水の祭典

ふと目に留まった、小さな空き家


雑草が生え、庭の木は生い茂り、家の壁に蔓草がはえている


もう誰の目にもとまることも、主を持つこともない、見晴らしのいい高台にぽつんと立つその家に、不思議と足が進んだ。



ギィィィ―――――――



錆びてしまって、開けるのにも力のいる門を開けると、一歩中に入っただけなのに新鮮な空気が鼻からのどに入り込んできた。


そして、青々とした草木を分けて、鍵のかかってなかったドアを開けた。









「ナナミ、起きて、もう朝だよ」


まだ重たい瞼を頑張って開けてみると、ぼんやりとした視界に、見たことのない黒髪の美青年が映った。


だがそれは一瞬のことで、すぐにいつもの見覚えのある男の子、カイトの姿に変わった。


「あっ・・・おはよう、カイト」


朝から太陽のように笑うその額に、そっと唇を落とし、サラサラとした黒髪に指を通して頭をなでると、ベットから体を抜け出した。








窓から潮風が入り込み、窓の外を見れば、太陽の光をキラキラと反射させた海が見える。そして後方からは、シャルケの怒鳴り声と元気な四人の子どもの明るい声、休暇ということを忘れて、これが日常ならどんなに幸せだろうかと一瞬思い、すぐに頭から消した。


「さて四人とも、今日は町でお祭りがあるみたいだから行ってみよ」
















 今日は年に一度に一度の水の祭典の日。一年で最も国内外からの来客が多く、失敗の絶対に許されない日。


 おまけに今年は聖女様が来ているということで、いつもよりも盛大に催しが企画されている。


 この島の裏側など見せることなど絶対に見せてはならない。


 スラム街をどんな手を使ってでも隠しとおさないと


 一匹のネズミすら逃すことは許されない


 失敗なんて許されない
















 例え化け物と言われても・・・・




















 水の祭典なんて言うからどんな祭りなのかと思って大通りに出れば、いつもより多くの人どおりに眩暈がしてバネッサさんに支えられた。

 そんな私に対して、カイト、シロ、ハク、リツは元気で、さっそく人波に飛び込んで迷子になろうとして、シャルケと護衛たちに首根っこを掴まれた。


「まったく、元気なのはよろしいですが、あれほど勝手にどっか行くなと言いましたよね!」

「えー、だっておいしそうなにおいが!」

「あっちにウサギの競売場が!」

「あそこの冷やしパインが食べたいの!」

「「「「ナナミ(様)早くいこ!」!」!」!」


子どもってなんでこんなに元気なのっと思うほど、ランラン、ワクワクとした目に負け、人波に皆と手をつないで飛び込むと体が勝手にどんどん荒波に逆らっていく。

 そして、後から後悔した。










 前世での修学旅行で行った東京。私はすぐ人酔いして、体が宙に浮いたような状況で、何もかもがふわふわと曖昧な記憶だ。だけど唯一覚えてるのは、みんなにたくさん迷惑をかけたこと。

 

       つまり、結論から言って、無理なものは無理だった。


 結局、人気のないところにつく頃にはシャルケにおんぶされ、ひたすら目を閉じているのが精いっぱいだった。

 なんて情けない自分。何が聖剣の乙女、聖女だ。ひ弱な異世界少女。悪役令嬢ものとかのヒロイン達がうらやましい。


「ナナミ、大丈夫?」

「ごめんなさい。無理やりひっぱったりして」

「これからは気を付けるから・・・その、すてるとか・・」

「ごめんなさい!ううっ、まだナナミお姉ちゃんのそばにいたいよ!」

「・・・・・はい?なんで、あっ」


高台にベンチに横たわらされている私に、まだちびっ子たちは思い思いの言葉を一斉にいってきた。

 でも、カイト以外は凄く顔が苦しそうで、特に兄弟の下二人は、嫌われて捨てられるということに凄く敏感で怖いのだろう。まだ出会って数日、互いにまだ全然知らないけども、謝る姿、楽しそうに祭りではしゃいでいた姿を思い出して、こっちまで胸が苦しくなってきた。

 


「大丈夫、それくらいで嫌いになったりしないよ。三人ともまだ子供なんだから、難しいこと考えず、素直でいいんだ。私もまだ、みんなのことしりたいから、一緒にいて」

「そうですね。ガキはガキらしく、バカなこといっぱいして元気にいてくれるのが一番です。」

「そうね。おばたんも、かわいい坊やたちがいなくなるのはいやだわ」

「みんな、ナナミのこと嫌い?」

「「しゅき!」」

「ふっ、なら決定だね。これからもよろしく」


泣き止んで、嬉しそうなオオカミ達のしっぽが揺れた。










「ところで、ここ随分と見晴らしがいいけどどこなの?」

「さあ、私も気が動転していて…」


 見晴らしのいい海の見える高台。周りには何もなく、お祭りの最中だというのに、静かな空気が流れていた。そして山を少し上ったところに赤い屋根を発見した。








ギィィィーーーーー


錆びてしまって、開けるのにも力のいる門


雑草が生え、庭の木は生い茂り、家の壁に蔓草がはえている


そして高台の見晴らしの良い丘の小さな一軒家


(これって・・・・・)


「ナナミ!バネッサが鍵開けてくれたよ!」


(やっぱり・・・・・)


「この家、少し不思議ですね」


(夢の・・・・・)


「では開けますね。皆さんいいですか?」


(その先には何が・・・・・)












「えっ!」










   


                                  つづく

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魔王さまといっしょ ビターラビット @bitterrabbit

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