第37話 無力

 松川くんの言っていたことを聞かないフリはできない。そう思った俺は悠人くんの様子を見に行くことにした。

「あ、おまわりさんだー!」

いつものように元気そうな悠人くん。

「こんにちは、本当にお世話になりました」

そして、まだ少しやつれている華さん。

「いえ、悠人くん無事でよかったです。病院には行きましたか?」

「あ、はい。少し痣があったのですが、転んだかぶつけたか…そのような痣のようだと言われました」

「…そうですか、では悠人くんは…」

「おまわりさん! ぼくがあそびに行っちゃったからママにしんぱいさせちゃった。ごめんなさい。でも、お兄ちゃんは悪くないから怒らないであげて!」

「…そうか、遊びに行ってたんだな。でも、絶対もうこんなことしちゃだめだぞ! お母さんを悲しませちゃいけないからな」

「…うん!! ぼくママを元気にするよ」

「では、そろそろ大丈夫ですか?」

「あ、はい。悠人くん元気でよかったです! また何かあったら連絡くださいね」

「はい、ありがとうございます」

「じゃーね、おまわりさん!」

「おぅ、またな」

松川くんはやはり悠人くんに慕われていて、華さんは痣のことを転んだかぶつけたと言っていた。華さんが虐待…いやいや、悠人くんはお母さんのことが大好きだし。松川くんの嘘…? えっと、松川くんが悠人くんの痣を見て虐待と間違えて誘拐…

「わ! あ、すみません。ボーッとしてて」

「いえ、ちゃんと前を見ていなかったので。こちらこそすみません」

見た目で怖い人かと思ったら親切な人だった…。警察とはいえまだまだ未熟だからヤンキーとか、見た目の怖い人にはまだビビってしまうんだよな〜。シャキッとしろ、俺! あと、人を見た目で判断するな!

「あ、あの〜」

お、何だ。あれさっきの…

「これ落ちました」

ハンカチ!

「すみません! ポケットにうまく入ってなかったかな。ありがとうございます!」

「はい、頑張ってください」

「ありがとうございます! 失礼します!」

俺としたことが2度も落とし物を。手を洗ってハンカチを使ったらポケットに押し込む! これだな。えーっと、それで間違えて誘拐なんてするもんかなぁ。うーん、こんなに考えていても俺には何もできないんだろうな。


 それから数日後、悠人くんの誘拐事件は松川くんの逮捕を持って幕を閉じた。悠人くんは松川くんに会えなくなって寂しがっていたが、何が起きたのかよくわかっていないようだった。松川くんは取り調べで虐待の話をしたのだろうか…結局俺は何もできず事件の収束と共に、今まで通りこの町を守っていくおまわりさんになる。この町を守るのが使命で、事件を解決させた…これでよかったんだよな?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る