蛇の舌

 蛇に、似ている。

 あなたが彼を観察するごくごく短い時間の中で、最もしっくりくる印象はそれだった。

 彼は、蛇に似ている。


  ***


 彼は場末というのは失礼で、かといって一流と言ってはかわいそうなバーにいた。

 彼が先にいたのか、後に入ってきたのか、あなたにはもうわからない。だけれど、気づいた時には彼はあなたの横にいて、なにより「蛇」であったのだ。

 薄情そうで、尚且つ狡猾そうな人間を蛇にたとえることはよくある。だが彼の場合は、違った。確かに狡猾そうではあったが、あなたが彼を「蛇」と見たのは、もっと視覚的、肉体的なものであった。

 話し始めて少しして、あなたは彼の違和感に気が付いた。喋るときは、気を付けているのかあまり目立たなかったが、グラスの縁や自分の唇を舐める際は、見せつけているのではないかと思われるほど、煽情的なやり方だった。

 彼の舌は、二股だった。

 そういう行為をする人がいるのは知っていたが、あなたは遠い異国の風習と同義に見ていた。あなたの目の前に、先が二つに分かれた舌の男が座るだなんて、あなたの人生においては起きないものだと思っていたわけだ。

 彼が口を大きく開けると、舌の切れ目の向こう、喉の奥に続く表面にもいくつか銀色の光沢を放つシンプルなピアスが埋まっており、唾液で濡れ光る様子が一瞬、目に入る。

 あなたはここで男を漁っていたわけではないし、彼も本気で口説いている風ではなさそうだ。さらにいくつか言葉のやりとりをして、あなたが帰宅の意を示すと、彼は実に残念そうな顔をして手を振った。連絡先の交換も何もなかった。そのあとに、「週末はよくここにいるんだ」という不確実にもほどのある情報を添える。

 店を出ていくあなたの背を、彼はじっと、見送っていた。


 ***


 数日して、あなたはあの夜のことを思い出す。

 あの蛇舌の男。

 正直、蛇舌であったこと以外思い出せない。そこまで飲んでいたつもりはないし、どちらかといえば、あなたの記憶力はいいほうだ。

 それにもかかわらず、あのいやらしいといって差し支えなさそうな蛇舌が唇を舐めたり、グラスの縁を撫でたりする様子がフラッシュバックのように、思い出されてつらい。

 そう。つらかった。

 何が何だかわからないが、また「彼」に会いたかった。酒場で二言三言話しただけの、素性のしれない男にこれほど入れ込むなんて。プライドは音を立てて軋んだが、好奇心はきらきらと輝くばかりだ。

 確か、週末はあの店にいるといっていた。

 下手をすると聞き間違いかもしれない。

 かつがれているのかもしれない。

 そう思ったが、思っても、駄目だった。決めてしまってからは、心がいくらか安らかだ。

 だけれど――次の週末が、かつてなく遠く、あなたには感じられた。


 ***


 ふらふらと。ついふらふらと。

 仕事を終えたあなたは、あの店に向かった。

 確かに、週末。けれども、「彼」がいる保証はまるでない。なにより「舌」以外の記憶があまりにあやふやなのだ……「背は高いほうだったはず」「胸板は逞しいはず」「髪は淡い色だったはず」「眼の色は、ちょっとわかんない」……。正直、見つける自信は彼女にはなかった。「彼」が自分のことを覚えていて、声をかけてくれるのを頼りに、待つ。

 隅のテーブルで、弱い酒と、当たり障りのないつまみを頼んで、待つ。

 来ないだろうな、とは思っていた。たとえそうであっても、仕事上がりの身につめたいビールは沁みる。決して居心地も、悪くない。ひょっとしたら、自分が常連になっちゃうかもしれないな、なんて思ったころだ。

 彼は来た。

 当然のようにあなたの隣に腰かけて「会えるなんて思っていなかった」と甘くささやく、彼。


「わざわざ来てくれたの?」

「別に。職場、近くて」

「なんだぁ」


 彼が大げさにのけぞる。


「わたしのこと、おいかけてくれてきたのかもって……期待したのに」


 芝居がかった声音だ。得体の知れない「彼」のことだから、仮に舞台俳優だったりしても納得だが。


「ごめんなさいね」


 真剣でないとわかるから、遠慮なく笑い声を乗せられる。「彼」の瞳も、ふいっと緩んだ。


「とりあえず今夜は、隣で呑んでも?」

「ええ、かまいませんわ」

「光栄でございます」

「ふふっ。もう」


 そうは言ったけれど、彼はほとんどお酒を飲まなかった。ウヰスキーのロックを一杯だけ頼んで、ほとんど口もつけず、氷が解けるに任せている。ごくまれにグラスの縁を舐める舌は、相も変わらず二股の、蛇の舌だった。

 弱いとはいえ酒を飲んでいたせいであろうか。理性のたがが少し外れたらしかった。

 あなたは、普段のあなたなら絶対にしないであろう質問を、彼にした。


「なんで、舌を切ったの?」


 こういうことはデリケートな問題だ。ただ目立ちたくて切るものもいるし、宗教的とさえいえる決意の元に行うものもいる。言ってからあなたは後悔した。自分の細腕では受け止めきれないほどの重たい返答が返ってくるのではないかと思い、あなたは震えた。

 彼は少し考えている風であった。


(そりゃ、考えるよね)


 あなたが非礼を詫びて、質問を取り消そうとした、まさにその時だった。


「……似合うんじゃないかな、と、言われて」


 彼の声音がそこまで考えていなさそうだったのに安心して、あなたは言葉で畳みかけた。


「じゃあ、ピアスとかやってるお友達、いらっしゃるの」

「まぁね」彼はそっけなく答えて、首をひねってぱきぽき言わせる。

「こういう男は嫌いかい」

「いいえ」


 素直な気持ちだった。ピアスの一つや二つで人間性が変わるわけもなし。彼はたまたま人に誘われて、あまり一般的でない場所にピアスが入っているだけの、普通の男だ。

 穿った見方をすれば「知り合いの口車に乗せられてピアスを開ける男が嫌いか」とも取れたが、ピアスに嫌悪感の少ないあなたにとっては、特段大きな問題にするべき項目ではなかった。女友達同士が「あれもかわいい、これもかわいい」と似たような服を批評しながらも買う「お買い物」を思い出して、ほほえましい気分にすらなった。

 あなたのことが伝わったのか、彼もあなたを優しいものを見る目で見ていた。

 やがて。

 これ以上長引くならあなたが言おうと思っていた台詞が、彼のほうから発せられた。


「二度目でこんなこと言うのは、不躾だけれど……良ければ、わたしの家に来ないかな。そんなに遠くはないよ」


 良いも悪いも。

 待っていた台詞だ。

 まったく、自分がこんなにふしだらな女だとは思わなかった。

 「ご迷惑じゃないかしら」を嫌になるほど繰り返して、それでも迷惑じゃないと彼が言うので、お持ち帰り、されてみる気にすっかりなっていた。それに聞く限り、彼の家は一等地にある。そんなところに建っている家ってどんな感じなのか、興味本位で見てみたかった。

 そんなこんなであなたはあっさりと彼に「お持ち帰り」されてしまったわけだ。


 ***


 予想以上に深い酔いのせいで、そこから先はあまり覚えていない。しかし――しかした。

 この状況は、あまりにも異常すぎるのではないか?

 あなたの隣には、彼が寝ている。

 微かな寝息を立てて、なんて描写でもあればしあわせな朝の風景なのかもしれない。

 だけれど彼は寝息を立てていなかった。

 もっと言うと、呼吸さえしていなかった。

 確認したのだから、間違いない。

 死んでいる。

 そうとしか考えられない。

 呼吸の有無のほかにも、冷え切った肌、震えもしない睫毛。そのくせ、腕だけは、生前の腕力を遺憾なく発揮して。 あなたの腕をベッドに縛り付けているのだった。

 空いているほうの手を、そうっと、彼の胸に置く。びっくりするほど冷たい。そして胸も腹も――上下はしていない。鼻、口のそばに手を当ててみたが、呼吸している様子は一切見受けられない。

 すうっと脳裏が冷えていく。

 これでは間違いなく、殺人事件の犯人だ。

 せめてこの場から離れようと、手首に絡みつく死者の指を外さんと孤軍奮闘したのだったが、悲しいことに徒労に終わった。彼の手指はひどく強固に、あなたの手首に絡みついていて、力づくではがすとなるとあなたの爪が剥がれそうだった。

 どうすればいいのであろう。あなたは考えた。

 死体と二人きり、というのもぞっとしない。

 そのうちに死体は腐り始めるだろう。そっれをつぶさに観察して、正気を保っている自信はあなたにはない。腐敗さえ進めば、組織がもろくなって手首くくらいどうにでもなる、と思ったのはやっぱり強がりで、そんな状況になるまで死体と、顔、突き合わせてはいたくなかったし、そこに至るまでの自分の食事やトイレはどうするのかなんて、考えるだけでもおぞましかった。

 今日、明日で、蠅にたかられることはないんじゃないかな。

 そんな希望的観測を心に、あなたの最も長い日は幕を開けた。


 ***


 あなたは何度も、何度も、自分の手首から彼の手を外そうと奮闘した。死体に触るだなんて気色悪くてたまらなかったが、そうもいっていられない。死体の手が冷やっこくて、気の持ちようかもしれないが、なんだかすごく嫌な触り心地だった。生理的嫌悪で滲んでくる涙を拭い拭い、あなたはその冷たい手を引きはがそうとし続けた。

 だが何度やっても駄目だった。

 綺麗に塗られた爪が剥がれて、違う色で全部の指が染まり切ったころにはもう「ダメかも」という思いがあなたの頭を重たくしていた。そこまで頑張った健闘を称えるべきか。

 気持ちが萎えるのと、指の痛みと、さらには疲れとで、あなたの手には力が入らなくなる一方だった。この、万力のような手を離してもらうことを、あなたはもうあきらめかけていた。

 だが、あなたは、ここから出ること自体はまだあきらめてはいない。

 部屋を見回す。余計なものはほとんどない、整った部屋だ。しかしホテルではなさそうだ。彼の自宅だろうか。あなたは少し考えて、違和感に気づく。

 この部屋には窓がない。

 あなたは出ばなをくじかれた思いだった。まずあなたが考えたのが「窓から外の様子を見よう」だったので、早速ほかの手立てを考えなければいけない。

 次にあなたが目を付けたのは、ベッドわきのチェスト。あそこまでなら、腕を伸ばせば届きそうだ。あなたはすぐに行動に移す。片手を死体に預けっぱなしにするのは気持ちが悪かったが、仕方ない。

 幸い、鍵はかかっていなかった。スムーズに引き出しが開く。

 中にはびっしりと細いビニールパックが入っていた。あなたはパッと見、それが何なのかよくわからず、できる限り顔を近づけて注視した。

 何なのかわかった途端に、思わず顔を背ける。

 注射器だ。

 一本ずつパックされた無数の注射器が、引き出しに詰まっているのだ。

 言い知れぬ不気味さを感じて、あなたは引き出しを閉める。そうして、一抹の不安を覚えつつも、二段目の引き出しを開けた。

 おおむね、あなたの予想通りのものだ。外れてほしい予想だったが。

 薬のアンプルと思しいものや、小分けにされた白い粉の入ったパッケージなど。いくら専門知識のないあなたでも、注射器の群れを見た後にたどり着く答えは一つだ。

 麻薬。

 あなたは確信した。ではあなたの隣にいるこの男は、薬のやりすぎで死んだのだろうか。あなたの手首をつかんだまま。なんて迷惑この上ない。わいてきた怒りが、少しだけ、恐怖を和らげる。三段目の引き出しを、いくらか乱暴に開けた。

 天の助けだ。

 そのにはスマートフォンがぽつんと入っていた。型遅れの、傷だらけで使い古した、けれど確かにスマートフォンだ。あなたは無我夢中でその「救い主」を掴む。落とさないよう、安定したベッドの上まで持ってくる。電源は入っていないようだ。充電自体はあるのだろうか? 充電器らしいものは一緒に入っていなかった。こわごわ、電源を入れる。

 動いた。

 小さく、ごく小さくだがあなたは歓声を上げて、スマホを握る手の力を強くした。スマホが起動するまでの時間は、永遠にも感じられた。

 そして起動したはいいものの。


「ひっ」


 いきなりの振動と通知音。マナーモードではなかったようだ。画面にずらりと並ぶ、偏執的なものさえ感じさせる電話番号は、すべて、同じ相手。

 魔がさした、としか言いようがない。

 いったい、いつから電話の相手はかけ続けているのか。それだけ確認して、すぐ警察にかけるつもりだった。

 しかしあなたの震える指は無情にも「通話」をタップした。

 響き渡る呼び出し音。

 途中で切ることもできたはずだ。だがあなたはできなかった。とっさのことで、身体が動かなかったのだ。

 無情にも電話に出る、相手。


『いやぁ、全然出ないんだもの、お愉しみの最中かと思っちゃったよ。実際そうだったりする? ま、その話は今度にしてさ』


 繋がってしまったものは仕方がない。

 相手が世間話を続ける雰囲気だったので、あなたは一気に強気に出た。


「わたし、このスマホの持ち主じゃない。今、一緒にいるだけ」

『へぇ。で、本人は?』

「それが……」


 あなたは蛇舌の彼を一瞥した。相変わらず、微動だにせぬ位置に彼はいて、その手でもって、あなたの自由を拘束している。

 生きてはいないことは、嫌というほど確認した。

 深呼吸を、ひとつ。


「死んでるの」

『……へえ』


 相手の声が半音下がる。

 それでもまだ余裕綽々の口ぶりに、あなたの火薬庫には火が付いた。


『場所は?』

「そんなの、知らない!」


 我知らずあなたは電話口に怒鳴り、向こうの男はやれやれと言いたげな雰囲気を醸し出しつつ「とりあえず、そいつんち行くから待ってて」と言って、一方的に電話を切った。

 いらだちのままに、壁にスマートフォンを投げつけるあなた。壁に当たって、床の角に当たって、スマホはベッドの下に吸い込まれてしまった。

 あなたは片手を死体にくっつけたまま、可能な限り小さくうずくまる。


(早く)

(早く、きて)

(早く、誰でもいい)


――誰でもいい?


 そこであなたははたと我に返る。返って、考える。

 今つながったのは、おそらくこの男の知り合いだ。だとすると、警察よりも厄介ないことになるのではないだろうか。

 死人に口なし、今となっては問いただすこともできないが、決して堅気っぽくないこの男にめちゃめちゃ電話をかけてくる、あの男は何者なのか。

 電話の男が来たのが最後、今度こそ、死ぬか、死ぬよりひどい目にあわされるんじゃないだろうか。あなたの想像、もはや妄想もいいところ、被害妄想は留まるところを知らない。こんな閉じ込められ方をしては仕方ないという声もあろうが。そのひた走る妄想は、意外にも最も建設的な結論で止まった。


(やっぱり、警察を呼ばなくっちゃ)


 だが、無情。

 嗚呼、無情。

 先ほどあなたが激情に任せて振りぬいたスマートフォンはベッドの下で、どこにあるか分かったものじゃない。可動範囲で手の入るところをくまなく探したが、それらしいものには触れることすら叶わなかった。このままだともうすぐ来る。あの蛇舌の友人だか、何だか、とにかく関係者がやってくる。ここが蛇舌の自宅でなければ割り出せまいが、自宅だったら――確実に来る。

 どんな知り合いだったにしろ、自分の知り合いが見ず知らずの女と手をつないで死んでいるなんて聞けば、知り合いとしてはとても穏やかな気持ちではないだろう。状況が特殊すぎて、あなたは頭の中でシュミレーションすること自体を、拒否した。

 そしてどのくらいの時間がたっただろう。


 ぴんぽーん


 気の抜けたチャイムの音で、あなたは身を固くした。


 ***


 部屋に入ってきたのはまだ若い男で、見る限り蛇舌と似ているところは何一つなかった。彼は「レィシィ」と女名前を名乗り、あなたにいたわりの言葉をかけるより早く手帳を取りだして何事か書き記し始めた。あなたがすでに死体だったら、そしてレィシィが刑事だったら、正しい行動だったかもしれない。

 だけれどあなたは生きており、レィシィの職業は不明だ。さすがにちょっと失礼じゃないのと思ってあなたが口を開こうとした途端、先手をレィシィにとられた。


「彼とはどんな関係? 何回会った? セックスした?」


 不躾にも、過ぎる。

 それでも、疲労の度を越してあらゆる物事がどうでもよくなりつつあるあなたは、素直に質問に答えた。


「バーで一緒に呑んで、二回目で……セックス、は……」


 そこで行き詰った。

 常識的に考えるなら、男女が同衾しているという時点で既成事実と言って差し支えなかろう。だがあなたの着衣にはまるで乱れがなく、事後の気配そのものがしていない。なのでそこは、


「してない……かな」


 と答えるしか、あなたにはなかった。

 しかしレィシィとは言えば涼しい顔で「だよねーっ。こいつ不能だもん」と親指の先で死体を指して笑う。

 あなたはかっと頬を熱くした。怒りで。


「そもそもあなたこそ何!? というか、こいつも何!? なんで……なんでこんな目に遭わなくちゃいけないの!」


 そのほかにも意味をなさないことをたくさん喚いたあなただったが、レィシィはうんうんと頷いている。楽しそうですらある。


「なに笑ってんのよ!」

「笑ってないよ。真剣真剣。さ、お嬢さん、落ち着いて……つらかったろう」


 言い切った途端、レィシィの顔が塗りつぶしたように笑顔に変わる。見間違いようもない。嘲笑だ。そして彼が指をさすのはベッド脇。

 今度こそ、羞恥で頬に血が上る。

 あなたには知る由もないが、もう、夜になろうとしている。

 あなたが連れてこられてほぼ丸一日だ。

 だから、仕方ないのだ。

 あなたがお手洗いではない場所で用を足したとしても、仕方のないことなのだ。

 仕方ないと頭ではわかっていても、恥ずかしいことこの上ない、そのうえ、見ず知らずの軽薄そうな男がそれをせせら笑っている。たまらなかった。


「警察……警察を呼んで! 電話、あるでしょ!」


 つい、大きな声を出す。

 レィシィは大げさにのけぞって、今度こそげらげらと笑いだした。


「駄目だね。駄目。駄目駄目」


 ひきつけを起こしたように、体を前のめりに折り曲げて笑い、笑い、笑い、笑う。逆回しさながら、ゆっくりと上体を起こしていくレィシィの腕が、指揮者のように伸びていく。


「今、日は沈んだ」

「吸血鬼みたいなことお言いじゃないよ」


 陶然としたレィシィの囁きに、苦笑まじりの声がかぶさる。

 知っている声。

 もう聞こえないはずの声。

 やにわに手首に痛みが走る。

 はっとしてあなたが振り返ると、「死体」の眼はウインクを返した。


「おはよう、お嬢さん」


 開いた唇の奥。

 毒蛇みたいな、舌と、牙。

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