海上都市 ジグラル


 私達は国王夫婦のご好意を受けて、海辺の街 ジグラルに屋敷の半数の使用人と騎士団を連れてやって来たが、今現在、島へと渡る船の上から噂以上に美しい街並みに度肝を抜かれていた。



 イメージで言うと写真でしか見た事がないが、アマルフィ海岸の島バージョンと言った感じで、そこにプラスして、島の所々に見える小舟が、プールの長いスライダーのようなものをロープウェイのように上ったり、下りたりしていて、カイトと二人で身を乗り出して驚いた。

 おまけに、所々に緑が生い茂っていて、自然と共存した環境に優しいといった都市に遠目だが見えた。



「ど、ど、どうなっているのこの島!?」

「ナナミ様、この島はカジノやリゾート施設で財をなしてるんですよ。チッ、はぁ…悪い男にはご用心下さい」



シャルケが後ろから、私が船から落ちないように親切に体を支えてくれながら教えてくれた。しかし、この島で何かあったのか、いつもより声のトーンが低くて、一瞬寒気を感じたが、それより私は未知の島に興味が深々だ。



「ナナミ、浮気、ダメ絶対、だよ?」

「勿論、そんなのあり得ないから安心して、

(なんてたって、私はカイト崇拝会の信者だからね♪)うふふっ」

「本当?絶対?嘘ついてない?」

「ほんとほんと、代々、私なんてモテないよ。私よりシャルケのほっ…」



私は後ろを振り返りかけて、急いで視線を外した。



「えと…兎に角!旅行だからカイトと久しぶりにずっといられるし、ゆっくり楽しもうね」

「うん、ナナミから離れない」



最後に指切りげんまんして、暫くテラスから潮風に当たったら、私達を乗せた船はようやくジグラルに上陸した。







 船を下りてまず目に入ったのは、動物の耳と尻尾のはえた、所謂、獣人が多い事だ。そして下半身が蛇のような人間など、レイン王国ではあまり見かけない種族が多くて驚いた。



「え…本当にここ、レイン王国なの?」

「そうですよ。ここはレイン王国唯一の商業都市と言っても過言ではない島ですからね。さて、ナナミ様、この島、ジグラルといえばカジノなんですよ?そういう事で、ナナミ様、早速カジノに…」


いつの間にか隣にきて解説してくれたバネッサさんの目はランランとしていて、私は急いでカイトの瞼を左手で覆った。そしてその後ろに鬼のような形相のシャルケが…



「バネッサさん?すいませんが、私は未来永劫カジノには行くきはありませんよ」

「ふふ、何をおっしゃられますか…ナナミ様?カジノは男に酒に、とても楽しい場所なので、休暇には…」

「メイド長殿……感心しませんねぇ、それは悪徳書のやる口では?それに、、カジノに行く気も、行かれることも絶対にありませんので、諦めて下さい、ね?あと…お気づきですか?ナナミ様は、未成年ですよ?」

「シャルケさん、そんな堅苦しい事いわず、ねぇ、ナナミ様?大人の階段をほんの登られても、誰も怒りませんよ?」

「全く、大人のとは、貴方のような人だとお気づきですか?」

「あらっ、シャルケさん?、ジョークも言えましたの、ね?」



カイトという小さな子どもの入る前で、


悪い大人代表のメイド長

           VS

             女騎士(メイド)


という感じで、二人とも恐ろしいほどよく出来た笑顔で互いに威嚇をしあっているので、ここは主として、しっかり止めに入った。 



「あの…バネッサさん?今日はお休みでもよろしいですよ。私の所に来てからずっと忙しかったでしょうし、それに…うん、一ヶ月もありますから、少しくらい皆さんにも休暇を与えないと…」

「待って下さいナナミ様!そうやってこの悪い大人を甘やかしては…」

「まぁ、流石ナナミ様!マジで感謝しますわ!では、シャルケさん、そういう事で後は頼みましたから…」



そう言い残すとバネッサさんはあっという間にカジノ行きの水上バスに乗りこんで、風のように去っていった。お陰で私は見事にポカーンとなった。



「はぁ…全くあの人は…」

「さてと…カイト、私達は何しよっか?」

「うん、ジグラルなら…」

「ねぇ、カイト、さっき小耳にはさんだ話だけど、ジグラルって、お魚が美味しんだって、あとね、異国の宝石や品物がいっぱい市場にあるらしいよ。どんなのがあるのか楽しみだね」

「うん、楽しみ〜」

「あっ!あの…差し出がましいようですが、ナナミ様?カイト様?私もご一緒しても宜しいでしょうか?」

「勿論」

「シャルケも一緒に行こ!」



その後、荷物は他の使用人さん達が届けてくれるという報告を貰ったので、私達はそのまま市場に直行する事にした。









「見てみてカイト!透明になれるマントだって!」



「ナナミ、魔物の鳴き声の笛だって!」




「こちらの布でドレスを作ったら、きっとナナミ様によく似合いましょう」



三人とも珍しい品々に翻弄されて、気づけば大荷物になっていて、護衛でついてきた騎士達の腕が埋め尽くされていた。



「少し、買いすぎましたね」

「騎士達、腕大丈夫かな?」

「あの程度で値を上げるようでは、騎士失格だと思います。でも、取り敢えず、そろそろ昼時ですし、ここらで休憩にしましょうか」



ちょうど市場の端に焼いた大蛤を売っている店があったのでそこで買って立ち食いをしていると



「あ…っ」



後ろでバタッと誰かが倒れる音がして振り返ると、獣人の小さな女の子が尻餅をついて涙目になっていた。さらにその後ろから二人の獣人の男の子が来た。



「こら、リツ、お前は体が弱いんだから走るなって…」

「ごめんなさい。でも…」

グッ、ギュルギュル…



リツと呼ばれる女の子のお腹の虫が鳴り、リツちゃんは顔を赤らめて私の蛤をチラッと見たので



「蛤、食べる?」

「え、本当に!」

「こらリツ、観光客の人に迷惑は…」

「ほらリツ…」

「気にしなくていいよ。少し待っていてね」



私は三人分の焼き蛤を買うと、三人にあげた。

 三人ともかなりお腹が空いていたのか、最初は本当に食べていいのか迷っていたが、最終的に匂いに負けてがっつき、幸せそうに食べてくれるのでつい微笑んでしまった。



「この身なり、スラムの子でしょうか…」

「えっ…?」



小声で隣からシャルケが話しかけてきて、頭に?を浮かべると、すぐに察したシャルケがこの島にあるダークゾーンの話を教えてくれた。

 その間にいつの間にかカイトと仲良くなっていた三人は、蛤を食べ終わったみたいで、凄く子どもらしいキラキラした目をしていて、とても悲惨な境遇には見えなかったが、光ある所には、やはり闇があるのは本当のようで、茶色の黄ばみ、所々ほつれている少し昔の服は、確かにここら辺ではあまり見なさそうな格好だった。



「ねぇ、貴方達、親御さんは?」

「えっ…」

「グッ…」

「あぁ、ごめん姉ちゃっ!貴族のお姉さん、俺達そろそろ…」

「ねぇ、貴方達、家がないならうちに来ない?」

「ちょっ、ナナミ様!」

「え!シロ達うちで働くの!」

「三人とも、是非お願いね」



 その後すぐ、私はシャルケに後ろから正気かと肩を掴んでグラグラと揺らされてきもち悪くなり、リツちゃんの腕の中で嬉しそうにカイトは三人を口説き始めた。

 そして三人は、新しい下男と下女として、屋敷で働く事が決めた。












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