第16話 さてさて、どうしよう。

 ゲロを吐きまくってる間、私は考えた。


このお店には多大なる恩を感じてはいるが、ママはお店にいない。孤立無援だし。


辞めよう。


私はもうやりきれなかった。


歌舞伎町でかつてブイブイ言わせていたママさんがやっているお店に仕事終わりに飲みに行った。今でもよく行く大好きなお店だ。


このママさんは初めてお客さんと行った時から何かと私を気にかけてくれていた。天海祐希似のママさん。



酔いに任せて今の現状を相談すると、「心で舌出して、うまいことやればいいんだよ」と言ってくれたが私は根性がなかった。



天海ママさんの知り合いに、新しく銀座でお店を出すママがいるという。

「アヤちゃんよかったら少しお手伝いしてみない?」


天海ママは私を申し訳ないくらい買ってくれていて、銀座と聞いただけで震え上がる私の背中を押してくれた。その時かなり病んでいたので、気分転換になればと声をかけてくれたんだと思う。




私は接客が大好きだったし、人間関係で辞めてしまうにはもったいないという気持ちもあった。

怖いもの見たさもあって、週に2回数時間だけ手伝う事にした。


銀座デビュー。


ドラマで見るようなTHE水商売を想像していた。

そしてその通りだった。


着物姿の凛としたママは、上野のママとは別の高潔さがあった。

ブランド感というか……「銀座」という肩書きに責任を感じてるようでもあった。


彼女はもともと関西で№1ホステスだった方で、紆余曲折あり銀座でお店を出すに至ったのだが、今まで出会ったお姉さま方の中でもダントツに「女」だった。



それぞれのお店の色合いが違うのは当たり前だが、接客の仕方でも上野ではかつて出会ったことのない雰囲気の方だった。

絶妙な色気が常に漂っていた。お客様はみな一流企業といわれるとこの偉い方ばかり。



私は引き立て役としてそこにいた。今やプロフェッショナルのホステスさんはほんの一握りで、大学生や会社員の女の子がちょっとした社会勉強という名目で銀座にアルバイトいくるという。なのでママ以外のスタッフは皆いわゆる素人さんだった。


私はどちらにも属さない宙ぶらりんな存在だ。



ママは最初から自分以外のスタッフにはそこまで期待していなかったように思う。


しかし、当時ちょうど会社では交際費が削られるとか、どこどこで不祥事が、みたいな不景気な時期だったので客足はオープンからしばらくすると徐々に減っていった。



お客さんが一人も来ない日が増えてきた。


バイトの子は居眠りをしている。




ある日お店でママと二人きりになった。



「アヤコちゃんは一流のホステスになりたい?そうでないなら違う仕事を探して」



解雇通告だった。




その時、私の目はようやく覚めた。



心の中で舌をだすほどたくましくもなく、中途半端に携わっている気持ちを見透かされていた。



この不況に、水商売で生き抜くその覚悟はあるの?


ないです。



それから私は上野のお店も辞め、またニートに逆戻りした。

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