第4話 魔導書の研究
「ここが研究室です。
今は保留となっていて誰も立ち入っていませんが」
案内されて入ったのはそこそこ広い部屋だった。
研究資料がまとめられている棚。研究に必要な機器が未稼働の状態。
他にも個人の机やイスなど、アメリアが想像する研究室といったものだ。
「確か研究資料はここに……」
「あっ、自分で探しますから大丈夫ですよ」
「そうですか。
では何かあったらそこの内線でお呼びください」
「はい、ありがとうございます」
研究員が部屋を出て自分の仕事に戻っていく。
さて調べようと改めて部屋を見渡すと、既に資料を机の上に広げるヨツキの姿があった。
「うわぁぁ!?何してるんですか!?」
「何って、研究の内容を調べているだけですけど?」
「これ一応門外不出の秘密事項なんですから勝手に調べられては困ります!
ヨツキさんはこの部屋で怪しいものとか変な所が無いか調べていただいて」
「でも中尉はこの資料の見方わかります?」
そういってヨツキは資料をアメリアに見せる。
アメリアが近寄って内容を見るが、専門用語とグラフ。
また何かの計測を記した数字が書き出されていた。
アメリアは士官学校を卒業した身ではあるが、ここまで専門的ものになってくると完全にお手上げである。
「わかりません……」
「じゃあわかるように説明しますね」
「はい……」
なぜ賞金稼ぎのヨツキがそれを読めるのかツッコミを入れた方がいいか迷ったが、内容を把握する方を優先した。
一つの資料を取り出してヨツキは説明を始める。
『巨人の書』に記載されている魔法は大きく分けて3つ。
一つ、身体の巨大化。
魔導書を起動させて、術式を身体に巡らせることにより任意の部位を大きくさせることができる。
質量も増加し、重量も増すそうだ。
だがそれだけではその重さによって腕を動かすことはできない。
二つ、身体能力の向上。
使えば四肢や五感などの能力を向上させて、更には身体の強度も上げる。
一つ目の巨大化をカバーするための魔法だと推測される。
そして三つ。
魔力による砲撃。
身体を起点として魔力を消費しながら砲撃を行うことができる。
その威力は巨大化している状態に比例され、同時に消費する魔力もそれによって変化するようだ。
「……最後の砲撃は危険すぎますね」
「砲撃実験は行っていないみたいですけど、撃ちだす直前の魔力量を見るに巨大化が腕一本分ぐらいでも街の一部を吹っ飛ばすことができるみたいですね」
それを聞いてアメリアはゾッとする。
そんなものが誰ぞとわからない相手に盗まれているのだ。
いつ大きな被害が起きてもおかしくはない。
2週間何もないとはいえ、今日何も起きないとは限らないのだ。
「でも内容はわかってるんですね。
なら何を研究していたんでしょう?」
アメリアがそういうとヨツミが呆れたと言わんばかりの顔になった。
「中尉、それ本気で言ってます?」
「えっ、何か変なこと言いましたか?」
ヨツミが大きなため息をつきながら「いいですか?」と話し始める。
「使える魔法がわかってもその術式がわかるわけではないんですよ。
魔法の術式はこの時代では再現できないほどの複雑で、そこから一部でも今の魔道具に落とし込める部分を取り出すのが魔導書の研究です」
なんでこんなことを知らないんだと言いたげな顔で説明する。
アメリアはおぼろげながら士官学校でそんな授業をやったことを思い出す。
ただ担当していた教師が無駄な話をすることが多く、あまり内容が入っていなかった。
「あー、そういえばそんなのを授業でやった気が」
「はぁ~……学校の一般項目でやる部分のはずなんですけど」
「……あの、気になったのですが」
「なんですか?」
「もしかしてヨツキさんって元士官かその候補生だったんですか?」
ヨツキの資料をめくる手が止まった。
「研究資料の読み方をご存じみたいですし、魔導書の研究にも明るい。
アレンビーさんとの仲もそこで知り合ったとか……あれ?でもそうなると」
「あー!あー!アメリアさん!ここなんですけれど!!」
アメリアの疑問を遮るように一つのファイルを突き出す。
あまりにも必死な声に驚き、考えていたことが吹き飛んでしまった。
「『巨人の書』の研究ですが、どうやらその魔法の中にある伝導率の技術を利用としたみたいですね」
「伝導率?魔力のですか?」
「巨大化しかり、能力向上しかり、身体に術式を巡らせてそこに魔力を通して効果を発揮するようです。
そのため魔法の一部に肉体から術式へ、術式から肉体への魔力の通りをよくする機能があるみたいです」
「でもなんでそんなものを?」
「エネルギー効率を上げれば燃費をよくできますからね。
魔導車とか大型の魔道機械とか」
「あっ」
そこでこここの部屋に来る前の話を思い出す。
ここでは魔導車と魔導機械について取り扱っている。
魔導書は実験場所だけでなく、その研究内容にも理にかなっている場所というわけだったのだ。
「なるほど」
「研究の方はあと一歩って感じだったみたいですね」
「じゃあ犯人はこの研究を邪魔するためにアレンビーさんと『巨人の書』を?」
「それは無いんじゃないですかね」
資料を片付けながらアメリアの推測を否定する。
「こういっちゃあなんですけれど、類似の魔導書さえあればこの研究を再始動することはできます。
人材は、まぁ彼抜きでもできないわけじゃないですし」
「じゃあ目的は魔導書そのもの?」
「そっちの方がありえそうですね」
「う~ん……」
「まぁ動機はともかく、調べるものはこれ以上ないと思いますよ」
「えっ、いや計器とか部屋の隅とかに何か痕跡があるかもしれないじゃないですか」
「ないと思うけどなぁ」
ヨツキは何か確信を持っているようでそれ以上調べるつもりは無いようだった。
アメリアはそう言われつつも自分で部屋を調べる。
しかしヨツキの言う通り、部屋から何か出てくることはなかった。
「ね?」
「そう、みたいですね」
「じゃあここはお暇しましょう。
そろそろ相棒が合流場所にいると思うんでそっちに向かいませんか?」
「そうしますか」
アメリアは内線を手に取って退室することを伝える。
少し待っていると案内してくれた研究員が迎えに来て出口へと付き添ってくれる。
「何度も申し訳ないんですけれど、何かアレンビーさんに対して思い出したことありませんか?
些細なことでもいいんです」
成果がゼロのままここを出るのは忍びないと思い、質問する。
ただ彼にはここに来た時も、事件が起きた時の事前調査の資料にも質問されていることだから情報は出ないのはわかっていることなのでアメリア本人の気休めにしかならないが。
「まぁさっき話したことが全部ですかね」
「ですよね……」
「んー、あっでも」
「なにかあるんですか!?」
研究員が何か思い出した要図に食って掛かる。
「あぁいや、大したことじゃないですよ。
ただアレンビーくんは最近よく支部長と仲良くしていたなってくらいで」
「支部長と?」
「まぁ彼も支部長と同じで本部から
「それはどういう?」
「詳しくは聞いていないですが支部長は本部の方で問題を起こした後にこちらに派遣された方だと伺っています。
アレンビーくんも似たようなものだと。まぁアレンビーくんはそれを否定していましたが」
「……」
「まぁ関係ない話でしたな」
「でもお話してくれてありがとうございます」
「いえ、調査頑張ってください。
彼の無念が晴らされることを祈っています」
二人はその言葉を後に研究所を出た。
しばらく無言で歩き、研究所からだいぶ離れたところでアメリアが口を開く。
「さっきの話どうおもいますか?」
「可能性はあるかなと」
なんの可能性とは聞かない。
アメリアは持っている携帯端末を起動させ、ある相手にメールを送る。
返事が返ってくるのに時間はかかるだろうが、こればかりは仕方がない。
次の調査へと意識を向けた。
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