第5話 街での調査
街に戻り、その中にあるレストランに入っていた。
時間はお昼過ぎ、夕方手前といったところだが昼食を逃していたアメリアは2段重ねのパンケーキを食べていた。
手前に座るヨツキはコーヒーを飲みながら席に備え付けられている電子ペーパーを眺めていた。
「何も食べなくていいんですか?
パンケーキ美味しいですよ」
「まぁ別に腹空かせてないし、何より先に何か食っていたら相棒に噛みつかれてしまいます」
「はぁ」
仲がいいんだなと思いながらパンケーキを食べ進める。
掛かっているはちみつと柔らかいパンケーキが舌と腹を満たしていく。
頭ばかり回していても疲れてしまう。適度な休息も必要。
なんて誰に文句を言われているわけでもないが、そんな言い訳を胸の内に呟いていた。
「んっ、来たな」
「んぐっ」
ヨツキが入り口を見て気が付き、手を上げる。
口の中のパンケーキを飲み込み振り返るとキョロキョロと見まわしている紫の少女がいた。
手を上げているヨツキに気が付くとすたすたと歩いて近づいてくる。
その途中にアメリアがいることに気が付いてむっとした表情になり、そのままヨツキの隣に座る。
「首尾は?」
「上々。
抜かりない。
疑問。
なんでこの人がいる」
「このひと」
雑に扱われたことが地味に傷つき苦笑いなる。
ヨツキがペシッと頭を叩いた。
「痛い」
「すいません」
「い、いいえ気にしないでください」
「えーと、紹介しますね。
こいつは相棒のアマノです」
「えっと、よろしくねアマノちゃん」
「要求。
私も食べたい」
(無視されたっ!)
無視されたことに落ち込むアメリアに哀れな視線を怒りながらヨツキはテーブルのスイッチを押す。直ぐにに店員がテーブルに来て注文を伺った。
アマノはメニュー表を眺めて、その中の一つを指差す。
「注文。
デラックスクリームイチゴもりもりフルプライスパフェ一つ」
「かしこまりましたかしこ~」
「おいまてコラ!
それいくらするんだ!?」
ヨツキがメニュー表を引ったくりその値段を見る。
目を見開いた後にキャンセルしようとするが既に店員の姿はなかった。
アメリアも気になって値段を見ると「うわっ」という声が漏れてしまう程度にはいい値段をしていた。
「不満?
一人で調べてたから当然の権利」
「限度と言うものを知らないのかお前は」
「肯定。
だからそれ一つで我慢した」
「我慢しなかったらこれ以上頼んだの?」
「ふんすっ」
「ま、まぁまぁここは私が支払い持ちますから」
今にも泣きそうなヨツキにそう提案する。
するとアマノが目を輝かせた。
「提案。
もっと頼んでいい?」
「ダメに決まってんだろアホ!
いいからさっさと本題に入れ!」
「アハハハ……」
不満そうな顔から元の無表情に戻り、この街で集めた情報を話し始めた。
彼女が主に集めた情報は4つ。
最近の街の様子。
アレンビーの評判。
賞金稼ぎの出入り。
この事件の認知度。
「一つ。
街の様子は特に変化なし。
ただ最近は決まった時間に数分の停電が起きることがよくあるらしい」
それを聞いて立ち寄った資料室での出来事を思い出す。
停電騒ぎはあの日だけの出来事ではなかった。
つまり犯人は停電を利用していた可能性がある。
「二つ。
アレンビーは管理局の人間にしてはとても好評。
彼が亡くなったことを惜しんでいる人が結構いた」
さっき研究所で聞いた通りだ。
正直羨ましいと言ったら不謹慎だが、彼の人柄は類まれなる才能だったのだろう。
「三つ。
賞金稼ぎの出入りが多い。
情報屋の方もちょこちょこ見かけた」
初めてアマノと出会ったときにも別の賞金稼ぎがいた。
思えばなぜこんなところに彼らのような者がいるのか。
この周囲には探索する遺跡があるわけでもない。
かと言って賞金首の話も聞いた覚えがなかった。
だがアメリアのその疑問は最後の報告で解消される。
「4つ。
魔導書が強奪されたことも流れてる」
「なっ!?」
アメリアは驚愕する。
今回、アレンビーが殺された事件自体は報道されている。
しかしその内容は公にされていない。
勿論、『巨人の書』が何者かに強奪されたことはトップシークレット。
そんな情報が流れることは管理局の信用に関わるし、魔導書を欲する人間にはいい餌だ。
「どこから流れたかわかるか?」
「不明。
喧嘩吹っ掛けてきたヤツをノして聞いた」
「またお前荒い手を」
「防衛。
あっちから先に手を出した」
無い胸を張って自分は悪くないと主張する。
だがアメリアはそれどころではない。
つまりはだ。
「今いる賞金稼ぎの狙いは魔導書ってことですね?」
「肯定。
でもその魔導書が何かまではわかってはいないみたい」
「わかっていなくても魔導書を回収すれば管理局に恩を売れるか、阿呆に高値で売れるかできますからね」
「最悪はそれを犯罪者に流されることですが……」
「疑問。
もうすでに渡っているのでは?」
「うっ」
それはそう。
正論を言われて食べたパンケーキを戻しそうだ。
「でも情報を元は多分犯人ですよね。
なんでわざわざ自分が掴まるリスクを?」
なんとか話を戻そうとして疑問を切り出す。
魔導書を手にしているとしたら盗み出した犯人だろう。
いったい何のメリットがあるのか?
アメリアの話を聞いてヨツキも顎に手を当てて考え始めた。
沈黙が始まりそうになった時、店員がテーブルにパフェを持ってくる。
「ご注文のデラックスクリームイチゴもりもりフルプライスパフェです」
「歓喜!
大満足のボリューム!」
「えっ、うわっ」
頭を抱えていたアメリアが見たのはそれはもう見たことの無いほどの山盛りのパフェだった。
生クリームやイチゴがふんだんに使われており、器ももはやガラスのボウルだ。
これを一人で食べるなんてとてもじゃないがアメリアには無理だろう。
あまりの衝撃に考えていたことが吹っ飛んでしまった。
「満足。
身に染みる糖度」
「それは、よかったですね」
「回想。
そういえば賞金稼ぎの中にかなり殺気だったやつを何人か見かけた」
「それは、魔導書を先に確保しようとかそういうのじゃないですか?」
「疑念。
そういう感じじゃなかったと思ふ」
モグモグとパフェを食べながらアマノは答える。
一口一口食べるたびにびっくりするほど幸せそうな顔に変わるのが可愛らしいが、今は横に置いておく。
「ヨツキさんはどう思います?」
「……」
「ヨツキさん?」
「もしかしたらちょっとまずいかもしれない」
「えっ?」
深刻そうな顔になるヨツキにアメリアは困惑した。
何かを焦っているようだ。
それから数秒悩んだ後、アメリアを見る。
「中尉、少し提案が」
「え、はい」
「囮になってもらってもいいですか?」
★
時刻は夜に差し掛かり、街に明かりが灯る。
その中で明かりに負けないほど目立つ人物が歩いていた。
黒をベースに中心を白いラインが大きく一本と各部に金の装飾、白く長い髪は夜の光に反射する。
つまるところ、制服姿のアメリアだった。
昼間より目立つ感じがしてあの時以上に居心地が悪い。
しかしこれはヨツキが提案してきた作戦の為に我慢する。
ワザとらしく人通りの多い道から段々と少ない道を選んで進む。
左手首につけている時計を見る。
もうすぐ予定の時刻だ。
それに間に合うように更に人が少ない所へ。
やがて誰もいない道になり、街灯の明かりが消えた。
月の明かりだけが残り、足音が一人だけのものになる。
影から男がアメリアに襲い掛かった。
「ッ!?」
だが男が硬いものに殴り飛ばされ、地面に身体を打ち付けられる。
すぐさま立ち上がりアメリアを睨んだ。
アメリアの右手に持っているのは見たことの無い銃だった。
その銃には引き金はあるが
つまるところそれは銃ではない。
「起動して!『
その銃、銃に刻まれている刻印が光る。
アドミニストレーターが管理している魔導書の一つ。
この魔導書の機能は空間照準。任意の場所に魔法を出現させることができる。
アメリアがその引き金を引くと照準の書が緑の弾丸が6発銃身の周りに発生させて発射する。。
男は素早くそれを回避するも、その背中から強い衝撃を受けて転がった。
もう一度引き金を引くと倒れている男に4発の緑の弾丸が撃ち込まれ、弾ける。
「ガッ!!」
強力な衝撃が男に与えられそのまま意識を奪う。
アメリアは意識の失った男を見て照準の書を下ろす。
その瞬間、別の影から4人の人間が飛び出してきた。
敵を倒した後の隙を狙ったのだろう。鋭いナイフが夜の月で輝く。
アメリアは照準の書を下ろしたまま引き金を引いた。
緑の弾丸が襲い掛かってきた人間の前に現れ、放たれる。
瞬時に対応できなかったの二人。
残りは弾丸を顔に直撃させてそのまま地面に落ちる。
弾丸を躱した人間は懐から銃を取り出した。
一般流通されている銃型の魔道具だ。
弾に魔力を乗せて弾速や貫通力を上げる効果を持っている。
引き金に指をかけて放たれようとするが、それよりアメリアの方が早かった。
銃の
すると今度はパチパチと音を鳴らす黄色の弾丸がその人間たちの背後に出現、電撃がその人間たちに走った。
「「ッ!?」」
何が起きたのか理解できていないままその人間たちは倒れ込む。
身体は意識があるのか、又は電気によってか身体はビクビクと動いていた。
照準の書のもう一つの機能。
回転弾倉を動かすことで照準の書に記載されている6つの魔法を切り替えることができ、用途によって変えることができる。
使ったのは風と雷の弾丸。
アメリアの魔力コントロールにより殺傷力は抑えられていた。
引き金に指を当てながらジッと待ち、他に襲撃者がいないことに安心するとアメリアは「ふぅ」と息をつきながら銃を撫でた。
「おみごと」
「んっ、上出来」
「ありがとうございます」
建物の上からヨツキとアマノが飛び降りてくる。
そのままアマノは足でツンツンと襲撃者をつつきながら意識を無いことを確認した後、その服を漁り始めた。
ヨツキはそれを横目にアメリアの手にしている照準の書を見る。
「まさかそれを持っているとは……」
「コレをご存じなのですか?」
「ちょっと。
しかしあれだけの魔法を複数使って気絶だけなんて余程魔力の扱いが上手なんですね」
「まぁ、それだけが取り柄と言いますか……」
「最大いくつ魔法を使えるんですか?」
ヨツキは何となく、興味本位で聞いた。
「最大で30ですかね?」
「さんっ!?
……余程相性がいいんですね」
「相性?」
「魔道具とは違って魔導書は使用者を選り好みします。
相性がいいと使用者の力や魔導書の効果を最大限活かせるんですよ」
「あー、だからいつもあんなに撃っても疲れないのかな」
「でも流石に一気に30発も撃つのはオススメしないですよ。
流石に魔力切れ起こすでしょうし」
「えっ?そんなことは無いですよ?
借りた時に何度か試してみましたけど10回撃ってもそんなにですし」
「……30発を?」
「はい」
「10回も?」
「その時はですけれど、まだ余裕ありましたね。
弾丸の燃費がいいのでしょうか……えっと、どうかしました?」
「いや、なんでも……」
「確認。
例のもの見つけた」
ズリズリと最初に気絶させた男の足首を掴み、引きずりながらアマノは二人の元へ来る。
男は下着一枚吐いた状態になっており、着ていた服は気絶した位置にビリビリに破かれていた。
周りを見ると同じように襲撃者は全員ひん剝かれており、何とも目に当てにくい光景が広がっていた。
アマノは空いているもう片方の手には賞金稼ぎが持つドッグタグ。
襲撃者たちは賞金稼ぎという証。
それに加え、それぞれの身体に太陽の中に五芒星が描かれているマークが刺繍されていた。
それを見て全員は顔を見合わせる。
「これは!?」
「嫌な予感が当たったな」
それと同時にアメリアの端末が鳴り響く。
端末を取り出し、画面を見ると一つのメールが来ていた。
それを開き、内容を読む。
「ヨツキさん」
「いい話ですか?」
「ある意味では」
深刻な表情になって端末を閉じ、ヨツキとアマノに内容を話す。
「じゃあ」
「後は本人に問うしかないですね。
お二人はここまでで大丈夫です」
「それは」
「元々は本官の仕事ですので。
ご協力ありがとうございました。
コートは、解決したらお返ししますね」
アメリアは駆けだす。
この事件の犯人の元へと。
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