第6話 試練。
町中の男性やショップ店員のお姉さんに少し優しくされただけで舞い上がっていた私もなんやかんやで一年スナックで働いていた。
そうすると常連さんたちも顔を覚えてくれる。
お客さんの年齢層が割と高めのお店だったので、みんな娘か孫を可愛がるように私に接してくれた。
お客さんの質の良さはママの人柄によるところだろう。お店にいる人々に救われていたので私は働き続ける事ができた。
仕事に慣れてくると、新たな課題がでてくる。
いくら繁盛店といってもママがお店を始めた頃に比べると大分売り上げが落ちていたらしい。常連さんも定年間近か、会長さんレベルになるとそう毎晩お酒も飲んでいられない。
かつて働き盛りのサラリーマンたちで賑わっていたお店は初老の紳士の憩いの場になりつつあった。
スナックってそもそもそんなイメージだったが、やり手のママからするとこの状況はあまりよろしくなかった。
「アヤコちゃんもそろそろお客さんをもてればいいね…」
閉店後ママが帰り支度をしながらそうつぶやいた。
遂にきたか…、来てしまったか。
お客さんに営業してお店に来てもらう。
一年経てば嫌でも気が付く。
コンビニよりも高い時給をもらうということは、それなりの苦労と努力をせねばならないということだ。
私は他のスナックや飲み屋さんで働いたことがないのであまり大層なことは語れないが、水商売は人脈が最も重要であり、リピーターさんを変わらず満足させ、尚且つ新規のお客様を獲得することがお店の利益をあげていく。提供するサービスの質が落ちてはいけないし、お客様と共に成長していかなくてはならない。
それが出来なければ、お客さんはわざわざ居酒屋より高い料金設定のお店に足を運んではくれない。
とにかく、新規のお客様を私の手によって獲得せねばならぬ!
しかしどうやったらいいものか…。
私の売りはなんだ?何をアピールすればお客さんは私にお金を払って飲みに来てくれるのだろう?
いくら少し垢ぬけたところで、美しいとはいえない平凡な顔立ち。トーク力でいっても私が語れるのは大好きな映画と洋楽の事くらい…。
…待て、映画と洋楽だったらどのお姉さま方より話せる自信はある。
ニッチなネタならニート時代深夜のTBSラジオを散々聞いていたから多少はついていける!
私のあのグダグダもにゃもにゃしていた時期が初めて役に立つときが来たのではないか!
それから私は新規のお客さんが来る度に同じような趣味の人を探した。
しかし中々いない…。
いたとしてもそれは常連のおじ様たちばかり。今私が掴まなければいけない客層は30代から40代なのに。。
お店のお姉さま方の顔面偏差値はとても高い。幅広い年齢層の美女揃いだ。20代から50代まで。お話ももちろん上手い。自分の売りがなんなのか、自己プロデュース力に長け、美貌も備えた実力派ばかりである。
ほんとになんで私が採用されたんだ…。
他の人になくて私にあるもの…。無いものだけが頭を支配する。
でもやっと仕事にも慣れてきて楽しいと思えるようになってきたから辞めたくはない。何か打開策はないか…。本当に役に立たないのならとっくに解雇されていてもおかしくはないのに、ママはまだ雇用してくれている。わたしは何を評価されてここにいるのか、なるべくポジティブに考えてみよう。
スナックに置いて必須のカラオケで、色っぽい昭和歌謡も歌えなければ、西野カナ的なラブソングも歌えない。
歌えるには歌えるのだが、お客様たちには「なんか違う…」と言われる始末。
私はとりあえずカラオケで盛り上がる接待曲をYouTubeで聞きまくって覚えた。
自分で歌えない分、全力でお客様達を盛り上げよう!これなら元来お調子者の私にならできるはず。
道化は道化らしく、徹底的にやろう。
そこで出会ったのがアイドルちゃんだった。
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