第7話 (R15)
「な、何故そのようなことをお聞きになるのですか?ジョセフィーヌに決まっているではないですか」
私の答えに満足をしていないのか、ライオネル王は、私のウエストに置いている大きな手に、一瞬力を込めた。
「おまえの父上であるドレンテルト王が、宴の途中で帰った。”緊急事態が起こった”と言って。祝宴の最中だからと言うことで、ニコに言伝てな」
「あ・・・そう、ですか」
「”緊急事態であれば手伝おう”とニコが申し出たそうだが、ドレンテルト王は”家族に起こった不測の事態故、手伝いは無用”と言ったそうだ。何か心当たりでもあるか」
「え。いえ」
予定を変えて、祝宴の途中で抜け出さなければならないくらいの緊急事態って・・・一体何だろう。
それとも、実は何も起こってなくて、バレそうになったから、サッサと帰ったのでは?!
・・・だったらサーシャもいなくなっているはず・・・。
「やはりおまえも知らないか。まあそれ自体に不自然な点はないこともないが・・。ただ、ドレンテルト王が、娘であるおまえに一言も言わず、ラワーレへ戻ったという点が腑に落ちん」
「あっ・・・!」
「いくら祝宴の最中とは言え、“悪いが急用ができたので、ラワーレへ戻らなければならない”くらいは言えるだろう?」
「う。あ、そ、そうですね」
「しばしの間会えなくなると言うのに、別れの挨拶も無しとは・・・おかしいとは思わんか」
あぁどうしよう!こんな展開聞いてない!
サーシャはたぶん知ってたはずなのに!言ってくれれば・・・。
「もう一度聞く。おまえは誰だ」
うっ!王の視線が厳しすぎて怖い!
私の背中を、冷たい汗が伝う。
どうしよう。一体どうすれば・・・。
『・・・ここまで来たんだから、もう引き返せないってあなたも分かってるでしょ?いい?今はまだ誰にもバレてない。初夜であるこれからが、最初で最後のチャンスだと思って覚悟決めなさい』
・・・そうよ。
メリッサ・ランバート、いえ、ジョセフィーヌ・クレイン。
覚悟を決めなさい!
私は、少し顎を上げてツンとすました表情をすると、爪先立って、ライオネル王の肩に両手を置いた。
そして、顔近づけて・・・ライオネル王に口づけをした。
ごめんなさい、ライオネル・クレイン王。ごめんなさい。貴方の御命を・・・。
「わたしは・・・ジョセフィーヌ、です」
「・・・何だ、そのキスの仕方は。キスと言うのはな、ただ唇を押しつければ良いのではないぞ」
「えっ?あ、あの・・・ぅんんんん・・・・っ!!」
うわぁ!どうしよう!!
王が・・・舌を私の口中へ入れて・・・あれ?
これ・・・味が・・・蜂蜜?!
とにかく、これは絶対にフォルテンシアじゃない!
だから王は、いまだに眠りに落ちていないのか・・・。
『メリッサよ、ライオネル王を殺してはならん』
「・・・フィリップ」
「ほぅ。キスが下手な上に、他の男の名を呼ぶとは。余裕だな」
「はいっ?いえ、フィリップとはそういう関係ではなく、ってちょっと何を・・・」
必死の弁明を聞いていないライオネル王は、私を後ろに向かせると、力任せにコルセットを引き裂いた。
「なっ、何てことを!きゃあっ!」
私がふり向いた途端、ライオネル王は私をヒョイと抱きかかえてスタスタと歩くと、広大なベッドへ私をドンと落とした。
そしてすかさず私の上にのしかかる。
ボレロを脱いで部屋へ来ていたので、むき出しの背中が、ひんやりとした絹のベッドシーツに当たっている。
私を見おろすライオネル王の視線はとても熱くたぎり、私をベッドに抑え込んでいる王の手は、力強いけれど、加減をしてくれているのが私にも分かる。
でも・・・ライオネル王は、怒りの雰囲気を発しているような気がする。
「その男の名は二度と口にするな」
「でも本当に、あの、そういう関係ではな・・・」
「おまえが何者であるのか、そんな事はどうでも良い。今は・・おまえが欲しい」
「ライ・・・や、やめて」
やっとライオネル王が、私の手首から手を離してくれた。
と思ったら、自分が着ていたブレザーを引き裂く形で脱いだ。
金のボタンが床に転がる音が、微かに私の耳に聞こえる。
一体この人は、どれだけ服を破れば気が済むの!?
続けて王が、黒いズボンを脱ぐために私から下りたのだと分かったので、ホッとした次の瞬間には、ますます焦りが募り始めた。
上体を起こした私を、全裸になったライオネル王がまた押し倒す。
想像したとおり、王は、ガッシリとした筋肉質な体躯をしている。
・・・そこに感心している場合ではない!
「ら、ライオネル王。もうやめて・・・」
「やめる?まだ始まってもいないのに」
やだっ!恥ずかしすぎて実物を見ることができないけど、すごく熱くて・・・長大なのが分かる。
これが本当に私の中へ入る・・・と言うより、貫かれる・・・!
「や・・・いや。やめて!!お願い、だから・・動かないで」
涙を流して必死に抵抗をしている私の様子がおかしいと気づいたライオネル王は、やっと私の懇願を聞き入れて、動きを止めてくれた。
「おまえは・・・ヴァージンだったのか?恋人がいたのではないのか」
「だからフィリップは・・もうすぐ60になる老人で、うぅ、わたしを・・私にとって、祖父のような存在・・・です」
本当は、母亡き後、私を引き取って育ててくれた、父親のような存在だと言いたいけれど・・・そう言ってしまえば、私が偽者だと自ら暴露することになるし、フィリップの事をあまり詳しく話してしまうと、そこから私だけでなく、フィリップの素性までバレてしまう可能性がある。
すでにこれだけ話したことで、ライオネル王には十分過ぎる疑惑を持たれてしまったかもしれない。
少なくとも、今夜ライオネル王を殺すことは・・・それどころか、たぶん私は、もうすぐ王に殺されるだろう。
「恋人、は、今までいちども・・いませ、ううぅっ・・・」
「そうだったか。どうりでおまえは・・・キスの仕方と言い、何から何までぎこちなかったのだな。すまなかった」
驚いた事に、ライオネル王は私に謝っただけでなく、私の目からとめどなく流れ出る涙を、大きな手で拭ってくれた。
屈強な体格とは不似合いな優しい王の仕草に、何故この御方が「魔王」と呼ばれ、人々から恐れられているとドレンテルト王が言ったのか、ますます分からなくなってしまった。
少なくとも、ライオネル王は絶対に醜い容姿ではないし・・・。
「恐怖と痛みを与えてすまなかった。最初からやり直しだ」
「・・え?あの、私・・・」
「おまえには、今から快感と悦びを与えてやろう。俺が・・・教えてやる」
「あ・・・ぅ、んん・・・っ!」
・・・てっきりすぐ殺されると思っていたのに。私の思惑は大きく外れた。
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