第19話 日向ぼっこしよう
「マスター。お客さん来ませんねえ」
「うん。いい天気だからね。みんな健全に外で活動してるんだろう」
「いいんですかそんなことで」
「いいよー」
ジュンは土曜の午後にもかかわらずお客がゼロのまま二時間経過したこの純喫茶ルーシーの将来を憂えて、企画を立てた。
『カフェでひなたぼっこしませんか?』
「ジュンちゃん。趣旨は?」
「縁側席を作るんです」
「えんがわ?」
「ほら。ここって駅の隣じゃないですか。乗降客の人いきれでねとねとした空気が流れ込み、電車の発着の度に騒音計の数値が上昇する」
「はは。いいことないなあ」
「でも、この駅側のスペースに縁側があれば」
ジュンはそう言って駅の駐輪場と店の窓側席の間のスペースを手の平で指し示す。
「きっとお客さんが来ます」
「店内と同じようにコーヒーカップでお出ししたら保健所からクレームが来るでしょうからテイクアウトの容器で提供します」
「めんどくさいな」
「この席の特典として菓子盆を置きます。取り放題です」
「子供の駄菓子ばっかりだね。余りお得な感じがしないな」
「何事もやってみないと」
常連さんを生贄にした。
「えー、俺、やだよー」
「上野さん、そんなことおっしゃらずに。どうぞどうぞ」
「いいよいいよ」
「どうぞどうぞ」
「いいよいいよ」
「ささ、どうぞどうぞ」
「ノノ、いいよいいよ」
上野は常連という立場上、結局座った。
「ジュンちゃーん。寒いよー」
「おひさまがあったかいですよ」
「風が冷たいんだよー」
3分と経たない内にまた上野から呼ばれる。
「ジュンちゃーん。電車がうるさいよー」
「上野さんは子供の頃、電車を見たいと駄々をこねて近所の踏切までお父さんに連れて行ってもらってたんじゃかなったんでしたっけ」
論破した後でまたジュンは呼ばれた。
「ジュンちゃーん」
「今度はなんですか」
「ノラ猫が来ちゃったよー」
見るといつも駅周辺をウロウロしている虎猫が、隣のベンチに座っている。
別に邪魔にならないのでは?とジュンは思ったが、ノラ猫と目を合わせただけで、ぎにゃー、という声を立てて上野とジュンを睨みつけてきた。
「ふむう・・・課題は三点ですね。①寒い②うるさい③ねこが来る」
「そういう問題じゃないのでは・・・」
「はっ!マスター!」
「な、なに?」
「全部一気に解決できますよ!」
「ほう・・・どうするの?」
「猫カフェに業態転換しましょう!」
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