誰がジュースをこぼしたか

 これを読んでいるということは、あなたの精神はまったく健康であり、一般的な良識と常識を備えていると見なしてよろしいですね?

 もし自分の精神状態について、健全である自信がないのであれば、これから先は読まないことを推奨します。



 あなたは他人と記憶が食い違っている経験をしたことはありませんか?



 例えば、あなたが友達といっしょに映画を見に行ったとして、ジュースなんか買ったりして、ドキドキわくわく楽しく観賞したとしましょう。

 その時、あなたのとなりに座っていた友人が、ジュースをこぼしてしまいました。

 そういうことがあれば、印象に残りますよね。まあそれも楽しいハプニングというやつです。



 何年かして、その友達と映画のことで話をして、「ジュースをこぼした」ということを……あなたなり、あなたの友人なりが、蒸し返したとします。「あの時は大変だった」などと言いながら。



 その時、なぜかあなたがジュースをこぼしたことになっています。



 あなたの記憶ではたしかにジュースをこぼしました。しかし、それはあなたではありません。

 それにもかかわらず、なぜか友人の中ではあなたがジュースをこぼした扱いになっています。

 昔のことですから、誰もはっきりとは憶えていません。しかし、あなただけは知っています。あなたはジュースをこぼしていない。

 それにもかかわらず「あなたがジュースをこぼした」と言われたら、どんな気持ちになりますか?



 あなたは不快に思うでしょう。もしかしたら友人は自分の失敗をあなたになすりつけているのではないかと、疑心暗鬼になるかもしれません。

 あなたはその人と友人でいることをやめようと思うかもしれません。事実でないことを言われるのはつらいものです。

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