第4話 ママとの出会い。

 私はなんと採用されてしまったのだ。

ありがたいし嬉しかったのだが、本当にいいのか?


よっぽど人手が足りないんだろう。

体験入店の時、社会人として最低限のマナーは守ったつもりだったので、お姉さん方と肩を並べて働くというよりは下働きスタッフとしての採用だろうと思った。


 採用されてからの初出勤では、お店での簡単なマニュアルなどをモモコさんから教わった。


お酒の作り方、灰皿は吸い殻が二本貯まったら交換する。

おしぼりの出し方やテーブルのセッティングなどなど…。



学生の時にレストランで働いていたので、こういった事はすんなりと飲み込む事ができた。

目の保養にもならないし、おもしろおかしく話す事もできない私は、まずこういった基本業務をちゃんとこなそうと思った。


 お姉さま方の邪魔してはいけない。

こいつがテーブルにいると楽だわ~、っと思われるようにやたら忙しく動きまわった。それしか私に存在価値は無いと思ったからだ。



 お店は大体20名が収容できるくらいの広さで、女性キャストもレギュラーメンバーとアルバイトで大体15名のスナックとしては大箱のほうだったと思う。


年齢層の広いプチキャバクラのような感じで、お客様には必ず最低でも一人キャストが同席するシステムだった。


最初に思い描いていた、カウンターにママと女の子一人、お客さんも毎日2,3名の常連さんが来て和やかに談笑する…というイメージは初日で吹き飛んでいたのだけど、思った以上に繁盛店だった。



 三回目の出勤で、初めてママさんに会う事ができた。

求人サイトで一目ぼれした、スーツをビシッと着こなし厳しそうだけど懐の深そうな優しい笑顔のママ。


「おはよー!」


と彼女がお店に入ってきた途端、お店の雰囲気が変わった。


お姉さん達には緊張感が走り、常連さんたちは待ってましたと言わんばかりに盛り上がる。



この人がママ…。


すごい…あのモモコさんですら小娘のように見える。

壇蜜もクミちゃんも、普段は砕けた接客をしているがママの視線を意識しまくっているのか急に背筋が伸びている。


「あなたがアヤコちゃんね!よろしく。ママです。」


と笑顔で私に声をかけてくれた。



 かっこいい…。


歳は50代、凛とした佇まいと美しい顔立ち。潔いショートカットとシンプルなお化粧にスーツ。しかし胸元と手先に光る決していやらしくない宝石の輝き。



 私の直感は正しかった。

このお店を選んだ私の選択は、今でも正しかったと胸を張って言える。



このママとの出会いが、頭の臭いいなかっぺの人生を変える大きな転機となる。

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