第8話 ホームルーム
「みんな席につけ。今日のホームルームは大事な話をする。よく聞け」
どこか不安げなクラスの雰囲気を壊すかのように、先生が入ってきました。僕は保健室にいてもいいと言われましたが、話を聞きたいと言って教室にいさせてもらうことにしました。先生は辛い思いをさせたらすまないと言っていたのですが、どんな話をしてくれるのでしょうか。
「今日は、このクラスの問題をみんなで考えていく。いじめのことだ。先生は、こんなに直接的に話すのは良くないのかもしれないとも考えたが、みんなに誰かを傷つける人にはなってほしくない。だから、みんなに伝えたいことを話す。」
クラスの中には静寂が流れ、みんな真剣に先生の話を聞いています。
「では、ホームルームを始めます。最初に先生は子供の頃にいじめられていました。暴力を振るわれたこともありました。自分がいじめられないようにと私をいじめている人もいました。私は今でもあの辛い日々を覚えています。いじめられた者には辛い記憶が残るし、当時は死んでしまおうかと思ったこともありました。でも、そのときクラスメートの友人ただ1人が僕を救ってくれました。1人、たった1人だけでも自分の味方がいる。それは自分に生きてていいと言ってくれているようでした。クラスメートの友人は少しずつ、いじめは良くないと味方を作っていき、最後はいじめっ子以外みんな私をいじめなくなりました。私は彼に救われました。だから、いじめが起きそうになったときは、みんなの、1人1人の勇気を振り絞って戦ってほしい。自分がいじめられるかもしれないと思うと怖いよな、わかるよ。でも、その怖い思いをしてる人が目の前にいるんだ。助けてやろうよ」
先生がいじめを受けたことがあるなんて知りませんでした。はるくんのような友達に救われて、今の先生が生きている。すごいことだなぁ。
「でもな、もし今いじめを始めた人に腹を立てている人がいたら、それは違うぞ。いじめを始めた人に腹を立てて良いのはいじめられた人と救うことができた人だけだ。いじめを止められなかったことも重く受け止めてほしい。悩んで苦しんでほしいわけではない。自分にできた何かを考えてほしいんだ」
僕は今、先生の話を聞いて何を考えられるのでしょうか…。
「さっきの私のいじめの話には続きがある。いじめっ子が私に謝ってくるという驚くような終わりを迎えた私へのいじめだったが、私へのいじめが終わると、みんないじめっ子を無視するようになった。私はいじめてきた彼を許すつもりもなかったし、仲良くするつもりもなかった。でも、反省してくれたとわかっていたから彼がひとりぼっちになることを望んだわけではなかった。今でも私はあのとき何ができたのか考えることがある。自分がいじめられていた時の記憶より彼の悲しい顔が頭に浮かんでくる。彼はその後、学校を休みがちになり、転校した。このクラスのみんなには、いじめを始めてしまった人、いじめに加担してしまった人の気持ちも考えてほしい。同情しろ、仲良くしてやれ、そう言っているのではない。まず、いじめをした者は反省しろ、そして態度を改めろ、その姿を見てみんなで仲良くなれるそんなクラスになってほしい。私はあの頃の答えがまだ出ない。だから、こうしろと簡単には言えないし、正直どうすべきか迷いだってある。みんなにも考えてみてほしいんだ。これから、人の気持ちとか、何をすべきかとか色んなことを考えて行動してほしい。人を幸せにして生きれたら素敵だと思わないか? 素敵なクラスになれるよう願ってる。先生にできることなら手伝うから、相談もして頼ってくれていい。今回のいじめは気づけなかった先生にも責任がある。このクラスの担任としてみんなと素直なクラスを作りたい。改めて、よろしくお願いします」
先生はたくさん話した後、深くお辞儀をしてごめんな、よろしくと言っていました。そして、無理矢理みたいな笑顔で今日はこれで終わり! と言って教室を出て行きました。少し泣いていたようにも見えました。僕は素敵な先生に巡り合えた気がして、みんなを許せるのか考え始めました。
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