第20話 バンを晩に運転してバンガローに行こう
「長い道のりであった」
「うむ。ご苦労」
ジュンが運転席で
2人がジュンの父親から借りたバンでやってきたのは東京と埼玉の境あたりにあるキャンプ場のバンガロー。
先週免許を取ったばかりのジュンは一応ジュンよりも先にペーパードライバーとなっていた小寺に指導してくれと過度な要求をし、いきなりジュンの父親から借りた大型バンを運転して三時間、しかも結構な山道をうねうねと登坂してきてバンガローにたどり着いたのだ。
出だしから大変だった。
「ちょちょちょ。ジュン。サイドブレーキ解除してないよ」
「あれっ?どうりでアクセルいくら踏み込んでもスピード出ないと思った」
途中のサービスエリアで駐車場にバンを止める時も、小寺がわざわざ後ろに立って合図してやっていたのだが。
「オーライ、オーライ」
小寺は手招きするようにジュンに合図を送るのだが。
「オーライ、オー・・・おお!?」
小寺が大声を上げる。
「ストップストップストーップ!!」
バックのままジュンが小寺を轢きそうになったのだ。
「ジュン!死ぬかと思ったよ!」
「ご、ごめん・・・バックモニターから小寺ちゃんが消えたもんだから・・・」
このキャンプ場は車でバンガローの横まで乗り入れることができるのでとても便利だ。ジュンは今度は頭から突っ込んで前向き駐車をした。
そのままリアハッチから食材と飲み物をバンガローに運び込む。
「ああ・・・一度でいいからこれを集中的に食べてみたかったんだよね」
「そうだね。ジュンはこれ好きだもんね」
ジュンは我ながら安上がりな女だと思った。
バンガローで自炊するにあたって家族に気兼ねなく食べたいものを思いきり食べようと買い出して来たのは幾種類ものツナ缶。
たくさん買ったところでたかが知れている安さだ。
「じゃあ、料理しますか」
バンガローのキッチンはIHでとても新しく作業も快適だった。ジュンも小寺も日常的に料理をしているので短時間でどんどんとおかずが出来上がっていく。
ただ、なんだか所帯じみた惣菜ばかりになってしまった。
「やっぱりバーベキューにした方が良かったかな」
「いいよいいよ。バーベキュー広場でわいわいするのもいいけど小寺ちゃんとわたしとで水入らずもいいもんだよ」
「ジュン、嬉しいこと言ってくれるね」
「愛してるから」
小寺はビールを、ジュンはサイダーを飲み、
お風呂も入り二段ベッドでジュンが上、小寺が下で話し始めた。
「ジュン。好きな人っているの?」
「お」
「なーによ」
「さすが小寺ちゃん。『彼氏いるの』じゃなくて『好きな人いるの』っていうのがすごくいいよ」
「文学部ですから。で?いるの?」
「・・・・・・・・・・いる」
「ほう!」
「で?小寺ちゃんは?」
「ちょいちょいちょい。そうじゃないでしょ。ジュンの好きな人の話でしょ」
「やっぱり。言わなきゃだめ?」
「だめ、ってことないけど。だけどジュンのことは知っておきたい」
「そっか。あのね」
ジュンはベッドの上段から身を乗り出す。小寺も顔を出して、ジュンが小寺の耳元まで唇を近づけて、そっと囁く。
「・・・・・・・だよ」
「え!あ・・・でも、そうか・・・ジュンらしいよ」
「小寺ちゃんは?」
「ごめん、期待に添えなくて。わたしは今いないんだ」
「今、ってことは、前はいたんだね」
「うん」
「その人のことは。今はどうなの?」
「もう好きじゃない」
どうしてだかジュンはこう思った。
「ねえ、小寺ちゃん」
「なに」
「月、観に行かない?」
キャンプ場のてっぺんに展望スペースがある。
東京23区の夜景も見えるし、夜空の星も観えるのだけれども。
ジュンは月が観たかった。
「いい月だね」
「うん。いい月だ」
「小寺ちゃん」
「なに」
「好きな人できたら言ってね」
「うん。分かった。ジュン」
「なに」
「好きな人に告白する時、言ってね」
「うん・・・うん。言うよ」
「妨害するから」
「・・・・・はい?」
「ジュンはまだまだわたしのものだから」
「小寺ちゃん・・・エッチだね」
「そうだよー。今夜もどうなるかわかんないからね」
ふたりしてもう一度、月を見上げた。
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