第7話 照準VS巨人

「ッ!」


 デイビッドの木を潜り込むようにして回避する。

 そのまま引き金を引き、風の弾丸を5発放つ。

 襲撃者に放った時とは違い、気絶では済まさない威力で。

 弾丸は命中して弾丸が弾けて衝撃が拡散する。

 だがデイビッドはよろめくだけで大きなダメージを与えられない。

 それでよかった。

 アメリアはもう片方の手に持つ飛翔の書ザ・フライトを起動させようとする。

 この場でデイビッドを確保するより街の安全を確保しに行くのを優先するためだ。

 しかし、それを塞ぐように岩の破片がアメリアに向かって飛び散る。

 咄嗟に横に跳んで避けるが、手首に破片がぶつかって飛翔の書を落とす。


「しまった!?」


 すぐさま拾おうとするが巨大な腕がそれを阻む。

 寸前のところで足を止めてぶつかるのを阻止した。


「おっと、それを取られては困るね。

 君は優秀だ。

 戻られたら爆発を阻止されてしまうかもしれない」


 デイビッドはそう言いながら飛翔の書を蹴り飛ばしてしまう。

 月明りしかない夜、そして飛翔の書が黒いキューブということもあって探すのは困難だ。

 アメリアは舌打ちを鳴らして距離を取る。

 弾倉を回して引き金を引く。

 雷の弾丸が10発、デイビッドの周囲に出現させて撃つ。

 常人なら1発でも洒落にならない攻撃。

 だが、デイビッドはそれを浴びようとも効いている様子はなかった。


「ハハハハ!!

 そんな軽い攻撃なんぞぉ!!」


 強化された脚力は地面を爆ぜさせてアメリアに突進する。

 まるで車のような勢いは瞬時に距離を詰めてくる。

 ギリギリのところで弾倉を切り替えて風の弾丸に変更して引き金を引いた。

 デイビッドにではなく、自分に向かって。


「ぐっ!!」


 強い衝撃によって身体を無理やり横に飛ばす。

 少し間違えば危険極まりないが強靭な肉体にぶつかられるよりは何倍もマシだろう。

 一度地面に身体を打ち付けてすぐさま立ち上がり、弾倉を回す。

 デイビッドは突き刺すように腕を下に刺し、その膂力を全力で使いながら宙へ跳びあがった。

 風の弾丸の効果が薄いことを鑑みるに落ちてくるデイビッドを止める手段は持ち合わせていない。

 だからアメリアは飛び上がる。

 デイビッドはそれに驚き、腕を払うが身体を捻って躱してその頭を踏み台にしてその後ろへと回り込んだ。


「私を踏み台にっ!?」


 下に落ちながら引き金を引く。

 30発の水の弾丸が上下左右取り囲むように展開され、襲い掛かる。

 弾丸は命中して水しぶきが舞い、光が散った。

 互いに着地する時にはデイビッドは全身ずぶ濡れの状態になり、鬱陶しそうに顔を拭う。

 弾倉を回し、雷の弾丸に変更。

 引き金を引いて雷の弾丸を撃つ。


「かっ!?」


 体外への攻撃が効かないならば体内へ。

 濡れたその身体に電撃はよく通り、体内にまで影響を与えた。

 デイビッドが全身から煙を上げて動きが硬直し、もう一度引き金を引いて弾丸を直撃させる。

 数発の雷の弾丸を受け、その身体を痙攣させながら倒れ込んだ。

 しばらく照準の書を向けて倒れたデイビッドの様子を見る。

 起き上がる気配は無く、戦いが終わったことに安堵して息を大きく吐く。

 そのまま休んでいる暇はない。

 手早く確保して街の爆発を止めなければならないからだ。

 ポーチから拘束具を取り出して歩みよろうとして、止まる。

 巨人化が解除されていない。

 アメリアは魔導書に対して深い知識を持っているわけではない。

 意識を失った状態でも効果が続くのだろうか?

 そんな疑問を持った瞬間。


「ヒヒッ!」

「なんっ!?」


 デイビッドがその腕力だけで放談の如く己を射出する。

 アメリアは咄嗟に拘束具を持っている方の腕を出してそれを受け止めるがその体格や強度に負けて後ろに転がされた。


「ッ~~~~!!!??」

「ふぅむ?

 後ろに跳んで緩和したか。

 君は鋭いね」


 デイビッドはゆっくりと立ち上がって顎を撫でる。

 まるで先ほどの攻撃が効かなかったように平然と。

 アメリアは目を見開き、汗を垂れ流しながら骨が砕けた腕の痛みに苦悶の声を上げる。


「あぁ、あの攻撃は流石に効いたよ。

 だけど巨人の書コレは体内も強化してくれるし、自然治癒力も高めてくれるのさ。

 おかげですぐ立ち上がることはできたよ」


 照準の書を強く握り、歯を食いしばって痛みを堪えて立ち上がる。

 デイビッドは肩を竦めた。


「まったく……まだ抵抗するのですか?」

「……」


 喋る余裕が無い。

 考える。

 照準の書ザ・ポインターが使える弾丸は六種類。

 あと使っていない三種類あるが、どれも効果を期待できない。

 ならば一番効果が期待できるのは雷の弾丸だろう。

 巨人の書の効果で強化されていても限界が来ないとは思えない。

 魔導書は魔力を消費して魔法を発動する。

 いくら強くでも無限に続くわけではないはず。

 かと言って地道に削るにしても時間に余裕があるわけではない。

 ならばと、ある予測を立ててアメリアは引き金を引いた。

 手加減なしの高威力を30発。


「無駄無駄無駄無駄ぁ!」


 そんな攻撃を受けながら進み続けて剛腕を伸ばす。

 それを避ける度に腕の痛みが意識を揺らすが、止まったらトマトみたいに潰されてしまう。

 攻撃に集中し、痛みを誤魔化す。

 デイビッドは地面を砕いて岩を掴み、握りつぶして投げ飛ばした。

 迫る自然の散弾は避け続けるアメリアの身体を捕らえた。

 照準の書で頭を守るがいくつかは肩を抉り、腹に刺さり、脚に打ち付ける。

 負傷によって倒れ込みそうになるがそれでも足を動かした。

 引き金を引く。

 任意の場所に弾丸を撃つことができるこの攻撃は一発も攻撃を外さない。

 30発の雷がデイビッドを襲う。

 デイビッドは止まらない。

 むしろよりその腕や足を使って更に動きを加速させていた。


「キビキビ動くゴリラみたい」


 そんな感想が出てくるからまだ余裕はある。

 引き金を引く。

 自分の代わりに蹴りを受けた木が折れ、それを掴んで振り回される。

 木は当たらずとも枝や葉が衣服に引っかかり、肌に細かい傷をつけた。

 腕よりはマシ。

 傷や痛みが増えるたびに、段々と冷静になっていく。

 瀉血と言う奴だろうか?

 一撃一撃が必殺な攻撃を紙一重で避け、発生する衝撃に髪を揺らす。


「そろそろ限界が近いんじゃあないかなぁ!」


 デイビッドは楽しそうに笑いながら両手を組み、振り下ろす。

 クレーターの様に地面が凹む。

 身体が浮いて身動きが取れなくなりアメリアはデイビッドの頭突きを腹に打ち込まれる。

 刺さっていた破片が深く捻じ込まれた。


「コハッ!?」


 血反吐を吐きながら何度も地面を跳ね、近くの岩にぶつかって止まる。

 視界がチカチカと視界が暗転。

 それでも引き金を引く。

 三度30発の弾丸が放たれた。


「何度やっても意味が無いのがわからないのかね」


 勝ちを確信してデイビッドは笑みを浮かべながらアメリアに近づく。

 それでも引き金を引く。

 引き金を引く。

 引き金を引く。

 引き金を引く。

 引き金を引く。

 引き金を引く。

 引き金を、引く。


「はぁ~、悪あがきも大概にしたまえ」

「……」

「さて、ではとどめを刺すと、うぬ?」


 デイビッドは膝を突く。


「て、手足が震える?

 それに何だこの不快な気分は」


 立ち上がろうとして膝に手を当てるが、そのまま四つん這いになってしまった。

 そこで気が付く。己の身体が異常なまでに熱を発していたのだ。

 何事か理解できずにデイビッドは困惑する。


「なん……だ!?

 いったい!?」

「端的にいえば熱中症ですね」


 顔を上げると口に付着している血を拭って岩に背を預けるアメリアがいた。

 満身創痍と言える状態ではあるがポーチにしまってある鎮痛剤を打ち込むことにより感じる痛みは軽減されている。


「ねっちゅう……?」


 どのようにダメージを与えても効果見えず、仮に与えられてもすぐに回復する。

 しかしダメージで無ければ効果はあると推測した。

 ひたすらに体内に熱を籠らせるために雷の弾丸を撃ちこみ続け、電熱や急速な治癒による体温の上昇を誘い、身体の不調にすぐ気づかれないように攻撃を誘う。

 意識がハイになっていたデイビッドは自分の不調に気づかず、熱を上げることができた。

 正直な所、賭けだった。

 行き当たりばったりの思いつき。

 これでダメなら全力で逃げることしかできなかったが……。


「上手くいってよかった……」

「うぐ、ぐぐ」


 魔法を維持できなくなったのか巨大化が解けて元の身体に戻る。

 アメリアはゆっくりと立ち上がり肩を使って弾倉を回す。

 風の弾丸をいつでも撃てるようにしてゆっくりと近づく。

 身体の強化も一緒に解けたためか一気に汗が噴きだし、息を荒げながら倒れていた。

 拘束具の予備は既にない。

 確保するには弾の威力を抑えて頭に弾丸を撃つしかない。

 引き金を引こうと指をかけた。


「あらあらあら~?

 デイビッドちゃんやられてるじゃな~い!」


 アメリアの前に女性が唐突に表れる。

 何の前触れもなく、倒れているデイビッドの前にしゃがみ込んでツンツンと指で突つく。


「あ、貴女は」

「あ、どもども~!

 通りすがりのシスターで~す!」


 着ているのはぱっと見修道服に見える。

 その側面には腰の位置までスリットが入っており、ピョンと回りながら跳びあがると前の布がめくれ上がる。

 履いてなかった。


 履 い て な か っ た。


「あっななななな、貴女なんで!?

 したっ!?下着!?下着は!?」

「えっ?あー……?

 別に必要じゃなくない?」

「必要ですよ!?

 実用的にも!?倫理的にも!?」

「もぉ~君はまじめちゃんだなぁ~?」


 いきなり現れたシスターを名乗る痴女に困惑するが、ハッとして照準の書を向けた。

 こんなことをしている場合ではないのだ。


「そこを退いてください」

「ん~、私的は別にいいんだけどぉ」


 痴女は再びしゃがみ、デイビッドに顔を近づける。


「デイビッドくん的にはどぉ?」

「わた……しは、まだ……」

「うんうんそうだよね!

 じゃあ私から祝福のプレゼント!」


 痴女はどこからともなく無針注射器を取り出してデイビッドの首に差し込んだ。

 プシュという音と共に中の液体が体内に注入される。

 嫌な予感がしてアメリアは引き金を引いた。

 一発の風の弾丸が痴女の握る注射器を破壊するが、遅かった。


「ぐがぁぁぁぁ!!!」


 デイビッドが悲鳴のような声を上げ始め、その身体を激しく痙攣させる。

 バタバタと動く身体は次第に肥大化し、めきめきと大きくなる。

 膨れ上がる肉体は最初こそは肉団子のようだったが次第に腕の形を取り、パキリと固まる。煙が噴き出し、軋む音と共にその身体を作っていった。

 その大きさはさっきとは桁が違い、15mまでの巨人へと変貌する。


「ウォォォォォ!!」

「なん……!?」


 再び巨人の脅威が振り下ろされる。

 ギリギリのところで横に跳び、拳の直撃は避けるが発生する衝撃波はどうすることもできずに吹き飛び、地面に落ちる。

 上手く受け身を取ることができず、肋骨が折れた。


「くっ!?」


 せっかく誤魔化した痛みがぶり返してくる。


「いやぁ~でっかいねぇ!」


 痴女が隣に立ち、楽しそうな声を上げながらはしゃいでいた。

 まるで新しいおもちゃを手にした子供の用だ。


「あな……なに……」

「んっ?

 ちょっとしたお注射をね。

 アレを打つと魔導書との相性をグ~ンと良くしてくれるの!

 ……まぁ、代わりに命が擦り切れるまで止まらないけどね☆」

「なっ!?」


 そんな話は聞いたことが無い。

 十中八九違法薬物だろう。


「私は巻き込まれたくないから帰るけど。

 君も逃げれるといいね!ばいばーい!」


 痴女は手を振って空気に溶け込むように姿を消した。

 恐らく何かしらの魔導書か魔道具の効果によってもたらされる魔法。

 追いかけたいが姿が見えないならどうしようもない。

 それよりも目の前のデイビッドをどうにかしなければ。

 一歩踏み出せば全身が痛む。

 顎と鎖骨で照準の書を挟んで手を空け、鎮痛剤を取り出そうとポーチに手を入れる。 

 取り出せたのは砕けている容器だった。

 身体を打ち付けた時に一緒に割れてしまったのだろう。

 上を向いて深呼吸する。


「うっ」


 肋骨が骨折してるのを忘れていた。

 しかしいい気つけになった。

 アメリアが駆けだそうと身体を斜めにして。


「いやいや無茶すんなスカタン」

「あいた!!」


 頭を叩かれる。

 顔を上げるとそこにはヨツキが呆れた顔で立っていた。

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