第10話 配属先

「アメリア!

 これの資料はどこだ~!」

「そこにまとめてあるはずです!」

「要求。

 貸出申請が来てるから精査して」

「ばっか!

 今忙しいから後回しだ!」


 カミノが叫び、アメリアが駆ける。

 アマノがコンピューターの前でコンソールを触る。

 時折、四角いショーケースのようなものが飛び回り、その中には様々なものが入っていた。

 帽子やナイフ、ネックレスや宝石。

 日用品や装飾品に物たちが収納されている。

 その光景は慌ただしく、一向に休まる気配を感じさせない。


「どうして……どうしてこんなことに……!!」


 アメリアは泣き言を吐きながら手を動かす。

 こうなった原因は今から少し遡る。


 ★


 魔導管理局『アドミニストレーター』。

 通称『管理局』と呼ばれる組織は、大戦時代の連合軍がその後の世界を復興するために作られた組織であり、現在では大戦時代に作られた魔導書や世界の情勢を統括管理をしている。

 その本部は世界最大の都市である『セントラルシティ』のど真ん中にそびえたっており、周りの建物なんて目ではない程の強固な作りになっている。

 アメリアがこちらに戻ってきてから数日。

 報告書は二度チェックしてから提出し、必要な手続きは抜けていない。

 晴れて正式な部署に配属されるはずのを自宅のアパートで待機していたのだが、本部から連絡があり、出勤していた。


「そこまで緊張しないで楽にしたまえよアメリア・ホワイト中尉。

 今日はいい茶葉が手に入ったんだ。君も一緒にどうだい?」

「……その、折角ですがご遠慮させていただきます」

「そうか、まぁそこまで無理に飲めとはいわないさ」


 目の前に座る女性が紅茶を飲む。

 カンナ・ミナモト。

 このアドミニストレーターをまとめる長であり、世界最強と呼ばれている人間だ。

 アメリアにカミノを探すことを命令した張本人。

 そんな彼女の前に呼び出されて緊張が高まる。

 心臓は痛いし、喉が渇いて仕方がない。


「さて緊張させ続けても迷惑だろうし、手っ取り早く本題に入ろうか」


 ティーカップを置いて、机に置いてある資料を手に取った。


「まず任務ご苦労。

 君の活躍によってデイビッド・マクスウェルは無事逮捕された。

 今は長い取り調べが行われている」

「はっ!」

「そしてあのアホも連れ戻すこともできた。

 君を捜索任務を頼んだ甲斐があった」

「はっ……」


 犯罪者と同列に語られている男の顔を思い出す。

 カミノ・ツキヨ。

 現在アドミニストレーターで保管されている全ての魔導書を管理している魔導書管理人。

 アドミニストレーターの中でも重要な地位にいる人物でなのだが、三年前から行方不明になっていた。

 指名手配して探そうにもその姿は本人が徹底して隠しているらしく、写真どころか監視カメラにさえ姿は残っていない。

 そんな中、官学校卒業直後のアメリアに管理人捜索を任され、中尉の階級を与えられる。

 アメリアが理由も聞いても特に離されず、ほぼ丸投げ。

 僅かな手がかりと共に世界各地を走り回っていた。

 まぁ、確かに経費であれこれ世界を回ったり美味しいものを食べたりとか得はあった。

 閑話休題。

 カンナは満足したような顔でアメリアと向き合う。


「君の功績を称えて希望の部署に配属することを約束しよう……と言うつもりだったんだけれど」


 カンナがパチンと指を鳴らす。

 するとアメリアが入ってきた扉とは別の扉が開き、そちらを見るとそこから誰かが入室してきた。


「ンンンンー!!!」


 口を塞がれ、四肢を車いすに固定されているカミノだった。

 それを押しているのはアマノである。

 アメリアはおぞましいものを見た顔になり、バッとカンナに向き直る。


「あの、これは……」

「うん、まぁ君の新しい上司だ」

「……はい?」


 とても信じられないような言葉を聞いて思わず聞き返す。


「ど、どういうことでしょうか?」

「管理人の仕事には直接魔導書を取りに行くこともある。

 ほら、半年とはいえそこそこ見回ってきただろう?

 それに君に与えた中尉って階級は今更撤回できないし、かといって他の部署に配属したところで軋轢が生まれるわけで」

「……もしかして最初から私を」

「この阿呆は日ごろから言っていたんだ。

 一人でやるにはブラック環境だと」


 じゃあどうすればいいと思う?

 と、カンナは笑って言った。


「人手が足らなければ増やせばいいじゃない」

「ッ!!ッ!!」


 色々言いたい言葉を頑張って飲み込む。


「実際候補としては君はとても優秀だった。

 学校の成績は、まぁともかく……潜在能力は素晴らしい。

 君の能力値ならどの魔導書とも相性がいいだろう。

 魔導書を保管、管理するのにとても都合……適任だろう」


 酷いことを言われそうになった気がする。

 そこで口を自力で解放したカミノが噛みつく。


「おいカンナお前!無理やりにも程があるだろ!」

「うるさいアホ。

 せっかく私が人材を補充してやるんだぞ?

 感謝されることはあっても非難されることは無い」

「やり方が問題なんだよ!

 というか別に俺がいなくちゃ回らないこの組織が問題だっつの!」

「別に回らないわけじゃない。

 ただお前がいた方が更によく回るから便利なんだよ潤滑油」

「独裁者!横暴!独身!」

「お前世界中の独身女性を敵にしたのわかってる?」


 カンナとカミノの口論にアメリアは呆気にとられる。

 段々とヒートアップする様子に介入する余地が無い。

 だがその途中にアマノがカミノの脳天に拳を叩き込んだ。


「面倒。

 さっさと終わらして甘蜜家に行きたい」

「むっ、それもそうだな。

 すまないアメリア中尉。

 醜いものを見せてしまったね」

「えっ?あっ、はい。

 あっ、いえ大丈夫です!」

「ということでこれから管理人補佐として、これのサポートと監視に勤めてくれ」

「監視、ですか」

「あぁ、実のところこれの脱走は前からちょくちょくあったんだ。

 昔は私が捕まえて連れ戻していたんだが、今の立場上、この椅子を離れるわけにはいかなくてな……。

 ということでよろしく頼む」

「……了解しました。

 アメリア・ホワイト中尉。その任をお受けします」

「うむ。頼もしい限りだ」


 ★


 そして時は現在。

 管理人の仕事を手伝っている。

 回収された魔導書をライブラリーへと登録し、専用のケースに保管。

 貸出申請の審査と許可。

 未回収の魔導書の情報整理。

 それからそれから……。

 と言う具合にてんやわんやと仕事が押し寄せる。

 その原因は言わずもがなカミノの不在。

 三年分のカミノしか手を付けられなかった仕事がたっぷりと溜め込まれていた。

 そのせいで毎日が忙しくて仕方がない。


「もうもうもう!なんでこんな仕事を溜めるようなことをしちゃったんですか!」

「うっせぇ!こんな仕事続けられるか!

 今身をもって実感してるだろうが!」


 やってもやっても終わらない。

 泣き言の一つ二つなんて済まさないレベルでぼろぼろ出てくる。

 そんなことを言っても仕方が無いので手や足を動かして仕事をこなしていく。

 なんだかんだカミノやアマノの指導もあって仕事に嫌でも慣れ始めてきていた。

 そして管理人補佐を任されてから一週間。

 ようやく仕事の余裕が見え始める。

 

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魔導書管理人 projectPOTETO @zygaimo

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