した。そんな日は俺も学校を休んだ。
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